武&山根の展覧会レビュー 特別編 うわさの靖国神社・遊就館に行く その2
── 武 盾一郎&山根康弘 ──

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(その1は2044号に掲載)

●特攻機デザインと特攻

武: 絵は息抜き(笑)。そんでね、零戦とか特攻機とか人間魚雷とか展示してあったでしょ。
山: あったな。
武: 特攻機が一番小さかったかな。
山: あの白いミョーな飛行機な。
武: 少ない材料で最も速く効率的に体当たりする為だけの戦闘機なんだろうけど、究極の効率を求めると、かわゆいデザインになってしまうのね。零戦もなんかおちゃめなフォルムだし、なんでだろうなあ。
山: 全体的に丸っこい形やったな。飛びやすいんかな。戦車は違うかったけど。
武: なんか、あの特攻機のフォルムから鉄腕アトムを連想するのはたやすいというか。本当は玉砕自爆のもの凄い乗り物なのに。
山: 特攻兵器について。
< http://ww31.tiki.ne.jp/%7Eisao-o/battleplane-12tokubetu.htm
>
< http://landinggear.hp.infoseek.co.jp/kamikaze/t.heiki.htm
>
武: おー! 人間機雷「伏竜」は彫刻であったね! 人間兵器だったんだ! うわー。
山: あったねー。けっこう彫刻の出来はよかった。
武: 「伏竜」の彫刻も鉄腕アトムとかヤノベケンジとかを彷彿とさせたよなあ。
山: そうやね。なんて言うんやろ、あのセンス。なんか妙な滑稽さがあるねんなあ。安っぽさというか。でも、しっかり作ってたりする。
武: そうなんすよ、なんで自爆兵器を追求するとこういうデザインになるのかしら、オゾマしい訳なのに、妙にヘンにちょっと愛嬌のある形というか。
山: アイボとか(笑
武: AIBOは設計段階では6本足だったらしいぞ。なんかね。そういうフォルムの機械がパシパシッと人殺すと思うと、余計に恐くない?
山: そりゃ怖いよな。可愛い顔して残虐。
武: 戦車とか大砲とかの方が「戦争の道具」って感じするよな。人間魚雷や魚雷もマルッこくて愛嬌のあるフォルムだし。
山: なんやろなあ。戦車とか日本で開発したんかね? 海外のそのままっぽい。
武: あー! 特攻機はオリジナル設計ってことかー。
山: そうとちゃうんかなあ。他の国にないやろ、あんなの。あんのかな?


武: この前、自衛隊の公開演習を観に行ったんだけど、ちょっと特殊な戦車、化学兵器用の戦車かな……
山: ほう。
武: 遊就館に展示してあった戦車よりずっとデカイ。軍用ヘリも零戦なんかよりはるかにデカイ。
山: そりゃ零戦は昔やからな。で、でかいとどうなん?
武: やっぱ、コワイんすよ。
山: そやけど昔はあれかって怖かったんとちゃうか。
武: ああそうだろうなあ。なんだかんだいって人を殺す為の「兵器」ですからね。展示されてるのはもう違うモンだからのう。
山: そりゃ使ってたらやっぱ恐ろしいわな。っつうか特攻隊ってどうよ?
武: 特攻隊って凄いよなあ。改めて考えると。今で言う自爆テロだよな。
山: 自爆テロやんなあ。あんまりその関係って言われへんよな。なんで?
武: 究極に洗脳というか、本人からしてみたら「神がかり」的な状態にならないと出来ないよな。
山: 志願兵もいたわけやろ。
武: 特攻は志願じゃなかったっけかな? あ、命令だったみたいだ。「死ね」という命令か。うーん……
山: 絶筆が展示されてたな。
武: うん。
山: あと、出征前の肉声テープ。
武: はい、あったねー。俺は文章のみ読んで聞かなかった、聞けなかったというか。
山: みんなともっと遊びたい、勉強したい、って言うてました。
武: それは本心だろうなあ。
山: 昔の田舎の風景がよく現されてた、って東京かな。
武: 望郷を語ってるうちに心変わりはしないのかなあ。
山: 突然言葉が変わるんよ。国とか戦争の話になると。そんな言葉誰に教わったん? みたいに。
武: テンションが上がるんかの?
山: テンションっつうかね、最初から最後までグワーって言ってたけどな。なんかね、国とか戦争の話になると借り物の言葉になる。儀式的というか。
武: 望郷の言葉は自分の言葉だけど、国と戦争のところになると自分の言葉ではなくなる、か。
山: よく教育なされていた感じ。
武: うーん。でも、「天皇陛下万歳」ってどこにもなかったよな。
山: なかったな。で、声を聞いた限りでは、望郷の念も国を思う言葉も同じテンションやったな。純粋な感じやったけど。意気揚々とした感じ、全体的に。でも緊張してる。
武: うーむ。これから死んで行くんだよなあ。それを思うと……
山: 元気に往きます、みたいなこと言ってた。
武: そういうのを読んだり観たりするじゃないですか、やっぱり心動かされるわけですよ、泣けてくるというか、
山: 純粋やからね。ある種の美しさはあるで。
武: 感動するのは確かなんだけど、人が死んで行く時の最後の言葉って家族を気遣ってたり、やっぱりそういうごく平凡なもので、尚いっそう胸を締め付けられるんだけど。それと戦争賛美は別だと思うんだよ。
山: そりゃ全然別やわな。確かに。
武: なんつうかね、その「感動」と、「国の為の戦争で散って行った素晴らしき先人達、という考え」を直結させてはいけないのではないだろうか?
山: ふむ。僕が思うには国って、というかね、僕らは日本人な訳で、その国をどのような形であれ作ってきたという過去があってそれは消えない、そんでそれらを作ってきた人々を敬う、というのは自然な感情も含まれてると思うんですよ。
武: 確かに。
山: だからと言って、じゃあまたそのように(昔と同じように)しましょう、というのはどうか、ってことやないかな。
武: 例えば、味噌作りの為に、代々命を掛けて来た人達も居る。
山: ふむ。
武: 美味い味噌を作ること、その味を維持することだけを考えて死んだ人の手記を読んだとしても、感動すると思うんですよ。
山: そうかもな。だけど別にその人は人殺した訳でもなんでもないわな。
武: でもさ、その味噌こそ世界一だ! とその味噌を讃え、俺はこれから一生その味噌を喰うぞ! とは思わないでしょ。確かに、味噌全般を大切に食べようとは思うけど。
山: わはは。まあな。味噌は個人で選択できるからな。その味噌を一生食べる人もまた、いる。
武: それはあるけどさ。日本の為に頑張った先人が居る。だから日本こそ世界一だ。俺は一生日本を誇って生きるぞ! というより、どんな国にも国づくり物語があるんだから、いろんなお国の事情を大切に思うって方が自然なんじゃないのかなあ。
山: そうやな。何かを作ろうとしたら、確かになんでもすぐに上手くいくとは限らんしな。失敗かってあるし。でもその失敗を糧にしてまた作るしかないんやろうな。で、出来たものが必ずしも完璧なものではないけどそれからまた作ってく。何かに向かって。まあその何かが、何やねんって話やけど。

●書込みコーナー

武: 遊就館の最後に書込みコーナーがあるじゃないですか。
山: あったな。
武: そこで、印象に残ったのをメモしたのよ。
山: ほう。
武: 「戦後初めて遊就館を訪れました。60年前と同じ展示であるのにびっくりしました。当時の事実を美化し並べるだけでよいのでしょうか。もっと現実を研究分析して戦争が如何に悲惨なものかを伝えることが必要なのではないでしょうか。外人さんも数多く観覧に来ております。変に誤解されないか心配です」72歳男性。
山: 真っ当な意見やね。
武: あと、変った所では「幽体離脱し超能力スパイになると電子線を切られて体に戻れなくなり危険です。るす宅に他人が入りやすいように自分の体に他人の魂がとりつきやすくなる。(以下このような感じが続く)……」
山: 意味わからんな……ってやばいやろ!(笑
武: 電波系も大勢来てるようでし。
山: そうなんや。
武: 新興宗教的な臭いもあるんだよな。
山: あったな。
武: まあ、実際新興宗教だけど。
山: ははは。そやね。
武: 靖国という新興宗教と、創価学会という新興宗教が与党母体なんだから、スゴイよな。この国。
山: カルト大国ですな。
武: そうなんですよ。しかしコレはあんましダイレクトに言えないなあ、伏せ字にしよう。○価学会。
山: ばればれやがな!
武: それから、靖国と遊就館に来て誇りを持てました! みたいな、目覚めた感じの書込みが多数あるのよ。これってなんだろうなあ……って思って。
山: うんうん、ぱらぱらッとしか見てないけどあったな。
武: 今まで、僕はこの国が恥ずかしい国だと思ってました、ここへ来てこの国は素晴らしい国だと思いました! みたいな、ね。
山: いやあ、やっぱりなあ、それはちゃうわなあ。
武: 国と自分が同一化してるっていうか……
山: だいたい何を見て恥ずかしいと思ったんやろ。
武: やっぱ、戦後の侵略史観なんだよ。太平洋戦争は侵略戦争だった、加害者側だった、という史観がある。その史実を突きつけられるとキツい訳でしょう。
山: そりゃな。
武: それを通称「自虐史観」と言ってるみたいだけど……
山: 事実は事実やからなあ。
武: ここ靖国、遊就館に来ると、それが吹っ切れる、と。
山: 排他的な発想が生まれるわなあ。
武: どこに向かって排他するかなんだよ。
山: 他国でショ。
武: アメリカに向かうなら靖国賛成(笑
山: そうかなあ。そうも思わん。
武: でもアジアに向かうんだよなあ、今って。排他と差別が。
山: なんかずっと引きずってんねんな。
武: 俺はね、遊就館の隠されたコアな思想は多分「鬼畜米英」なんじゃないかなと思う。そこの部分賛成(笑
山: うーん。だいたい鬼畜米英なんて言葉は早くなくしてしまった方がええよ。と思うけどな(笑
武: 右翼こそ、反米じゃなきゃいけないんだよ。
山: でも反米ってなんや? マクドで食って反米はないやろ(笑
武: わはは! 一杯100円オカワリ自由のコーヒーに負けた。資本主義に蹂躙
  されちまったんだよ、俺。
山: なんやそれ(笑

●天皇ってなんだ?

武: あと、天皇そのものがあんまし出て来なかったよね。それが、意外だったね。
山: 展示になかったってこと?
武: 天皇についての解説ってなかったんじゃない? 今の人は紀元節とか知らないだろうし。天皇が消えてるというか、それが気になったのよ。
山: なかったな。だいたい天皇ってなんやろ?
武: 天皇かあ、難しいよな。
山: 日本を作ったのは天皇かな。
武: そうじゃあないでしょう。
山: じゃあなんやろな。
武: 紀元節。明治政府が神武天皇の即位をもって日本紀元元年に定めた。
< http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%80%E5%85%83%E7%AF%80
>
  明治になってから、天皇が国を作ったという事にしたらしい。
山: 明治か。ほんならそれまでの古事記だの日本書紀だのは?
武: 日本書紀を基盤にしてるんじゃないかな。初代天皇は神武ってことになってるのが不思議だけど。
山: ん? なにでそうなってんの?
武: んー、神話ではイザナミとイザナギが国を作る。神武は一応イザナギ・イザナミの子孫ってことになってるけど。
山: 日本書紀を編集したんは天皇とちゃうの?
武: 古事記の後に日本書紀が書かれるんだよね。
< http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%9B%B8%E7%B4%80
>
山: うん。何にしても天皇は昔ッから居た訳で。万世一系ではないとしてもやで。少なくともそういう立場の人はいたわけやろ。
武: そだね。当時の権力者の為の史記だからね、現存する最古のものが日本書紀だ、と。日本書紀が書かれた以降の天皇なら割と系譜がハッキリしてるんじゃないのかの。
山: なるほどな。
武: 720年あたり、大化の改新のすぐ後か。なぜ天皇制を作らなきゃならなかったか。
山: 中国の脅威や(笑
武: そうっすね。
山: 形がないと乗っ取られてまうからね。
武: 天皇制は外圧。
山: おお。
武: 外圧に対抗する手段が1300年前と100年前が一緒。
山: というか、いつもギリギリになるまで何もせーへん(笑
武: だから、天皇制を支持するなら、攘夷じゃなくちゃいけないんですよ。
山: わはは! 極端やなー。
武: いや普通にそうっすよ。侵略・侵入してくる外国に対抗する為に、天皇制を強固にする訳ですから、尊王と攘夷はセットというか同じ意味だとさえ思うのよ。
山: 攘夷って言葉がなんか笑える(笑)僕としては天皇は居てもいい、というか居てほしいと思ってるんやけどな。

▼昨日のつづきですが、とっても長くなりそう、じゃなくって現実に長くなっています(汗)。まだまだ続きますが、次はいつになるか不明です。(柴田)

【靖国神社遊就館】
< http://www.yasukuni.jp/%7Eyusyukan/index.html
>
交通:地下鉄半蔵門線・東西線・都営新宿線「九段下」駅(出口1)徒歩5分。階段を上りそのまま直進。
時間:4月〜9月 午前9時〜午後5時30分まで、10月〜3月 午前9時〜午後5時まで、7月13日〜16日のみたままつり期間中は、午前9時〜午後9時まで ※入館は閉館の30分前まで 年中無休(ただし、6月末及び12月末に数日間の臨時休館日があります)
料金:大人800円、大学生500円、中学・高校生300円、小学生100円

【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/グラフィックデザイナー兼画家】
・新宿西口地下道段ボールハウス絵画集
< http://cardboard-house-painting.jp/
>
・夢のまほろばユマノ国
< http://uma-kingdom.com/
>
take_junichiro@mac.com
【山根 康弘(やまね やすひろ)/阪神タイガース信者兼画家】
・交換素描
< http://swamp-publication.com/drawing/
>
・SWAMP-PUBLICATION
< http://swamp-publication.com/
>
ymn_yshr@ybb.ne.jp