羽化の作法[95]現在編 目の前の景色は本当にこの姿なのか?
── 武 盾一郎 ──

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近所のスーパーに歩いて買い物してる時とか、散歩とかしてる時によく思うんです。

「この目に映っているこの風景は本当はこうじゃないんだろうなあ」って。

何かにぶつかって反射してきた光の、ほんのごく一部を目で受信して脳で描像して、それを世界の姿だと思っているわけですから。

例えば、反射する光ではなくて物質や生物が発する光を描像したら、違う世界が見えそうですよね。

ちょっと意外な感じがしますが、私たちはみな発光しています。物体もです。反射した光よりもそれ自身が発する光を捉えた方が、「存在の本当の姿」に近い感じしませんか? では、どのような見え方になるのかというと、サーマルカメラみたいな感じになるのかもしれません。





〈サーマルカメラには、撮影の為の光源が一切必要ありません。通常のカメラは、物体に当たって跳ね返った光を捉えることで、映像を撮影しています。そのため、撮影には必ず光源が必要となり、その光源が少なければ少ないほど、ハッキリとした映像を映すことは難しくなります。

しかし、サーマルカメラが捉える遠赤外線は映したい物体自身が発している光の為、映像を映すのに一切の光源を必要としません。つまりサーマルカメラは、一切の光源が無い真っ暗闇でも、反対に逆光など明るすぎる場所でも、関わりなく安定して映像を撮影することができます。〉
https://systemk-camera.jp/camera-blog/knowledge/thermal.php


ちょっと、思ったより神秘的な光景にならない感じですが。でも、これで世界を描像できたら、夜でも行動できたのにね。しかし、我々ホモ・サピエンスはこの機能を搭載しせんでした。夜目が効いて他人のすかしっ屁が見えても、種の保存には役に立たなかったからでしょうかね。

「Farts on Thermal Camera - People caught farting!」


また、電磁波じゃなくて音波を受信して、空間を描像する脳だったらどんな世界なんだろう? それはコウモリやイルカの世界ですよね。

「エコーロケーション」
〈動物が音や超音波を発し、その反響によって物体の距離・方向・大きさなど
を知ること。コウモリ・イルカ・マッコウクジラなどで知られている。〉
https://kotobank.jp/word/%E3%82%A8%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-444407


夕焼けが静まった薄暗がりの中、すぐそばの鴨川沿いの道ばたで、コウモリが飛んでいるのをよく見かけます。同じ場所にいるコウモリと私。コウモリさんはどんな世界を見てるのでしょう。

嬉しいことにエコーロケーションは、私たちサピエンスにも備わっています。習得するのに訓練が必要なようですけど、私にもできるだろうか?

「一部の視覚障害者は、自ら発した「音の反射」から景色を“見る”ことができる──そのメカニズムが明らかに」
https://wired.jp/2017/10/21/expert-human-echolocator/


手の届かない空間を音で描像するエコロケーション、とても興味深いです。また、物体や人や樹木など、触れるものを叩いて音だけで描像する世界も、目で見る世界とは異なる描像になりそうですよね。

電磁波ではなく音で描像された世界に棲む場合、「音楽」はどんな存在になるのでしょう?

それから、すべての物質は小さなエネルギーのひもでできているとするならば、今見えているバラエティーに富んだ光景の正体は、ひもの振動だということになります。

超弦理論
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6%85%E5%BC%A6%E7%90%86%E8%AB%96


本当にあるのは、「鉄筋コンクリート」とか「木材」とか「アスファルト」とか「植物」とか「鳥」とか「青空」じゃなくて、「ひもが震えてる」わけで「波」があるだけなんです。そう思うとなんか不気味で怖くないですか?

私の正体も「震えるひも」で、波の複合体なんです。この宇宙はひもが震えているだけで、目に見えている美しい光景は、私たちサピエンスの脳が盛りに盛ってインスタ映えさせてくれた、「仮初めの姿」に過ぎないのかも知れません。

手塚治虫の漫画『火の鳥 5巻 復活編』を思い出します。

「2482年のある日 ひとりの少年がエア・カーから墜落死した…」から始まるこの物語の主人公レオナは手術で生き返るのですが、人間が泥の塊のような岩に見えてしまうのです。面白いことに手触りも土くれに感じるのです。彼の主治医のニールセン博士は「もしそうだとするときみが狂ってるんだ…」と言い、手術をやり直します。それでもレオナには人間が人間に見えず、今度はトゲトゲした無機物に見えてしまうのです。そこで博士は言います。

「やっぱりそうか レオナ君 気の毒だがその原因は人工頭脳にあるらしいな なにしろ小脳全部と大脳の大半を人工頭脳と交換されたのは……前例がないのでね」

いやこれ無責任過ぎるだろ!って突っ込みたくなるのですが、そこでレオナがただ一人人間に見えたのが、ロボットの「チヒロ61298号」だったのです。

それから二人は恋に堕ちて云々〜と続くのですが、その先は壮大で切ない物語が繰り広げられますので、読んだことのない方は是非『火の鳥』全11巻+別巻をすべて読むことを強くおすすめします。

話を元に戻しますと、人間側の姿は何も変わらないけど、脳が変わると泥の塊にもトゲトゲした無機物にも見えたりするのです。つまり、私たちが見ている人間の姿も脳がそのように見せてるだけで本当のところは分からない、という設定がここにはあります。

地球上の生物にとってこの星は同じ星ですが、生物種が違えば見えている風景も当然違っているのでしょう。同じ人間でも、親しい人ですら同じ景色を前にして「まるで違う情景」を感じていたりするものです。

なので、支離滅裂かも知れませんが、「脳で創作していない生の本当の風景の姿を見てみたい」と思ってしまうのです。脳がないと見えないので無理なんだけど。

●脳がなくても見えるのか?

でも待てよ、植物に脳はない。植物は外の景色はまるで見えていないのだろうか? そんなこともない。まるで周囲が見えてるかのような「クラウン・シャイネス」という現象があります。
http://livedoor.blogimg.jp/karapaia_zaeega/imgs/5/a/5a7ba1f6

『植物すげぇ!!木々の葉がお互いに譲り合った結果、空が割れたように見える「クラウン・シャイネス」現象とは?』
http://karapaia.com/archives/52200866.html


「これは樹冠が重なり合うことなく、空間を分け合う、多くの樹木が同時に成長した時にのみ起こる現象だそうだ。お互いの葉が重ならないように、『どうぞ、どうぞどうぞ』と譲り合いながら成長していく。この現象は1920年代から科学者により議論されていたが、いまだその理由は十分に解き明かされていない。」

これ、木々がコミュニケーションを取っているのは確かですよね。

一体どんな方法で? 素人が思い付くのは
1・やっぱり見えている(電磁波を感知している)
2・葉っぱから物質を放出して受け取っている(嗅覚みたいな)
3・葉っぱが揺れ擦れる時の音とか何らかの(超)音波を発して受け取っている(聴覚みたいな)
4・葉っぱが揺れる時の風を感知してる(触覚的な)
5・(気ってなんだか分からないけど)気を発して受け取っている(木だけに)

私が何分か考えて思い付いた、この中のどれかが正解だったら、もう解き明かされてますよね(笑

一体どんなメカニズムなのか、それが分かる日が近いうちに来ることを期待しましょう。

続けて植物の話を続けます。で、目の起源は植物になるらしいのです。
https://pbs.twimg.com/media/DpNC7HJUcAADose

「光合成をする遺伝子がプランクトンに移動して最初の“目”が誕生した!」そうである。

『動物の目の起源は、光を感知する植物プランクトンの遺伝子が動物に乗り移った「遺伝子の水平移行」 #又吉直樹のヘウレーカ』
https://togetter.com/li/1275554


光合成が目の起源ってのは、なんだか壮大な感じしますよね。

植物が電磁波を感知することは確かです。では、植物には世界が見えているのだろうか?

光を感じるセンサーがあっても、それらを描像する脳がないと「見える」とは呼べないのだろうか。そうすると脳のない植物に意識は芽生えそうにないが、どうもそんな気がしない。果たしてどうなんだろうか?

電磁波を感知する器官が目だとすると、皮膚だって太陽が当たったところだけ暑く感じるので、ちゃんと電磁波を感知してる。ってことは、皮膚もある意味「目」っぽい。私が世界と対峙する時、その風景を目玉だけで見ているわけではなく、全身の皮膚でも見ている。

本当は「全身で見て」「全身で聞いている」。世界は私の全身。

てことは、ひょっとしたら目の前に広がる風景は《私》ってことなのか?

私はあなた。あなたは私。。。

そんな考えごとをしてると、気が付いたらスーパーでシュークリームを買っていたりするんです。でもちゃんと「20%引き」のを選んでるので、多分まだ大丈夫。(つづく)


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星野智幸コレクションI スクエア
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星野智幸コレクションIII リンク
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星野智幸コレクションIV フロウ
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