●漠然と壮大なことをぼんやり夢想する
前回、「ここに精霊がいる」と書いたが、霊についての現段階での見解を記そうと思う。
https://bn.dgcr.com/archives/20161115140200.html
http://take-junichiro.blogspot.jp/2016/11/27.html
自分は「霊を描いてる」と言ってもいい画家なのだが、いわゆる霊感が強いわけではない。幽霊や魂の輪廻を天真爛漫に信じてはいない。むしろ、そういうスピリチュアルな言説には否定的である。
幽霊を見たり神秘体験をしたりする人がいるようだけど、自分はそういう体験はない。強いて言えば子供の頃、ひいお婆ちゃんが世を去る前に夢枕に出てきたくらいだ。
「霊」の存在は外的なモノなのか、脳内の現象なのか、分からない。
もし「霊」が存在するとしたら、きっと何らかのエネルギーで、霊が「人の形」をしてることはないだろう。霊にまつわる数々のお話は、ほとんど総て創作物で、きっと人間にはそういった共同幻想が必要なのだ。
現代社会は科学やテクノロジーに支えられてるイメージがあるので、物質的というか唯物的というか、共同幻想が存在してるとは一瞬はあんまり思わない。がしかし、「お金」こそ共同幻想で、私たち人類は「幻想」を中心に社会を形成させてる不思議な生命体なのだ。
ところがお金という幻想は宇宙に出来た物質と似た動きをする。物質はダークマターと呼ばれる重力の強いところに集まり、物質があればあるほど巨大化し、重さの乏しい星を食べて行く。重ければ重いほど重くなる。自然法則はとっても「べき乗」なのだ。
格差社会とはそういった物質の運動にほど近い動きを、お金がしている現れだろう。幻想なのに。そして幻想だから物質の限界を超えて変化が速い。
そこで、「霊が在るとする社会」はちょっと安心する気がする。恐ろしい自然法則から心を護るシールドとして、共同体の必要に迫られて太古の昔に創作された共同幻想。霊とはそういう役割として生み出された人類の発明品なのだ。と、理屈では考えていた。
ところが、だ。物質の大元が「震える弦」だとする超弦理論が正しいとすると、そもそもこの世界が、この宇宙が、「霊界」のようなものになってしまう。
「霊は人間社会の安寧機能として発明された」とする以前に、そもそも私たち自体が霊体であるのだ。鉱物も生物も含めて。
そして超弦理論から展開される理論として、私たちは事象の地平面に記述されたホログラムかも知れないという、私たちの正体は幻想でしかない可能性もあって、今僕は「幻想が幻想について思いを巡らせている」瞬間を過ごしてることになる。
なんだか壮大過ぎて途方に暮れるのだが、僕はこういう漠然と壮大なことをぼんやり夢想してるのが大好きだ。その為だけにアーティストになった、と言っても過言ではない。
●「場」と「コミュニティ」と「芸術」
「霊は人間の発明品である」「科学は突き詰めて行くとこの世は幻で霊界のようなものという摩訶不思議な結論にたどり着こうとしている」、というようなことを書いてきたが、上記とはちょっと違ってしまうのが「新宿西口地下道の段ボール村になぜ精霊がいたのか?」である。
段ボールハウスに絵を描いていた当時、新宿西口地下道の広場は一年中薄暗くて、空気がどんよりと溜まっているような雰囲気だった。何かが発酵してそうな感じで、「場」が怪しいのだ。
そんな怪しい「場所」に人々が「暮らし」始めた。人がいるだけではなく、煮炊き寝泊まりしてるのだ。
ただ、それだけだと精霊は出てこない。一人一人がばらばらに寝てた段ボールハウス、描き始めの頃は霊的な感じはしなかった。強制撤去があって地下広場に人々が密集し、暮らしを支え合うコミュニティが形成されて「村」の状態になって精霊が登場する。
いや、「村」になっただけでも精霊は出てこない。もう一つ必要だ。それが「芸術」なのだ。
芸術といっても上から降ってくるお偉い芸術ではなく、「場」と「コミュニティ」から湧き出てくる「芸術」だ。僕たちの段ボールハウス絵画は、まさしくそうだったと自分では思っている。
「場」「コミュニティ」「芸術」この三つが揃うと「精霊」が生じる。そして、これらが揃った場所は人を吸い寄せる。当時の「段ボール村」がそうだった。
精霊たちが小さくキラキラと村のそこいら辺に漂ってる。誰もその存在に気が付いてない。自分も含めて。
カメラマンがやって来て「ここも霊地のようだ」と言われ、再度見渡してみて初めて、ここにいっぱい精霊たちが居ると気が付いたのだ。
これらは自分の脳内現象(錯覚)でしかなく、「精霊がいた」と言う心を癒す物語が必要で創作したことかも知れないが。
「霊」は「在る」のか、「作られる」のか。またはそもそも「すべてが霊」なのか。
(つづく)
【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/アートで自立】
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