「これ、いくらぐらいでできます?」
フリーランスになって、コンテンツ制作をやり始めてから何度となく聞かれてきた質問です。返事はだいたい
「さぁ? いくらでしょうね。」
制作を生業としていると、大小さまざまなプロジェクトが舞い込んできますし、仕事相手の経済状況も様々です。そのプロジェクト一つ一つでプロジェクトのバジェッティングをしなければならず、クリエイターという職業でもビジネス的な話にクビを突っ込んでゆかないといけない事はままあります。
フリーランスになって、コンテンツ制作をやり始めてから何度となく聞かれてきた質問です。返事はだいたい
「さぁ? いくらでしょうね。」
制作を生業としていると、大小さまざまなプロジェクトが舞い込んできますし、仕事相手の経済状況も様々です。そのプロジェクト一つ一つでプロジェクトのバジェッティングをしなければならず、クリエイターという職業でもビジネス的な話にクビを突っ込んでゆかないといけない事はままあります。
ざっと考えてみても、「適正な見積もりを立てられる能力」「作業環境を維持、改善してゆきながら運営してゆく経営能力」「契約書を読む能力」「制作、配給や著作権管理についての基礎的な知識」……等々、なんとも色気のない感じの項目が頭に浮かびます。
自分の事を振り返ってみると、これらのことがきちんとできているかどうかどんどん不安になってゆきます。「適正な見積もり能力」といっても、実際のところ皆さんどうやっているだろうと。予想される作業日数に自分の日給をかけて割り出せばいいんだろうと思っても、そもそも「自分の日給」ってどうやって割り出すんだろうと。
「一年にこれぐらい売上げ立てたいよなぁという額を単純に365日で割ればいいのか?」「いや、休日とかの分を省いて250日ぐらいで割ってみようかなぁ」「自分と同じような仕事をしているAさんと同じぐらいにしておけばいいかなぁ?」「この仕事だったら、このぐらいだよって代理店の人が言ってたからそのぐらいでいいかなぁ。でも自分のスキルも上がってるし……」なんて手応えのない感じで決めているような気がするのです。
「うちはこのぐらいでやらせてもらいます。」と、相手との力関係や経済状況の裏読みをしながら、図々しさとつつましさのバランスをチェックする踏み絵のような見積もりを立てなければいけない事も少なくないです。
ですので、冒頭の「いくらです?」という質問に対して、「純粋にわからなくて聞いてきているのか?」「本当は他の人にも見積もり出させてて、こちらの出方をうかがっているのか?」「他の人に仕事を頼むのに、とっかかりとなる数字が知りたくて聞いているのか?」なんて、変な憶測が渦巻いてまともに返事もできなくなってしまいます。
また、別のパターンとして先に金額を提示されて、そこからブレイクダウンしてゆくという場合もあります。
「うち、これしかないんだけど。これだけのもの作れる?」
ここの場合、あとで予想していなかった所で予算がかさんだりしないよう、プロダクションスケジュールを構築し、作業工程を割り出し、「できる範囲」をフィードバックすることになります。無理目な仕事なら早いうちに厳しい所を言っておかないと、結局自分が徹夜で仕上げをやりながら「計画性足りねぇ〜」と泣くことになってしまいます。相手もわかってふってきている場合も少なくありません……。
まぁ、クリエイターという職業は、感性が豊かで傷つきやすいみたいな一般的なイメージがあるようですが、そのせいか、ビジネスという場ではなめられる傾向があるようです。じゃあ、生き馬の目を抜くような修羅場をくぐり抜けてきたスーパービジネスマンが虎視眈々と「おっしゃ、騙すぜぇ」と舌なめずりをしているかというと、実際はそんな人にお目にかかれる機会は滅多にありません。
ただそれでも、「予算がキツい」「スケジュールがキツい」といい条件ではないプロジェクトが発生してしまうのは、クリエイターのビジネス力というよりは、
「安くあげた=偉い」
という価値観に翻弄されているからでしょう。「お金と時間をかければいいものができるのは当たりまえ」なんて言う人は、特に注意が必要かと。
これは、コンテンツの価格を決める時に、内容がいいか悪いかで予算を決める事ができないという状況にも関わっていています。作品がどうだというより、プロジェクトとして「よかった」といえる、誰にでも一番わかりやすい点が、「早くできた」「安くできた」なのですから。
クリエイターとして、ここにつき合うかどうかはそれぞれの個人の状況によると思いますが、もっと別の価値観を自分自身に付加していかないと、日給計算がさらにシビアになってゆきそうです。僕は、ビジネス的な業務をエージェントにお任せしているので、多少は救われているところがあると思っています。
とはいっても、本当に一流の仕事をしている業界の先輩方はチープなビジネス交渉は、才能と経験でねじ伏せているように見受けられます。アート作品に高値がつくように、コンテンツにも「有無を言わさない迫力」があるのでしょう。
「いくらです?」
などと訊かれているうちはまだまだなのかもしれません。
生意気言いました。
【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
< http://www.aoike.ca/
>
1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。
・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/
>
自分の事を振り返ってみると、これらのことがきちんとできているかどうかどんどん不安になってゆきます。「適正な見積もり能力」といっても、実際のところ皆さんどうやっているだろうと。予想される作業日数に自分の日給をかけて割り出せばいいんだろうと思っても、そもそも「自分の日給」ってどうやって割り出すんだろうと。
「一年にこれぐらい売上げ立てたいよなぁという額を単純に365日で割ればいいのか?」「いや、休日とかの分を省いて250日ぐらいで割ってみようかなぁ」「自分と同じような仕事をしているAさんと同じぐらいにしておけばいいかなぁ?」「この仕事だったら、このぐらいだよって代理店の人が言ってたからそのぐらいでいいかなぁ。でも自分のスキルも上がってるし……」なんて手応えのない感じで決めているような気がするのです。
「うちはこのぐらいでやらせてもらいます。」と、相手との力関係や経済状況の裏読みをしながら、図々しさとつつましさのバランスをチェックする踏み絵のような見積もりを立てなければいけない事も少なくないです。
ですので、冒頭の「いくらです?」という質問に対して、「純粋にわからなくて聞いてきているのか?」「本当は他の人にも見積もり出させてて、こちらの出方をうかがっているのか?」「他の人に仕事を頼むのに、とっかかりとなる数字が知りたくて聞いているのか?」なんて、変な憶測が渦巻いてまともに返事もできなくなってしまいます。
また、別のパターンとして先に金額を提示されて、そこからブレイクダウンしてゆくという場合もあります。
「うち、これしかないんだけど。これだけのもの作れる?」
ここの場合、あとで予想していなかった所で予算がかさんだりしないよう、プロダクションスケジュールを構築し、作業工程を割り出し、「できる範囲」をフィードバックすることになります。無理目な仕事なら早いうちに厳しい所を言っておかないと、結局自分が徹夜で仕上げをやりながら「計画性足りねぇ〜」と泣くことになってしまいます。相手もわかってふってきている場合も少なくありません……。
まぁ、クリエイターという職業は、感性が豊かで傷つきやすいみたいな一般的なイメージがあるようですが、そのせいか、ビジネスという場ではなめられる傾向があるようです。じゃあ、生き馬の目を抜くような修羅場をくぐり抜けてきたスーパービジネスマンが虎視眈々と「おっしゃ、騙すぜぇ」と舌なめずりをしているかというと、実際はそんな人にお目にかかれる機会は滅多にありません。
ただそれでも、「予算がキツい」「スケジュールがキツい」といい条件ではないプロジェクトが発生してしまうのは、クリエイターのビジネス力というよりは、
「安くあげた=偉い」
という価値観に翻弄されているからでしょう。「お金と時間をかければいいものができるのは当たりまえ」なんて言う人は、特に注意が必要かと。
これは、コンテンツの価格を決める時に、内容がいいか悪いかで予算を決める事ができないという状況にも関わっていています。作品がどうだというより、プロジェクトとして「よかった」といえる、誰にでも一番わかりやすい点が、「早くできた」「安くできた」なのですから。
クリエイターとして、ここにつき合うかどうかはそれぞれの個人の状況によると思いますが、もっと別の価値観を自分自身に付加していかないと、日給計算がさらにシビアになってゆきそうです。僕は、ビジネス的な業務をエージェントにお任せしているので、多少は救われているところがあると思っています。
とはいっても、本当に一流の仕事をしている業界の先輩方はチープなビジネス交渉は、才能と経験でねじ伏せているように見受けられます。アート作品に高値がつくように、コンテンツにも「有無を言わさない迫力」があるのでしょう。
「いくらです?」
などと訊かれているうちはまだまだなのかもしれません。
生意気言いました。
【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
< http://www.aoike.ca/
>
1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。
・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/
>
- Create魂 Flashクリエイターによるオリジナルアニメ創作論
- 青池 良輔
- アスキー 2006-12-15
- おすすめ平均
- 新分野の第一線で活躍するプロのクールで熱い創作論
- クリエイターの魂が伝わるバイブル
- 個人制作の可能性が拡がる
by G-Tools , 2007/05/15