電網悠語:日々の想い[139]ワクワクとギラギラ
── 三井英樹 ──

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いつもと趣向の異なるイベントに誘われた。いつもは少しはデザインの香りがするものなのだが、ほとんどエンジニアリングだけの香り。実は出自がそこなので、少し懐かしくも感じる。「デザイン」という言葉は出てこない、代わりに「ユーザビリティ」や「リッチ化」という言葉がかすかに聞こえてくる。

今の私の活動との接点は「RIA」。そしてその先にクラウドがありそうだと思わせる予感。でもその話が出たのは全体の数分の一。ほとんどは純粋なエンジニア、というかデベロッパのお話。一瞬睡魔が襲ってきたが、語られる未来路線は興味深いし、なにより無視できない市場が存在し、期待を持っていない訳でもない。

基本スーツ姿の方々に混じって聞き入り、懇親会でもその中に溶け込もうとする。でも何かしら違和感がある。何か本質的な部分で、いつもの場所と違う。「ワクワク」と「ギラギラ」。突然、そんな言葉が浮かんだ。



「ワクワク」は、技術をどう使おうか、どう使ったら楽しいかを考える層。手短に言えば、クリエイタか。「ギラギラ」は、この技術でどう儲けようかと考えている層。でもSEとかエンジニアとは少し違う。少し前までの、ただ儲けんかなとしている、技術への信仰もなく興味もない層とも異なる。今回のギラギラ紳士達には違うオーラが感じられる。

技術の長所も短所も飲み込んだ上で、その先に行こうとする意思。バグがあろうが、それに対処さえすればよくて、ベンダーの遅さなんか折込み済みさ、という達観したようにも見える視線。そして、その上で一段登った方が勝ちなんでしょ、という意気込み。

開発者というよりも、粋な商売人に見える。そのシタタカサが心地よい。永遠のベータという言葉を、青春的に捉えていない。肯定的に次のステップにつなぐ、何かに見立てている意識と意思を感じる。なにより浮ついた感がない。集められた方々は、主催者のよると各社一名。つまり、皆がそれぞれほぼ競合と思ってよい。だからこその緊張感もあったのかもしれない。

以前、みんな一緒に儲けましょうよという基調講演がなされたイベントでは気持ち悪さを感じたが、今回はそれがない。クリエイティブとか美とか、その価値だけで勝負できるんだから、さぁこのツールを買って世界に羽ばたきましょう、みたいなメッセージはただただ嘘くさくて、食い物にしよう感が表に出すぎだった。ツール買って富が築けるなら苦労はない。いや騙すにしても、もう少し気持ちよく騙してくれんかね、と思ったものだ。でも今回は、何かを買えば夢が手に入るとは語られない。聞く我々も儲けるためには、汗まみれのヒトヒネリが必要なのだと多くの場面で学んできた。キャッチーな煽り言葉で高揚させようなどという単純なシナリオは、この会場には皆無だった。

ワクワクだけでは生きていけないフェーズに突入しているのだろう。黎明期の高揚の季節から、腰を下ろしての選択と選別の季節へと移っているのをひしひしと感じる。ギラギラした目線が頼もしい。浮ついた気持ちのビジネスではない、何もかもを飲み込んだ上での更なる飛翔を目指した歩み。こけおどしや薄っぺらな技術コンサルでもない。技術に関しては、並みの腕ではないのだろう。そこへの自信が、コセコセ(セコセコ?)した雰囲気を排除している。その分野は任せろと胸を張れる領域の存在を感じる。

淋しさを感じるのは、単なる回顧趣味なのかもしれない。担い手の特質が変わろうとしているのを直感的に感じている。何かが終わろうとしていて、何かが変わろうとして、今まさに動き出そうとしている。そうした脈動を感じるのは久々だ。懐かしくも新しい鼓動だと感じる。夢だけを語る正義の味方が、徐々に小難しい理屈を並べる、どこか似て非なるものに変わって行く様のような感覚もある。やっていることは似ているのに、何か違う何か。

「Webって楽しい」、そんな段階から、「Webは便利だ」、そして、「Webは使えるぜ」。あこぎなビジネスではなく、少し前のビジネスマンからは地に足をつけたとは言い難い、それでも何かに根を張り巡らせた感の漂うビジネスマン達とその領域。手触りで判断できる領域から、目に見えないデータの塊の領域へ。「所有してなんぼ」から「活用してなんぼ」の世界へ。

頼もしさと同時に、フワフワしたネットという世界が、どこか硬質化していく予感を感じる。その硬さは、堅苦しい雰囲気へのベクトルではなく、積み上げていくことのできるスキルや信用やナレッジの醸し出す堅固さや堅牢さへのベクトル。そうした未来も良いなとも想う。永遠のベータやコロコロ仕様が勝手に変わるマッシュアップの調整への疲れが、その志向性に拍車をかける。


すべてはWebから始まった。そんな声がする。内なる声なのだろう。モノの価値は昔からあった。でもWebがそれに気付かせてくれた。自分の成長期にネットの黎明期が重なってくれた幸運に感謝している。いまだにWebから離れるな、Webはますます面白くなるぞと声がする。今つまらなく感じることこそが幻想なんだと、誰かが囁いている。その証に、ほらこんなに面白い人材がまたここにもこんなにいるぜ。そんな声も響いてくる。

ツールベンダーが本来のコアユーザを忘れて迷走し始めている中、コアユーザはどんどんと貪欲に強かに変貌を遂げている。ベンダーもメディアも実は後手にまわっている。ユーザ本人ですら気がつかない間に、全然別物にバージョンアップしているのかもしれない。一年前にそんな風に考えただろうか、と感じる人もいるのではないか。

時代が求めている全ての荒波を増幅させるかのように、Webがそうした機構として働いている。その仕組みそのものが、巻き込まれた人を変えていく力を持っているかのようだ。情報に育てられ、サービスに育てられ、クライアントに育てられ、経済状況に育てられ、ベンダーに育てられ。ネットという場に居を構える人たちが変わっていく。

ワクワクで進んでいける人たちに、ギラギラした想いで進んでいける人たちが混じり込み、時代やネットは更に混沌と面白く味わい深くなっていく。デザイナでもエンジニアでもない世代が育て来た先に、ビジネスマンという属性を持った世代が育ちつつある。ネットの主要構成要素が技術ではなく、人だと見たならば、これで面白くならない訳がない。そしてその内に、それほど遠くない未来には、もっと別の属性を持ったキャラが活躍していくのだろう。道は続く。明るい方向に。きっと。

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