羽化の作法[60]東大駒場寮『蟻天獄』/武 盾一郎

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人生っていろんな事がある。
見たくないものもある。
もったいない時を過す事もある。
分かり合えない人もいる。

多くの人に伝えたいなら、
もっと違う動きも必要なのだろう。

どんな生き方が素晴らしいかって?
それは自分に正直にすごし、
そしてそれが人を勇気付たり、はっとさせたり、くだらない価値や権威を壊したり、多くの人の心をとらえたりする生き方だろう。

意識されない所に最も大切なものがある。
だからこの日誌に書かれていない膨大な思いや感覚の方がより尊いはずだ。
という事はこの日記には本当に大切な事は書かれてないことになる。

それでは意味がない。
詩人の心を持たねば。
意識されない、でも確実にあった何か、を言葉にして綴るのだ。

制作ノートNo.12・1997年10月30日(木)より




●東大駒場寮サークル部屋『蟻天獄』

「キョージュ」こと関根正幸氏のツイートの一枚の写真がある。



「1996年の忘年会」と書いてある。開催場所はアーティスト「AKIRA」さんのA倉庫だ。

『羽化の作法[49]「新宿西口地下道段ボールハウス絵画」と「東京大学駒場寮」とのつながり』でもちょっと触れている。
http://bn.dgcr.com/archives/20171031110200.html

一番手前で振り向いて写っているのが、当時大川興業で「バンビ高橋」という芸人さんだった「ヒデ」と呼ばれていた人物である。恐らくこの時初対面だと思う。

そして、写真を撮ったキョージュこと関根正幸氏(以降キョージュ)とも出会ったばかりだった。ちなみに僕は、写真の奥で縞の帽子を被って誰かと喋っている。

キョージュのデジクリテキストにもあるが、僕とキョージュの出会いはAKIRAさん主催の「野ざらし画廊」のようだ。

『Scenes Around Me[13]AKIRAさんとの事(2:1996年11月)のざらし画廊・捨て看板展』
http://bn.dgcr.com/archives/20171010110100.html

この時点では、僕はまだ東京大学駒場寮に行っていない。この写真の忘年会では、ヒデとはほとんど喋っていなかったと思う。その後、東京大学駒場寮で『蟻天獄』というサークルを一緒に作って、部屋を借りるなんて想像だにしてなかった。

駒場寮の「サークル部屋」とは、建前では「東大生が作ったサークル」で、そのサークルに学外者が混ざっていようが構わない、というものだった。

実際には、学外者が駒場寮の部屋を使いたいものだから、なんとかして東大生を見つけ、「東大生がサークルを作った」ということにして借りている感じだった。

そこで僕たちは、『蟻天獄』というサークル作って部屋を借りた。

ゼロバーでヒデが、僕に「部屋を一緒に借りない?」と誘って来たのが事の発端だったと思う。ヒデとは上の写真の後、駒場寮で仲良くなっていたのだった。

『世紀末とのコラボレーション』の最終日、ライブ・コラボレーションが終わって、そのまんま打ち上げになだれ込んでいたのだが、ライブの興奮は冷めやらず、みんなが太鼓を叩いたり奇声を上げたりしている状態になっていて、ヒデは全裸になって踊っていた。

羽化の作法[52]世紀末とのコラボレーション』
http://bn.dgcr.com/archives/20171212110200.html

ヒデは北海道大学出身で、学生寮暮らしだったらしい。寮生活はとても楽しかったので、駒場寮にそれを再現したかったようだ。

「寮には各部屋に鍵がなくてそれがとても良かった」とか。「でも部屋の鍵問題はずっと続いていて「鍵を付けるか付けないか」、寮のみんなでずっと議論したんだよなあ」とか。

また、「何人かと主催して、寮のみんなからお金を集めて極上のエロビデオを買って、上映会をする企画をやった」ところ、「通販のビデオだったが、買ったら偽物だった」(昔はそんなことがよくあったらしい)。

上映会の日までに自分たちでエロビデオを作り(当然、寮生の男だけのビデオ)、寮のみんなが集る上映会の日に、みんなの前に出て「ごめんなさい! 騙されました! お詫びに僕たちの作ったエロビデオを観てください!」と自主制作ビデオを観せたら物凄く盛り上がった」といった話などをしてくれた。

僕は僕で、駒場寮にアトリエを持ちたいと思っていた。そんなことを駒場寮の「ゼロバー」で呑みながら話していたのだった。

「ゼロバー」については『羽化の作法[48]東京大学駒場寮へ』で書いた。
http://bn.dgcr.com/archives/20171017110300.html

ゼロバーには東大理系1年生の通称「テツ」が、ちょくちょく顔を出していた。現役合格一年生だったから18か19歳。細身の細顔で、サラサラの長い前髪が切れ長の目を隠す、うつむき加減でポツポツと喋るナイーブな美少年だ。

女性よりも男性にモテそうな感じだった。実際に、東京アートシーンでは知らない人はいないジョニー・○ォーカー氏のパーティで、彼に誘われたそうだ。

その直後に、テツはゼロバーで半ベソをかきながらその事を話していた。段ボールハウス絵画を一緒に描いていたヤマネも、彼に誘われていた。細目の美少年が誘われるのは有名な話だった。

そんな素朴なテツだが、「ゼロバー」に憧れていたのか、そのうちゼロバーのバーテンに入るようになっていて、バーを開きたいと言っていた。そこで「じゃあ部屋を借りるか!」ということになったのだ、と思う。

部屋を借りる手続きは僕がしたのを覚えている。書類を直接、寮委員会の人に持って行き、寮委員会の審査に通れば借りられる。

どんな基準で審査してるのかは知らないが、後日「許可」が降りたので部屋を借りられる事になった。

誰でも借りられるのかと思っていたが、その後、AKIRAさんも部屋を借りに駒場寮に来たけれど、借りられなかったようだった。ひょっとしたら、「テツ」が、ちゃんと借りられるように、寮委員会に話を付けたのかもしれない。

『蟻天獄』の創設メンバーは、「ヒデ」と「スノー」と「ティミー」と「僕」だった。スノーとティミーはヒデの友達で素性は分からない。

ヒデはちょくちょく駒場寮に来てたが、スノーとティミーは滅多に来なかった。来たとしてもバラバラで、四人が揃うことはなかった。

◎1997年11月1日(土)
“初の『蟻天獄』メンバー勢揃い!”と制作ノートに書いてある。

キョージュのデジクリテキストにも「蟻天獄」について書いてある。

Scenes Around Me[25]東京大学駒場寮の事(4)学外サークル蟻天国の事
http://bn.dgcr.com/archives/20180410110100.html

ちなみに正確には「蟻天国」ではなくて「蟻天獄」である(笑)

キョージュのテキストだと、“蟻天国は、ゼロバーでバーテンをしていた東大生のテツくんが、ゼロバーの常連だった東大生と学外生をメンバーとして結成したと聞いています。”とある。

ここではヒデが言い出しっぺだったと書いてるが、両方とも間違ってはいないだろう。

◎1997年11月18日(火)

キョージュのテキストに、“学外生には画家の武盾一郎さん、大川興業に所属していた芸人のバンビ高橋さん(ヒデさん)、歌舞伎の女形の中村しのぶさんがいました。”とある。

「しのぶちゃん」こと中村しのぶさん(以降しのぶちゃん)は、僕が駒場寮に行く前からゼロバーの常連客だったようで、「音が聴こえる方に歩いて行ったらここに来た」と言っていた。

何度かチラッと見かけて「広末涼子にそっくりな子がいる!」と思っていたが、ゼロバーで喋った時に、初めて男性だと分かった。

しのぶちゃんとも仲良くなり、『世紀末とのコラボレーション』では全身の体毛を剃ってくれたりした。

この日、制作ノートによると、僕は劇団「新宿梁山泊」に頼まれて段ボールハウス絵画を蟻天獄で制作している。

新宿梁山泊
http://www5a.biglobe.ne.jp/%7Es-ryo/

そして、この日はキョージュも来ている。デジクリにある蟻天獄の話は、きっと11月18日のことだろう。

夜に呑み会となったメンバーがノートに記してある。ヒデ、しのぶちゃん、キョージュ、写真をやってた小山君、元大駱駝艦の鶴ちゃん、そして僕である。呑めば雑魚寝である。

僕は段ボールハウスに寝ようとはしなかった。それは寝心地が悪いからではなくて(多分、11月だったら段ボールハウスの中が暖かくて、一番寝心地が良いだろう)、「段ボールハウスの中には本当に野宿をする時だけしか入らない」と決めていたからだ。

野宿せざるを得ない状況ではない限り、そこに寝てはいけない、という「野宿者への神聖化」だったのだと思う。

そこにキョージュが平気で寝ていたので翌朝驚いたのである。

この時制作していた段ボールハウス絵画がこれである。
https://www.Facebook.com/junichiro.take/photos/a.1053736031337950.1073741847.206228169422078/1936908113020733/?type=3&theater

(つづく)

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