創作戯れ言[12]時間とクオリティー
── 青池良輔 ──

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「時間があればもっと良くなっていた。」

と思う事は少なくありません。

「時間がなさすぎる」状況は、多くのクリエイターの方が抱えている問題です。それは、ぶっちゃけてしまえば、どこかで誰かがプロダクションスケジュールを読み間違っているか、期間を短縮する事で予算を抑えようとしているか、仕切り役が明確でないまま、なんとなく進行してきたしわ寄せが積もり積もってくる等、あまり嬉しくない理由があると思います。


そういった状況下でも、「いや、時間もアレだし、クオリティーはそれなりでいいよ」というクライアントはほとんどいないでしょう。万が一いたとしても、その言葉は、クリエイターを救う事にはなりません。特にフリーランスで仕事をしていると、仕事の一本一本が自分のプロフィールなのですから、「時間がない時は適当にやっつけ仕事ができる能力」なんてセールスポイントはあまり持ちたくありません。

結果的には、何と言われようとも「時間内でベストを尽くします」としか答えられない状況に追い込まれてゆきます。多くの方が、寝る時間を削り、ひたすらに作業し、本当にできる限りの努力をして制作されているようです。

そうした「ちょっと無理目な状況」を経験すると、どうしても「もしも時間があったなら」という希望に満ちた想像をしないわけにはいきません。気力、体力ともに充実し、生活リズムをキープしながら笑顔でこなす仕事。9時から6時ぐらいまで働いて、あとはゆっくり自分の時間を充実させる……

しかし、残念ながら個人的には、自分の心の中に、

「ガンバル事は美しいと思う心」

が居座っているのです。

外国人と仕事をすると、自分の中の日本人的気質というか「苦労自慢」的なものを感じることがあります。「僕って頑張っているんだよ」と何とも子供じみたアピールではあるのですが、それで保たれているアイデンティティーも感じます。ビジネスライクな外国人にとっては、時として「自己管理ができていない奴」「自分の人生を無駄遣いしている」と思われる事もあります。

でもしょうがない、「苦労は買ってでもしなさい」の国の生まれですから。

そしてさらに、自分の性格を反芻してみると時間が倍になったからといって、作るコンテンツのクオリティーが200%にはならないだろうと感じるのです。

時間が倍になったとき、自分が何をするだろうと考えると、ほぼ確実にその時間のすべてをプロジェクトに捧げはしないだろうと。結局ギリギリのところまでウダウダしていそうに思えるのです。あと単純に手が遅くなるとか。

時間があれば、確かにテストと試行錯誤はいろいろやります。新しい事ができないか模索するのは楽しいものです。しかし、その多くはファイナルプロダクトと直接結びつく訳でもなく、最終的にはプロジェクトの制作の時間を、開発に充ててしまうことになってしまいます。

などなど、現状を考えると、僕自身があまり環境改善に前向きでないように思えますが、

「時間がなくても、カバーしておきたいポイント」

というのは確実にあります。

それを一言で言ってしまえば、「油絵の静物画の白い点」です。果物や花瓶等を描いた油絵に、光沢を表現する白い点を描き加えるかどうかでその絵が引き締まります。もちろん、その点を描くポイント、大きさ、加減等あるでしょうが、基本的にこれがあるとないとでは絵の印象が大きく変わります。美術館等で実物を間近でみると、絵によっては本当に「ぼこっ」っと絵筆の勢いのままに、光が描かれているものもあります。

それらは、多くの研究と、練習と才能によって描かれているものだと思いますが、物理的に白い絵の具を筆につけて、キャンバスにのせる時間はわずかだと思われます。

コンテンツ制作でも、「あ〜、もうギリギリ」という時に、この「光の点」が加えられないかは考えます。なにか一つ「アクセント」を加えるように留意します。

そしてもうひとつは、「見切りを付ける点を探す」事です。「時間がなかった」という台詞は、一種免罪符のような力もあります。制作に関わる多くの人の共通認識として「時間はないもの」という考えが蔓延しているので、この一言を言えば許されるような空気を感じる事もあります。

ただ、そうやって仕事をしてゆくといつの間にか自分のスキル不足が、時間がないという理由に置き換えられてしまいそうな危惧もありますので、可能な限り「見切り点」を見つけ、「今回はここまで」と割り切っていくように心がけています。後に引きずらないというのも、その次のプロジェクトに反省点を活かす為に大切だと思っています.

いろいろ考えてみても、結局「時間がない」という自分自身、「時間がふんだんにある」状況で何をするか、具体的なイメージがないので、ギリギリまでウダウダしてしまうような気がします。

生意気言いました。

【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
< http://www.aoike.ca/
>
1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。

・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/
>

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