創作戯れ言[15]リサーチとオリジナリティ
── 青池良輔 ──

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何かプロジェクトを始める時、より良い作品を作るため、またターゲットにより良くアピールするためにリサーチを行います。それはクライアントや代理店を含め、プロジェクトチーム全体で行う場合もありますし、クリエイター自身が個人的に行う場合もあります。

リサーチにおいて、多くの場合これから行おうとするプロジェクトに類似したものの中から、成功例や失敗例を収集し、その分析を新たなものに反映しようとするのですが、そこで一つ気になる点として、

「リサーチした成功例をトレースするのはオリジナリティを殺していないか」

があります。


どんなプロジェクトにも、それを完成させるまでに費用も人材も必要とするので、クライアントの立場にしてみれば「より確実に成功する」ためにはどんな努力も惜しむべきではないと思いますし、類似した作例があればその結果を参考に、その期待値を予測するのは当然の事だと思います。

それがビジネスであれば。

しかし、オリジナル作品を創るというチャンスがある場合でも、全く予測不可能な結果への不安から、それらの分析をしてしまうことは往々にあります。僕は個人的には何か作品を作ろうとする時には、ターゲット設定やリーチしたいマーケットについて考えてしまいがちになります。そして、「このマーケットならこのようなテイストの作品がウケやすい」という風に邪推してしまいます。

そこで怖いのは、過去の成功例の中から共通点を見いだし、その結果に自分の作品を合わせていくという行程は、自分が本来もっていたオリジナリティをつぶしていく作業になるのではないかということです。

さらに言えば、仮想ターゲットを絞り込んでそこに最も適合する作品を創ろうと思えば、過去にそのターゲットの中で最もポピュラーな作品を模倣するのが確実にさえ思えてくるのです。

究極のリサーチの行き着く先には、パクリの悪魔が微笑んでいるのではないかと。

かといって、リサーチを全く無視すれば、「独りよがり」になる危険もあります。リサーチの結果を活かしながら、オリジナリティのあるコンテンツを作るにはどうすれば良いのでしょうか?

そこで考えたい点に、受け手の「期待」があります。

例えば、あるお堅いファイナンス関係の会社のウェブサイトと、若者向けのアパレルのウェブサイトを制作するとすれば、受け手は過去の経験からそのサイトを見る前にすでにある程度の「期待」を持っています。ファイナンス会社であれば、クリーンかつ堅実なイメージをもっているでしょうし、アパレルであれば、デザインのおしゃれでカラフルなサイトを期待するかもしれません。

制作者として、この「期待」を大きく裏切るのは、得策だとは思いません。個性を感じてもらえる前に誤解や困惑を与えるだけでしょう。しかし「期待」通りを突き通せば、それはそれで凡庸になってしまうのです。

この「期待」を言い換えれば、「社会通念」や「ルール」とも言えます。

クリエイターは、作品を制作するにあたりこの漠然としながらも確実に存在する「ルール」を把握しておく必要があります。そしてその「ルール」をより深く理解するために「リサーチ」を行うというスタンスを取れば、模倣の不安からも逃れられるような気がします。

「ルール」への理解を深めるということは、「なにを守らなければならず」「なにをしてもオッケーなのか」を知るという事です。野球のピッチャーは、マウンドからボールを投げるというシンプルかつ限定された動作の中で、様々な球種のバリエーションを生み出しています。ルールがあるが故に、それは興味深く面白いのではないかと思えます。

リサーチをしても、「○○みたいなやつ創ろうよ」では、オリジナリティを削る方向にしか意識が向かないような気がしますが、「○○の要素は守りつつ、さらにおもしろいことができないか」「この範囲内で可能なアイデアを詰め込もう」という方向性でやってゆけば、良い結果を生むように思えますし、リサーチそのものも変わってゆくのではないかと思います。

先の、真面目なファイナンス関係のウェブサイトを制作しようとすれば、一般にウェブサイトに「期待」される会社概要等のインフォメーションの掲載や、クリーンなルックスは守るべき「ルール」でしょう。その地点からマウンドに立ち、どんな球を投げるかでクリエイターは勝負すればいいのでしょう。

ちなみに、「ルール」と「二番煎じ」は違うものだと思っています。「二番煎じ」は「ルール」の範疇外で生み出された「アイデア」の部分を借用して模倣したものではないでしょうか。

中には、「ルール」が厳しすぎて新しいものが生まれにくいタイプのコンテンツもあると思いますが、それでも、どこまでが「ルール」なのかを見極める事で、オリジナリティを加味できる部分は広がっていくと思います。

生意気言いました。


【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
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>
以前のコラムで触れました僕の名刺代わりになっている作品「CATMAN」がフジテレビ・お台場ランドで順次公開されています。過去の14作品公開後には、新作を公開します。この新作が名刺代わりになるといいのですが……
< http://www.fujitv.co.jp/game/catman/
>

1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。

・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/
>

・連載「創作戯れ言」バックナンバー
< https://bn.dgcr.com/archives/22_/
>

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