創作戯れ言[8]クリエイターの体力/青池良輔

投稿:  著者:  読了時間:6分(本文:約2,500文字)


コンピュータを使いコンテンツ制作をしていると、基本座りっぱなしになっています。当然のように手足は萎え、腰が悲鳴を上げ始めます。僕が今まで出会ったクリエイターやデザイナーの方々は、「健康派」と「不健康派」の大きく二つに分かれるような気がします。

健康派の方は、テニスや水泳をたしなまれ、通勤はウォーキングや自転車等、なんだかキラキラして素敵な生活習慣を持たれています。残念ながら僕はそうではない、不健康派に属しており、運動は年に0.5回ぐらい、歩かない、動かない。食べ物はおいしければ良いと、自ら体を張ってフォアグラになろうとしています。

「健全なクリエイションは、健全な肉体に宿る」とは、誰も言っていないかもしれないけれど、やはりそれなりに気にはなるものです。


健康派の方の意見としては、軽い運動で「すっきり」するから「しゃっきり」して「ばっちり」な仕事ができるそうなのです。また長く仕事をしてゆこうと思えば、基礎体力をつけておかなければとよく言われます。それに対して、不健康派の意見と言えば、「深夜過ぎがピークタイム」「カフェインとニコチンが栄養素」「力仕事は無視して逃げる」ことで仕事が上手く行くと主張します。未来の健康より、今抱えているプロジェクトの方が懸案事項だったりするようです。

僕も、四年ぐらい程前から、ずーっと左足の外側の筋、膝蹴りされると非常に痛いラインが、ピリピリとしびれっぱなしで生活していました。何となく「腰だなぁ」という感覚はあったのですが、痛みが激しい訳でもなく、特にこれといった治療や、改善の為の運動もしていませんでした。たまに、長距離の飛行機に乗ると、しびれが足全体に周りちょっと辛くなることもありました。

しかし最近、ふとした切っ掛けで整体に。

ここ五年ぐらい、ちょっと悪い姿勢で、ずーっと椅子に座っていたのはわかっていましたが、腰の辺りの背骨が、一個だけ「ぽこん」と前にずれているのはもちろん知りませんでした。「これが本来のまっすぐな状態ですよ」と、体の下に小さなクッションのような物を右や左にいくつか挟み込み、「まっすぐ風」に寝てみると、特になにもしていないのに全身にのしかかる、鈍痛、そしてにじみ出る脂汗。ああ、僕はなんてゆがんでしまったのだろうと……

数回の治療で、足のしびれはほぼなくなり、「まっすぐ風」に寝ても、脂汗が出なくなりました。ああ、東洋医学万歳。と喜んでいたのもほぼ数日間で、生粋の不健康派の僕は、徹夜でソファーでごろ寝というような生活に戻ってしまうのです。

クリエイターとして、仕事をしてゆくと、フリーランスであれば自分が社長&社員ですので、意識しない限り健康診断や人間ドックに行く事もないように思います。また、契約で仕事をしていても、健康診断があるのかないのか……メインマシンが壊れても、クリエイターの脳味噌がクラッシュしない限りはコンテンツを作り出してゆく事ができるので、なんとか大切にしていきたいものですし、定期な的なチェックをしてゆきたい所です。本当に体が資本ですから。

とは、言っても……

「命を削るアーティスト」に憧れたことはありませんか?

夜を徹して、食う物も食わず、神経をギラギラに研ぎすまして作品に没頭する。睡眠を削り、24時間のほとんど全てを作品との格闘に費やす……。大変ステレオタイプなイメージなのかもしれませんが、多かれ少なかれ、何か作品を作られたことのある人なら、「創作の快感」に身を委ねて、行くとこまで行ってしまいたい……と感じられたことがあるのではないでしょうか?

健康? 生活? ……創作の前では、生け贄でしかない。

などとかっこ良く言い放ちたい自分。しかし、健康診断を受ける病院の待合室で次の創作のネタを考えるという矛盾。理想と現実の中で「まぁ、自分はこんなものなのかな」という脱力感。理想とするアーティスト像に近づこうと考えても、「のんだくれる」「ひげをはやす」ぐらいしか思いつかず、結局、そんなもの夢物語だと現実と切り離そうとする自分……

どろどろと渦巻くフラストレーションの影には、不健康である事が、自分の才能に化学反応を起こしてくれるのではないかという期待。作品に没頭さえ出来れば自分はもっと突き抜けられるのに、というエクスキューズ。そのような想いが、理想の破滅型アーティストへの壁をどんどん高くしているようにも思えます。

しかしそれは、超えてはいけない壁なのかも知れません。不健康で、破滅型で、日常のもろもろの楽しみを全て切り捨てた上で「人間はどこまでの創作ができるか」という挑戦。あまりにもリスクが高く、そしてどのような結果が出ても満足できない感じがします。なぜなら、健康を消費しながら、創作してゆけば究極は死ぬまでやるしかないのですから。そんなチャレンジは、不可侵なのかもしれません。憧れは、憧れのままでいいのかもしれません。

不健康派の人の中には、この燃焼系アーティストの存在をロザリオのように、胸に抱きながら今日も徹夜してしまっている人も少なくないと思います。

生意気言いました。

【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
< http://www.aoike.ca/ >
1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。

・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/ >

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