武&山根の展覧会レビュー なんつか、単なる野望系優等生、みたいな(笑「マルレーネ・デュマス-ブロークン・ホワイト展」を見て
── 武 盾一郎&山根康弘 ──

投稿:  著者:


マルレーネ・デュマス ブロークン・ホワイト山: どーも。いやいやお疲れ様でした!

武: しかし、呑み過ぎ。俺、死相出てる。。。。

山: そりゃたいへんだ(笑

武: 東京駅ガード下の生ビール屋さんで熱燗呑みすぎっ! ってどういうことよ! アルコールで脳細胞ちぎれてるよ俺、絶対。

山: 僕は全然大丈夫やったんやけどなあ。

武: 大体、途中から何も覚えてない。

山: ではお教えしましょう。なぜか電話かけまくってた。キュレーターとか社会学者とかに無理矢理(笑

武: しょーもなさ過ぎ。。。orz。俺たちと勝負出来るのは「はいからさん」の花村紅緒くらいだよ、「酒乱なんて、もう、しゅらんっ!」(笑

山: こんな我々に暖かいおたより待ってます!

武: 「ビアホール 熱燗のみで 呑みたおす」詠み人知らず。これで奥樣方のハートはわしづかみっ!「少尉ーっ!」


●マルレーネ・デュマス-ブロークン・ホワイト展/東京都現代美術館


山: 。。。さ、レビューいきましょう、レビュー。マルレーネ・デュマス。

武: い、行って来ました、清澄白河は東京都現代美術館!
  < http://www.mot-art-museum.jp/
>

山: マルレーネ・デュマス/Marlene Dumas。< http://dumas.jp/
>
  現代美術館はなんだかんだ言ってよく来てますな。

武: 前回、大竹伸朗さんも東京都現代美術館でしたね!
  < https://bn.dgcr.com/archives/20061122140200.html
>

山: 今回はまた全然違うタイプの作家やね。

武: 実は俺しらなかった。 >マルレーネ・デュマス。

山: 僕は一応知ってたけど、展示は初めて見た。

武: あんまり知らないので略歴。
  マルレーネ・デュマス(Marlene Dumas)
  1953年南アフリカ、ケープタウン生まれ。ケープタウン大学で美術を学ん
  だ後、アムステルダム大学で心理学を学び、70年代終わりからアムステル
  ダムに拠点を置き活動。
  で、特徴を3つ上げるとしたら、
  1.顔・人を描いてる
  2.南アフリカ共和国出身
  3.女性
  だと思うんですよね。

山: そうやね。

武: かなりシンボリックな特徴だな、と。

山: 南アフリカ出身の女性作家、ってほとんど聞かへんよな。

武: そうだねー。南アフリカと言えばすぐに思いつくのがアパルトヘイト。で、白人側で女性、と。ほとんどそこでこの作家のメタファーってのが読み取れてしまう。それを戦略にしてるのかも知れないけど。

山: なるほど。武器っちゃ武器やな。

●野望美人(笑

<人物を描く前>


武: 作品についていってみよか。人物・顔に特化して描く前の作品、「最後の晩餐」(1985)って油絵がある。

山: あれって展示されてた絵の中で、一番古いんやっけ?

武: いえ、1984年の作品もあるね、それは顔の油絵。

山: そっか。しかし、あの「最後の晩餐」、なんていうの、公募展かなんかを見に来たんかと思ったがな。

武: わはは! それは、趣味っぽいってことなんかな?

山: なんて言えばいいかよく分からんが、絵を見てすぐにそう思った。

武: よく見そうな油絵、って事か。強烈な自意識であるとか、苦悩であるとか、世界であるとか、そういう感じよりも、「油絵」描いてます。みたいな。

山: そうやね。ま、あまり驚く絵ではなかったんやな。なんかもうちょっと「へえ〜」とか思いたいしねえ。

武: 1980年代ポップアート全盛の中で、ちょっぴりアカデミックな油絵描きました、みたいな。ポップアートはもっと前か。ニューペインティングね。

山: 1953年生まれということは、、、32ですよ! 今の僕と同じくらいの年の時にあれ描いてたわけだ。うーむ、ひょっとしてその頃はまだ学生やったんか?

武: わはは! 確かに。絵、学生臭い。非常にフツーに画学生臭い(笑

山: そうなんよな。その頃はアムステルダムにいた事になっているが、アムステルダムってそういう感じやったかなあ。もうちょっと違うイメージがあるが。ま、イメージやけど。

武: 「最後の晩餐」は6年かかってるんですよ。91年に完成してるんね。で、90年代から憑きもんが落ちたみたいに、顔・人物を描きまくるワケだ。

山: ほう。なんかあったんやな。

武: だから、「最後の晩餐」っていう作品はそう云った意味ではキッカケとなったんじゃないのかな。こういう絵はホントに最後、って。

山: なるほど。それはそれで分かるような気もする。

<80年代から90年代>


武: 80年代は、例えば、「芸術とはヒキガエルの織りなす物語である」(1988)とか、「邪悪は凡庸である」(1984)とか、「白雪姫と折れた腕」(1988)とか、なんか哲学めいたタイトルつけてる。ちょっと試行錯誤的なところはあったのかもね。

山: ふむ。けど、あんまりそこに意味を感じないよな。

武: わはは! 意味深そうなタイトルを付けてみたかったとか。。。って学生かっ!

山: なんなんかね、なんやろ、繋がらへんねんなあ。

武: で、90年代に入って、油絵の作品から、紙の上に描く顔・人体の連作が多くなる。1992-93年に女性の顔の連作。

山: ふむ。

武: 若い男のたちの裸体、1996年ヤングボーイの連作。カッコ、後で作者がおいしくいただきました。カッコとじ、的な(笑

山: ドローイングは上手だった。実際ああいう一発決めの仕事は楽しいよな。クロッキー。

武: 楽しそうに描いてる感はあるよね。ただ、もの凄く特徴的なドローイングってワケでもないなあぁ。。。って思った。

山: そうなんよな。上手やねんけど、ヤバくはない。

武: そうそう! それです。なんつか、単なる野望系優等生、みたいな(笑

山: そうやそうや。ヤバくないんだ。

武: 破綻してない感は満載だよね。

山: ヤバさを感じると、下手であろうがなんであろうが、「お?」って思うからな。「うわ〜」、とか、「ひょぇ〜」とか。「げぇ〜」とか(笑。

武: ドローイング系画家って、特に「テーマが変らない」であるとか、「画風が一定不変」であるとかっていう所で勝負してると思うんだよ、テクニックとか画才より。で、なんにつけても「いかに成り上がって行くか」ってコトの方が重要だったりしてさ(苦笑)。デュマスに対する興味も、デュマスの絵そのものより、この女性は一体どうしてこんなに有名になったんだろう? ってそっちの方が知りたくなった(笑

山: デュマスが被写体の写真があったけど、なんかやたらマッチョに写してるよな。でもどうやら若い頃はめちゃめちゃ美人やったらしい。

武: 美人かー(笑。結局なんにつけても美人は得ってコトなんかねー。

山: でもちょっと怖いよなあ。美人の絵描きって。やだ(笑

武: 公式ホームページで出てる写真はそれこそ恐いけど、二階で流してたビデオ、ちらっとしか観なかったけど、とてもセクシーでチャーミングで魅力的な感じの女性だった。

山: あー、ちゃんと見なかった。

武: フリーダカーロみたいな、「俺、ちょっとムリ」的な凄さはあんまし感じなかったんだよな。

山: わはは!

武: 唯我独尊芸術人ってより立身出世な人だと思った。

山: やっぱりなあ、なんか落ち着かへんねんなー、絵が。いやね、納得いかないというか、なんかあんまり良くない。作品として。でもこれって日本人やから思うんかな? 例えば僕が南アフリカ人やったり、オランダ人やったらまた違う印象を持つんやろか。

<デュマスのテーマってホントはそんなに意味深い訳じゃないと思う>


武: デュマスのテーマが「エロス アンド タナトス」とかあるけどそれもイマイチ分からなかったな。

山: そうねえ。死とかエロスとか言われてもねえ、それはただそういうタッチやからやんか、と言うのか。確かにハッピーな感じの絵ではないけど、だからって死かよ、って。

武: だいたい小説でもなんでもいいけど芸術って「エロスとタナトス」がテーマにならないはずがないじゃん。そもそも。

山: わはは!

武: むしろ若さとか、そういうものにこだわってる気がする。「ヤングボーイ」だし(笑。

山: 「ただ顔描くの好きなんです」とか「若い男ってかわいいわよね」ぐらいの方がわかるねんけどな。

武: エロス表現にこだわってるんじゃなくて、デュマス自身がエロいんじゃないのかなあ。自分のエロが枯渇しないように気を付けてるとか。そういう女性って結構権威志向だし。

山: 紹介のテキストなんかで、皆さん「生々しい」って言ってますけど、武さんそう感じた?

武: うんにゃ。生々しくはないかなー。素材感が生々しいって事なんかねー。たらしこみみたいな画法って、ちょっと不思議なリアル感って出たりするじゃん。

山: そうだけどねえ。昔デュマスの画集を見た時はそこまで悪い印象はなかってんけどね。というのもその画集を見た当時、実は僕も顔ばっかり描いていて、あー、やっぱ顔っていいよなー、でもこの人顔ばっかり描いてて意味とか考えへんのかなあ、とは思った。それは覚えている。

武: ふむ。

山: そんとき日本の歴史上の人物の肖像写真集をみて、そっから輪郭をなくした顔を300枚ぐらい描いててんけど、それは自分が顔を描く上で、ある意味を持たせようとして行なった制作だったんですよ。でも結局、意味が自分であんまり見えてこなかったんだよなあ。まあでも、その作品でアーティストブック初めて作ったんやけどね。2002年ぐらいかな。

武: 顔描くことって楽しいじゃないですか。特に若い頃は顔はよく描くよね。

山: そうなんですよ。

武: 今顔描かないのは、顔より描きたいものがあるからなんだよな。

山: そういうことなんやろね。

武: デュマスの場合、40歳近くになってから顔に焦点をあて始めたんで、ずっと描き続けてられるんじゃないかな。既成の人物写真から絵を起こしてるようだし。生々しくないんはそのせいだよ、多分。

山: なんでそれをみんな「生々しい」って言ってんだ? なんか空々しくないか?

武: わりとどこの記事も同じ事いってるってるのよね。無理から意味付けしようとしてるっていうか、ね。紹介する側が。

山: そうそう。だからおかしい。無理矢理や。

武: 実は本人は「有名になりたかった!」が一番強いのかも知れないしね。だから有名人を引き合いに出して来てるんじゃないかなー? まあもちろん、そういうのは大事なんだけどさ。

山: うん。まあ、それはそれでいいとは思うけどね。

武: ウォーホールにしても、ステイタス(=芸術という権威)が欲しかったってのが最初だからねー。
(デュマス参照)
< http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/archive/news/2007/04/24/20070424dde014040011000c.html
>
< http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/mixnews/20070426ok02.htm
>
< http://artshore.exblog.jp/d2006-04-06
>

●展示について。結論:最悪(泣

<有名人出してどうするよ>


武: 例えば、アラーキーの写真にインスパイアされて「ブロークンホワイト」(2006)描いたとかいわれて作品見ても、その必然性がよく分からなかったりするよね。これは展示の仕方の問題だとも思うんだ。今回ね、何が悪いって展示だよ。

山: ほんま、展示方法がひどかった! いろいろ説明しなさすぎやねん!

武: 「説明しないのがコンセプト」とかなのかも知れないけど、それにしてもちょっと何もなさ過ぎ。作家にも肉薄出来ないし。

山: なんで月岡芳年の絵が出てくんねん! インスパイアってなんや! ふざけんな! 何が現代の感情やねん!

武: っつーか、芳年にインスパイアされたかどうかも分からない。。。意味ありげに展示するんならもうちっと説得力欲しいよな。

山: ほんまそうやで。あんなんやらん方がよっぽどましやん。

武: 芳年の絵は要らないよなぁ。。。それにアラーキーのオバちゃんの顔写真の連作も要らないよな。だって、デュマスの絵より、アラーキーの写真の方がインパクト強いじゃん。あれはよくないよ。

山: ほんまそれ問題(笑。あの展示で他人の作品一緒に展示する必要があるとは思えない。

武: ただ単に館の空間が空虚になっちゃうから、それを防ぐ為に場所を埋めてる感じ。

山: 確かにそんな感じにしか思われへん。なんであんな展示になってしもたんやろ。時間なかったのか?

武: 公式ホームページで芸能人のコメント出してるじゃん。それって「質が低いのかな?」って思っちゃうでしょ。

山: そんな事しない方がよっぽどいいのになー。なんかあるんとちゃうかこれは。

武: 結局、デュマスは何にこだわってるんだ? ってのを見せねーと、展覧会として成立しないだろうー!! というかこの展覧会自体、なんか無理矢理なんかなー? って勘ぐっちゃうよ。

山: 総じて、良くなかった。

<展示を考えてあげる>


武: じゃあ、どうすれば良かったか、ちょっと俺たちで考えてあげましょう!

山: うむ。まず、展示スペースを減らす。もっとちっちゃいところでやりなさい。(笑

武: コンパクトにするのね。あとさ、デュマスのポートレート写真があるといいんじゃないか? 産まれた時から、子供の頃、二十歳の美人だった頃、現在。とか。

山: わはは!

武: もう、俺だったらそれでググッとつかまれる(笑。

山: それだけでよかったりして(笑

武: 「作品はWEBで。」とかね(笑。ドローイング作品とそのエピソード「付き合ってる男と作品の変容」とかね。有名人出して俗っぽくさせるんなら、そういう方が合ってる気がする(笑。

山: 展示は「ヤングボーイ」、あれだけでええやろ。

武: わはは! だとするとギャラリーくらいの広さで、ヤングボーイの連作だけドーンと並んでる、と。で、デュマスのプロフィールが壁に展示してあって。

山: あー、ええんちゃう(笑。その方がエロティックだ。

武: 年ごとのデュマスのポートレート写真ファイルが置いてある。

山: なんなんだその展示は(笑

武: で、売れてた作品の横に赤丸シールが貼ってあって、値段表がメニューのように置いてある、と。絵を観てるとデュマス本人が南アフリカ産のワインを出して来てくれる。それなら、俺誘われても良い(笑

山: なんかそれこそ趣味の個展のノリやな(笑

武: わはは!

●「最後の熱燗」


山: なんだかんだ言ってすっきりした。酒も進むっちゅう話ですよ。

武: 飲み過ぎ。。マジ死にそう。

山: わはは!まあ確かに。

武: このままでは身体性を獲得する前に身体が崩壊してしまうっ!
(参照「ヘンリーダーガー幸福論」
< https://bn.dgcr.com/archives/20070501140100.html
>)

山: うーむ、それは問題やな。では、デュマスに習って僕らもそろそろ最後の晩餐を描きましょう、って言うか飲みましょう!

武: まだ飲むんかい!

山: 最後ですから(笑

武: それはそれでちと寂しいな。。では最後の熱燗とホッケを。。

山: 乾杯! うまい。これで最後か。

武: あー、意識が朦朧としてきた。

山: うん。このまま心地良く眠りにつけそうだ。。。ん、武さん?

武: あぅ、どした?

山: ユダが笑ってます(笑

マルレーネ・デュマス - ブロークン・ホワイト
会期:2007年4月14日(土)〜7月1日(日)10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜日
会場:東京都現代美術館 企画展示室1階・3階
観覧料:一般1,300円、学生1,100円、中高校生・65歳以上600円
巡回展:2007年10月21日(日)〜2008年1月20日(日)丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/穀潰し】
< http://iddy.jp/profile/Take_J/
>
take.junichiro@gmail.com

【山根康弘(やまね やすひろ)/現代美術作家の皮を被ったトラキチ】
・SWAMP-PUBLICATION
< http://swamp-publication.com/
> yamane.yasuhiro@gmail.com

photo
マルレーネ・デュマス ブロークン・ホワイト
マルレーネ・デュマス 東京都現代美術館 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
淡交社 2007-04



photo
マルレーネ・デュマス
バーバラ ブルーム マリウッチャ カサーディオ ドミニク・ファン・デン ボーヘルト
ファイドン 2006-01

エゴン・シーレ―ドローイング水彩画作品集

by G-Tools , 2007/05/16