私はドローイング(線画)制作中に、ふと「これ、ひょっとして音楽を描いている?」と思ったので、自分の線画を「線譜」と名付けました。
視覚と聴覚を両方用いた表現なら映像などがありますが、なぜか絵で音楽を表現しようとしているのです。しかしそれは音を画像に、数学的に変換するということではありません。漠然とした「音楽」に対するイメージの一端が、自分の描いている「線画」と重なる瞬間があっただけのことでした。
2009年に個展『RealFantASIA』から、音楽を描いてはや10年。
なんとなく感覚的に「音楽を描いてる」ってだけでは、チコちゃんに「ボーッと生きてるんじゃねえよ!」と叱られてしまう感じがするので(というか、ボーッと生きてるんですけどね)、ちゃんと体系的文脈的なことを語れるようになりたい。
ということで、音と絵の関係についてテキストを書いてみたいと思います。
●カンディンスキー『点と線から面へ』
音を絵にする画家は、もちろん私が最初ではありません。まず、カンディンスキーとパウル・クレーが挙げられます。二人は同時代ですね、アトリエもシェアしてたようです。
有名芸術家は、ほとんどお友達なんですよ。有名になる人は、有名になる人と、有名になる前から、縁があるんです。これを私は「トキワ荘の法則」と名付けています。
カンディンスキーといえば、なんといっても「抽象画の創始者」として有名です。美術理論家としても活躍していたようです。
著書に『点と線から面へ』があります。
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480097902/dgcrcom-22/
「抽象画の理論もちゃんと分かっておかないとなあ」と思い、私もこれを去年の5月に買いました。しかし、まだ読み終わってません。なぜか? 何を言ってるのかさっぱり分からないのです!!
例えば、“垂直の位置「暖かい静寂」 水平の位置「冷たい静寂」”とか。
「はあ!?」と思うのですよ。しかも、「は」と「あ」の字を物凄く大きく太いフォントで書きたいくらいに。
科学的な分析方法で抽象画理論に迫ろうとしているのが、余計にわけが分からないのです。
「カンディンスキー先生、もっと分かりやすく教えて頂けないでしょうか?」と質問しても、「バカモーン、お前の理解しようとする努力が足りないのだーっ!」と叱られてしまいそうです。
実際に線を見せながら脳をスキャンして、「垂直と暖かい」と「水平と冷たい」が関連しているのか、1万人以上で実験して、共感覚の典型なのか何なのか調べてくれないのかなあ、とか思いました。
私は天地がない線譜を描いて来たので、水平と垂直を別ものとして捉えてません。そこでカンディンスキー先生の「垂直と暖かい」と「水平と冷たい」が、まるで公理のように書いてあるので、のっけから挫折してしまったのです。
それから分からないなりにちょっと思ったのが、絵の要素を抜き出して還元的に分解して、内面的感性と結び付けるのに無理がある気がしたのです。
絵とは「全体」で観るものなので、還元された要素の総和ではなくきっと「創発」が起きている。すべての芸術はそうだ。単純なリズムを繰り返すミニマルミュージックを聴いてるうちに、単純なリズムを足し合わせた総和とはまったく違う、内的印象が湧き上がってくるものだ。
また素晴らしい芸術作品は、その一部を抜き出しても素晴らしいことが多く、作品の一部に作品の全体が含まれているような、フラクタルな性質もある。ビートルズの曲は、0.1秒聴いただけでもビートルズっぽい音だと分かるように。
全然数学のことは分かってないですが、「複雑系」とか「非線形」とか、そういうのが関わってると思うし、物理学で言えば、古典力学だけでなく量子力学的な不可解に感じる成分がとても大きいと思うのです。
と、カンディンスキー先生の本が理解できないものだからって、屁理屈を並べてしまいました。これからちゃんと読み終えて、芸の肥やしにいたします。
1928年の著書なので、現代の科学と技術でもう一度、この『点と線から面へ』を確認したら面白いなあと思ったのでした。
ワシリー・カンディンスキー
https://ja.wikipedia.org/wiki/ワシリー・カンディンスキー
●ブーバ・キキ効果
ところがですね、もっともシンプルな音と形の関連性が認められている事例があるのです。還元的な要素はあるのです。
これは『点と線から面へ』が刊行された翌年の、1929年に報告されています。カンディンスキー先生はどう思ったのでしょうね。
〈ブーバ・キキ効果〉
下にふたつの図形を示します。このうちひとつは「ブーバ」、もうひとつは「キキ」という名前がついています。どちらがブーバでどちらがキキか、ちょっと考えてみてください。
ほとんどの人が左の丸い図形を「ブーバ」、トゲトゲした図形を「キキ」と答えるのです。
現在では口唇の形からそのように感じるという説が有力らしいです。ブーバと声に出す時は唇は丸まり、キキと言う時には唇は少し尖ります。
「心理テスト “ブーバ・キキ効果” とは?」
ブーバ・キキ効果
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%90/%E3%82%AD%E3%82%AD%E5%8A%B9%E6%9E%9C
このように、音そのものがある特定のイメージを喚起する事象を「音象徴」というそうです。
音象徴
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9F%B3%E8%B1%A1%E5%BE%B4
ちなみに「音象徴」のウィキペディアを見てみると、「この「象徴(symbol)」は恣意的な「記号(sign)」と対立して用いられている概念である」と書いてあります。
「記号」と「象徴」の違いって難しいですよね。興味のある方は、こちらを参照してみてください。
「象徴と記号の違いを200字以内で説明せよ」
http://www.shinri.or.jp/blog/2011/06/post_194.html
ブーバ・キキ効果のように、音と絵が恣意性なしに結び付いているパターンは他にもありそうです。
大きい絵は大きい音。小さい絵は短い曲。明るい色は高い音、暗い色は低い音。これらはなんとなく普遍性がありそうですね。
それから、色彩は音ととても関連性がありそうです。現在私はモノクロの線画を描いているので、そこがまだ開発できてないなあと思っています。
色彩はメロディ、形はリズムを担当している感じがあります。音色という言葉があるくらいですから、もちろん音色は色彩なんでしょうね。リバーブやディレイやディストーションなどのエフェクターは、彩度や色相を変えるような感じがあります。
●音を絵に表すプロセス
音を絵に表す時、どんなプロセスを経るのでしょうか?
音楽を聴くと絵が頭に浮ぶ。それを絵に再現する。といったやり方ではありません。
最初に画面の中のどこか適当なところに筆を入れ、適当に動かします。自分が描いた筆跡を見つつ、次の手を無意識的に動かして描き進めて行きます。
無意識的に当てずっぽうに描くのですが、線が描かれるたびにどう動かすをカンで判断するのです。
例えると、目的地があってそこに向かって歩くような線ではなく、目的もなくぶらぶらと道草を食う、散歩のような線なのです。描きたいところが見つからなくなったら、どこか適当な場所に適当に線を描き、そこからまた行き当たりばったりに線を伸ばしていきます。
これらの適当の積み重ねが「創発」を起こして美しくなる、美しくなって欲しいと願いを籠めて描いていくのです。なぜ「適当」に描き進めたいのかというと、恣意的な仕上がりにしたくないからです。
例えば、カビが増殖して画面いっぱいに広がり飽和したような、または白い床に長年の傷や汚れが蓄積してできる経年劣化の風合いのような。恣意的な〈私〉が存在しない画面にしたい想いがなぜか強くあったのです。
これは、先ほど音象徴のウィキペディアに記してあった「恣意的なもの=記号」にしたくないのもあるのでしょう。
また、行き当たりばったりに描くのは「再現」からの逃避もあります。再現とは私にとって最も苦手な、「写実的なデッサン」を意味するからです。恣意性を感じさせない再現って、あるとは思うんですけどね。行き当たりばったりの「即興性」は私にとってはとても音楽的だったのです。
ところで、カンディンスキーは1912年に出版した著書「芸術における精神性」で、「印象(impression)」「即興(improvisation)」「構成(composition)」の3つの型の絵画を定義したとあります。
「ワシリー・カンディンスキー / Wassily Kandinsky純粋抽象絵画の創立者」
https://www.artpedia.jp/wassily-kandinsky/
カンディンスキーの場合、構成の(composition)とは「作曲」の意味に近いと思います。
線譜で『improvisation』シリーズを描いていた時、私は「カンディンスキーってコンポジションなんとかってタイトル付けてるよなあ」くらいしか知りませんでした。しかし、音楽を描こうとしたカンディンスキーと被ってると、やはり何か、音と絵に人類共通の関連ってあるんだろうなあって思ったのでした。
また、カンディンスキーはシュタイナー(神智学)の影響を受けているようで、そのこともまったく知りませんでした。(シュタイナーはその後「人智学」と変えます)……と書いたところで、かつてのデジクリで書いていました!
パウルクレー展に行こう!(2006年08月09日)
https://bn.dgcr.com/archives/20060809140000.html
山:カンディンスキーは神秘主義 。シュタイナーに傾倒してたはず。
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480872868/dgcrcom-22/
武:ふむふむ、カンディンスキーは学者でもあるわけでそ。で、ロシアの片田舎で原始信仰に目覚めるんだよな。アニミズム。
山:あ、そうなんや。そら知らんかった。
山根がひとことカンディンスキーとシュタイナーに言及していました。
私もシュタイナーはワタリウムに見に行きました。2014年ですね。
「ルドルフ・シュタイナー展 天使の国」
http://www.watarium.co.jp/exhibition/1403steiner/
また、著書『いかにして超感覚的世界の認識を獲得するか』も、キンドルで去年の1月に読んでます。
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B01B7M5AO0/dgcrcom-22/
シュタイナーもなんだか、私にはまったく分からないんですよね。何かとても深そうで、言葉も断片的には分かるのですが、難解なのです。その難解さがカンディンスキーと似てるのかも知れません。
しかしそれは、私が常日頃思っている「描くとは祈りである」とひょっとしたら重なるのかも知れません。超越的な何かを夢想してる、と言う意味において。
●描くとは祈りである
祈りとは祈りを捧げている時間の中に存在します。なので、私はどこか「仕上がった絵」よりも「仕上がるまでの過程の中」に絵の内容が存在していると思っています。
それは奏でてる間に音楽があり、演奏が終わる、つまり演奏が完成すると音楽が消えてしまうことと似ています。
実際の音楽では演奏が終わると作品は消えてしまいますが、線譜では演奏のすべてが含まれた状態の姿で「永遠」となります。それは(音楽的)時間が止まった状態です。誰かの心に調べが響いたら、線譜は再び動き始めて「完成」となります。これが祈りの音楽性だと思うのです。
描く行為がそのまま残っている原画と、形成されるプロセスが違う複製品との違いは、生演奏とCDに近いのだと思います。
ミュージシャンはまずはCDを売ります。今なら配信かも知れませんが、生演奏よりもデータを積極的に売っています。だとすると、画家はもっと積極的に複製品を売ってもいいのだと思います。
ということで、今回は「カンディンスキーと私」と題して書いてみました。私もカンディンスキー同様に、これからはコンボジション(作曲)がメインになって行くのかも知れません。
カンディンスキー先生、これからもよろしくお願いします!
【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/タケリー・ジュンディンスキー】
絵画レンタル/販売のCasie かしえ主催のオークションに出品します!
第2回カシエカジュアルアートオークション
2019年3月23日(土)
会場:ちゃやまちプラザ(大阪府大阪市北区 茶屋町17-1)
https://osakabay.keizai.biz/release.php?id=9404
よろしくお願いします!
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