挑んで死にたい、ダンボールアーティストとして[07]驚くほど大きかったダンボールロボットの扱い
── いわい ともひさ ──

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●調整する余裕すらなかった短納期対応

昼は会社員としての仕事、夜はダンボールロボットの組み立てに追われた嵐のような一週間が過ぎ、あとはダンボールロボットのテレビ番組への登場を見守るばかりとなりました。

納品前は本当に緊張感がありました。納品物は自宅からテレビ局まで車で運んだため、途中で事故にでも巻き込まれたら終わりです。

交通事故は他人の不注意によって起こることもありますし、車を運転しているときは気が抜けません。

ダンボールロボットを無事にテレビ局まで届けた後の開放感は格別でした。

驚いたのは、納品から二日後のテレビ番組収録に、ダンボールロボットが使われたことです。




テレビ局の担当さんには何度か同じことを聞きました。それは「もしも納品が間に合わなかったら、どうするつもりだったか」ということです。

「そのときは、うちのスタッフにも手伝わせましたよ」と笑顔のご回答でした。

20年以上も会社員として働いていたため、当然ながら納期の重要性は身に沁みて分かっています。

納期ギリギリになって期日が守れないことにでもなれば、多くの関係者に迷惑をかけますし、その分、余計な費用も発生します。

会社間取り引きであれば、担当者は元より、その人が所属する会社は、時間をかけて積み重ねた、お金では買えない「信用」を一瞬にして失います。

時刻表通りには動かない海外のバスや電車などを目の当たりにすると、日本人は厳しすぎるだろうとか思わなくはないですが、それが現実です。

納期に間に合わないことが濃厚になったら、速やかに関係各所に連絡して納期調整を行うなり、担当さんが言う通り、人海戦術で急場をしのぐなりしないといけません。

ただ、今回は元々十分な制作期間がないため、いきなりお尻に火が付いた状況であり、受ける側としては制作に取り掛かる前に納期交渉を行うか、最悪の場合はお断りするというのが無難なところでした。

もともと慎重な性格であることは、このような納期に対する考えからも読み取っていただけるのではないかと思いますが、このときは何とかしてやるという意欲が勝りました。

ここまではお仕事を受ける側の気持ち。お仕事を依頼する側の心境を想像してみると、これはもう本当に綱渡りです。

依頼する相手は趣味でダンボールアートを作っている会社員。会社名や営業であることなどはブログにも掲載していましたが、一度しか会っていない人のことなど詳しくわかるはずはありません。

友達としては良いけど、仕事をすると問題が出るということは良くある話です。

前回も書きましたが、番組は名古屋を拠点に活動する男性アイドルグループの初めてとなる冠番組で、テレビ局も彼らを力強く後押しする意向であると聞いていました。

担当さんや関係各位の度胸には頭が下がりました。ただ、テレビ局側も万が一のことを考えていなかったわけではないでしょう。

では何故、依頼できたかを考えてみると、恐らくは「修羅場に慣れていらっしゃる」ということではないかと思います(笑)

テレビ業界の深淵を垣間見たような気がしました。

●頭に浮かんだトップクリエイターの言葉

納期に対する厳しさを百も承知で依頼を受けたときに、過去に聞いたトップクリエイターAさんのお話が頭に浮かびました。

ウェブ業界で活躍されていたAさんは、あるとき専門外である映像制作の依頼を受けたそうです。

学生のときに8ミリフィルムで映像制作を行っていたことを依頼主が誰かから聞き、Aさんは映像もできると思ったようです。

あくまでも趣味で行っていた映像制作であり、プロレベルのものは作ったことがなかったそうですが、お仕事を受けて四苦八苦しながら納品したそうです。

こういった舞台裏は、なかなか表には出てきません。そして「トップクリエイターのAさんが今度は映像作品を作った」というお話だけが大きく取り上げられて、それを見た人達は「Aさんは才能豊かな人だ」と捉えます。

Aさんはプロの現場でも実際にはこのようなこともあり、少し無理めな仕事でも頑張って受けることで、仕事の幅を広げられると仰っていました。

テレビ局から依頼されたダンボールロボット制作も、まさにこのような状況でした。

どんなに大変でも、たかが一週間程度のことだし、万が一に納期に間に合わなかったとしても(そんなことは微塵も考えませんでしたが)死ぬわけでもなく、ならば挑戦する以外の選択肢はない。そんな心境でした。

●予想外に大きく扱われたダンボールロボット

番組の放送開始予定は2014年4月8日(正確には、深夜12時を過ぎているので、9日)でしたが、初回は別の企画があり、ダンボールロボットの登場は二回目からになるとのことでした。

制作依頼をいただいたときに、制作舞台裏のお話を自身のブログに書いても良いとの許可を得ていました。

ただし、番組にダンボールロボットが登場するのは二回目の放送からとなるため、4月16日分の放送後まではブログでの公開は不可とのこと。

登場しないとは聞いていましたが、自分自身が関わったものなので、初回から番組を見ることにしました。

深夜番組であることに加え、初回は放映がさらに遅い時間だったこともあり、番組は録画して、翌日の仕事が終わってから見ました。

そして、見るなり驚きました。なんとオープニングの番組タイトルで、アイドルの男の子達よりも大きい、ダンボールロボットのイラストが書かれているではありませんか!

事前にダンボールロボットの役どころは大きくないと聞いていたので、驚きは尚更でした。

番組の最後には次回の予告もあり、そこにはアイドルの男の子達と絡むロボットの姿がありました。背面どころから、ど真ん中の立ち位置。

これには良い意味で期待を裏切られました。そのときの模様はブログでもご覧いただけます。

< http://iwaimotors.com/blog/2014/04/boymenrobo01/
>

ダンボールロボットは「ロボット先生(ロボ先生)」と命名され、二回目の放送では、ど真ん中で司会を行っていました。

主役はアイドルの男の子達であり、ロボ先生が目立ち過ぎたためかどうかは不明ですが、徐々に隅っこに追いやられてしまいました(笑)

番組は一年間続き、その間、毎週ロボ先生のイラストが番組のタイトルとして出続けました。2015年からは番組名が変わって内容も一新。放送エリアも増え、引き続き、アイドルグループの冠番組として放送されています。

このグループがジャニーズ並みに売れるようになったら「この子達の駆け出しの頃に番組にかかわったんやで」と自慢するためにも、彼らには頑張って欲しいと思います(笑)

テレビ初仕事がこのような露出の大きなものとなり、とても幸運でした。

なぜ、このような大きな扱いになったのか、真相は不明です。ただ、ご相談をいただいた当初から予定が目まぐるしく変更されており、テレビ番組の制作(特に今回のようなバラエディ番組)というのは、権限を持つ方の瞬間的な判断で物事が決まり、取捨選択はギリギリまで行われるのだろうと感じました。

制作開始時にダンボールロボットのCGを見せていましたが、途中、ヘルメットの中にインカム(頭に装着するタイプのマイク)を仕込むだけの余裕が必要となり、形状が変更になりました。

納品の二日前、試着のためにテレビ局に持ち込んだときはすでに形は固まっていましたが、着彩したのはその後だったため、テレビ局の方達が最終的な形を確認できたのは納品当日、4月6日(日)のお昼過ぎでした。

初回放送の時点で、番組タイトルにロボ先生の最終形が正確に描かれていたことから、わずか二日で番組タイトルのイラストを仕上げた、ということになります。

制作の仕事は、納期に近い後工程ほど大変なものですが、まさか私の後にまだそのような工程があるとは思いませんでした。描いていただいた方には、心から御礼申し上げます。

次回は、会社員時代に趣味と仕事をどのように両立していたかをお伝えします。

【いわい ともひさ/ダンボールアーティスト】
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今週の一言:暑さ対策としてベランダにプランターを設置し、グリーンカーテンを育て中。でも、葉がモサモサにならない。なぜだろう……。