創作戯れ言[16]冒険と恐怖
── 青池良輔 ──

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コンテンツを制作する時、往々にして二つの感情が頭の中で交錯します。

「冒険心」と「恐怖心」

「冒険心」とは、これまでの制作で自分の経験した事のない技術、スタイルに挑戦してみたい心。これまで誰も発表していないものを生み出そうとする心。自分の信じる面白さを全面に作品に反映する心。などといういわゆるクリエイティブの「醍醐味」として語られる部分です。

そしてそれに反して「恐怖心」とは、新しい技術を使いこなせない。誰にも面白いと思われない。相手にされない、認められない、批判されるといった事への恐怖です。


この両者、どちらも必要だとは思うのですが、バランスを取るのが非常に難しいのです。

例えば、僕の場合、あるクライアントから、コンセプトの固まっていないプロジェクトのオファーを受けたとすれば、時間的、金銭的余裕があれば「あれもしたい。これもしたい。」とやたらに夢を膨らましてしまいますし、もろもろの制約があっても、それらをクリアーしながら、「世間を驚かせたい」なんて野望さえ抱いてしまいます。「冒険心」が大暴れする時期です。

そして、意気揚々とコンセプトをクライアントに説明すると、響かない……。
この瞬間、ぶわっと「恐怖心」が芽生え始めます。

「自分が挑戦しようとしている技術的チャレンジは、その技術を知らない人にとってはただの自己満足なのではないか?」
「刺激的だと思っているコンセプトは、悪のりではないか?」
「なにより、面白くないのではないか?」
「ものすごく技術が足りないのではないか?」
「いろいろ考えているうちに、一周回って普通の事をしているのではないか?」

とめどもなく溢れる恐怖心。ここで何か策を講じないと輝いていた「冒険心」がすべて悪い方に転化され、翻弄されてしまいます。

ストレートに対応すれば、
「技術的チャレンジより、分かりやすい見た目に注力する」
「コンセプトを丸くする」
「わかりやすい面白さを取り入れる」
「技術力の高い作品のテイストを拝借して、それなりに仕上げる」
「一周回っていない、作品の個性を再検討する」

となるのでしょうか。「恐怖心」が与えてくれた作品に対する影響は、本当に「冒険心」の暴走による悪い部分があれば、それを修復してくれるでしょう。しかし、恐怖の影響が大きくなりすぎると、「出る杭は打たれるから、大人しくしておこう」、「寄らば、メジャーの影」という不健康な考えに行き着くことになりかねません。

ひどい場合は、「パクリ」「コピー」という問題にさえ発展しかねません。

ここで、「冒険心」と「恐怖心」。この両方を満足させるにはどうすればいいのか考えてしまいます。

イメージとして、脳内で行われている学級会を想像します。

「文化祭の出し物を決めましょう」と、初めのうちは希望に溢れた個性的な意見、うまくやればものすごくおもしろい突飛な意見が飛び交いますが、「恐怖心」というグループが、「それは〜なので、ダメだと思います」的な意見を出し、テンションの下がった一同は、「じゃあ〜もダメじゃん」と否定的な方向にながれ、最終的には、スタンダードな出し物で落ち着いてしまうのです。

クリエイションの過程において、このプロセスを何度も目にしてきました。均等な力関係のなかで、コンセプトの「エッジ」がぞりぞりと削ぎ落とされ、どんどん凡庸になっていく瞬間です。皆の「恐怖心」が「冒険心」を押さえ込んでしまうのです。結果は「満足」ではなく「安心」です。

しかし、学級会のようなシチュエーションでも、ここでカリスマと説得力を兼ね備えた意見が全てを牽引してゆく場合があります。皆を説得し、情報を補足し、希望をあたえる意見です。

この「前向きな意見」が具体的に何をしているのかと言えば、

「ロジカルに冒険の理由を説明する」
「実現の可能性の裏付けを提示する」
「理解可能な言葉で、面白さを解説する」
「想像の余地を残す」

という事だと思います。逆に言えば、これらの要素をもっていない「冒険心」は「恐怖心」に飲み込まれてしまうとも考えられます。

話を戻して、冒頭で述べた「冒険心」のままにクライアントに提示したコンセプトは、ただの学級会の初めの盛り上がりにすぎないのかもしれません。

うまくバランスのある意見を出すには、まず「恐怖」を理解した上で、提示の理由、実現の可能性等を考慮し、そのふるいにかけて残った砂金のような冒険は、自信をもって取り扱うというのがベストだと思います。

僕も、この「冒険心を恐怖のふるいにかける」為の時間をより多く割くように心がけたいです。

生意気言いました。


【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
< http://www.aoike.ca/
>
以前のコラムで触れました僕の名刺代わりになっている作品「CATMAN」がフジテレビ・お台場ランドで順次公開されています。過去の14作品公開後には、新作を公開します。この新作が名刺代わりになるといいのですが……
< http://www.fujitv.co.jp/game/catman/
>

1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。

・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/
>

・連載「創作戯れ言」バックナンバー
< https://bn.dgcr.com/archives/22_/
>

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