ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。
●AEONの話
と言っても、ショッピングセンターの話ではなく、マンガの話。
SHOCKDOMという出版社からでた全4巻のマンガ、というか、ユーロマンガと位置付けたら良いかな、というマンガ。mangaの台頭なくしては生まれ得なかったマンガなので。以下、Shockdomの公式サイト、カタログページ。
https://shockdom.com/negozio/
これが、eBookJapanからまず専用アプリで出ている。その訳をいたしましたのが私めなのです。よかったら試してみてください。
https://www.ebookjapan.jp/ebj/special/aeon_app/index.asp
訳をしながら作品とじっくり付き合うことになるわけで、良いも悪いも含めて目に付いたところを少々おしゃべりします。
作者のアンジェラさんは、イタリア発、フランスでうけてその他の欧米諸国に広まったアレッサンドロ・バルブッチ作「Sky Dool」の彩色担当・カネパさんのアシスタントを経て、自作のマンガを描くようになった。
(以下、SKY DOOLのイタリア語版のサイト)
https://baopublishing.it/prodotti/sky-doll-volume/
(日本語版スカイドールが掲載された雑誌“EUROMANGA”)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4870318571/dgcrcom-22/
ストーリーは、ボーイ・ミーツ・ガール+旧約聖書、その内容は、実は地球外生物との関わりの話だったという想定の、壮大な歴史SF+現代社会に対する批判、という大きな話。
主人公はローマの高校生ダビデ。皆同じ道を歩かされていると感じている。同じように考えている、同じ高校のジャーダと出会って惹かれていく。二人が他と違う感覚を持っていることと、現代社会が物質的社会であることの裏には、紀元前から続く二つの大きな地球外生命の争いがあった……大きいでしょ?
カネパさんと仕事をしただけあって、デジタル彩色の腕は大したもの。カネパ・スクールというか、カネパ派とでも呼びたい色彩の組み合わせをする。
個人的な好みは、以下のURLに見られるような、緑系とピンク系の組み合わせ。光と影のコントラストがやわらかく、彩度をちょっと抑えたパステル調の色味の組み合わせは、高校生カップルの初恋物語によく合っている。
https://amzn.to/2pc93UQ
https://amzn.to/2BgWcDP
https://amzn.to/2B43dYv
物語の舞台であるローマの日常を、アンジェラさんはその描写力でページの中に展開してくれる。ちゃんと現実にある場所を取材してるのだな、と分かる。
例えば……高校生がピッツェリアで寛ぐ。ローマで200m歩けばぶつかるBAR。道路標識(落書きがあったり、古ぼけているのがリアル)。ここそこにあるカメラ。
https://photos.app.goo.gl/opqxqEUyV6j5FxwcA
ローマのシンボル、コロッセオの夜景。テルミニ駅構内。
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家庭の日常としてトルテッリーニスープ、台所の様子。専業主婦の家庭なのだなと 思わせる風景。台所の家具もごく一般のローマの家庭の様子。
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母親が娘を車で学校に送る情景。高校生だから公共交通機関を使って通学ができるわけだけど、母親も仕事を持っていると、出勤しながらついでに送るということがあるのも日常的な情景。
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アンジェラの作品では、登場人物の性格付けがしっかりしていて、それに伴って効果的な表情を描いている。その「時」その人物がどんな感情でいるのかを、作者自身がしっかり把握しているという事。
下↓ 左端の大コマ(1コマ目)の女の子の顔、2コマ目の男の子の顔。この表情だけで二人の関係、二人の感情がはっきり分かる。物語を読んでなくても雰囲気がわかる。
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別の女性キャラ。幼げな、無垢そうな顔で男に媚びている表情がうまい。
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●惜しい!
manga読み、manga構築法の見地から見ると「惜しい!」と思えるところが、ここかしこに見られる。
一番気になったのは吹き出しの位置。
時々自然な読みの方向から外れたところに吹き出しを配置してあるので、ちょっと手間取って読みのリズムが崩れてしまう。読んでて変だなと思って、あ、こっちの吹き出しが先だったかと、もう一度読み直したりして。
例)ページの下段、二つ付いた吹き出しが、二つのコマを跨いで配置されている。こういう配置は、吹き出しが跨る二つのコマがほぼ同時進行で、またがった吹き出しの後、すぐに次のコマに視線を移すのが自然な読み方なのだけど、吹き出しが跨ったコマのうち、左側のコマの下の方に、もう一つ吹き出しがある。跨った吹き出しを読んだ後、次のコマへ行かないで、下の方に配置されている吹き出しを読まねばならない。
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↓このページも、上記と全く同じ状況。はみ出しっ子の吹き出しが、コマの下方にポツンと置いてある。
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「説明不足」というのも時々ある。
その例として、リンク先のページの4段目2コマ目、男が手を包んでいる布?を何かしている。この生命体の世界では「生きた布」を使っている。布は着用している者の意思で後退して肌を露出したり、その逆を行う。
4段目の1コマ目と2コマ目は、その特徴を説明している。1コマ目は肌を露出させてリストバンドを着用、2コマ目は布が再び露出した手を覆っているところ。
でも、パッと見たときに、1コマ目にリストバンドを着用している手首も、露出した手もはっきり見えないので、理解が遅れる。1コマ目の理解が遅れるので、2コマ目で布が後退しているのか、ムニュムニュと這ってきて手を覆うところなのか曖昧になる。
「生きた布」というアイテムの重要性は低いものの、語るからには速攻で理解できるように描いて欲しかった。ここでも、一度読んで「?」が湧いたので、二度読み直してしまった。
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効果薄……。
闘う地球外生命体のうち、地球人を搾取する側が地球人を脅すために、龍を空中に出現させる。問題のページの下段大ゴマに、龍の全体像が真ん中にデン! と置いてある。次のページはページを丸ごと使って龍を置いてある。
残念なことに、両方とも龍の大きさがほぼ同じ。両方共、龍の全身を中央に配置。つまり、「ジャジャーン!!」と出現して地球人が驚くわけだけど、あまり「ジャジャーン!!」な感じがない。
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●ありがとう
キャラの描画スタイルをはじめ、コマとコマの隙間を縦は細く、横は大きめに取るというmanga式。各ショットでは誰の立場から語っているのか、比較的はっきりしているし、キャラの性格付けもバックグラウンドまで含めてmanga的。
だから、構成もmanga風にしているようなので、こうしたちょっとした「惜しい!」が大変惜しく感じるのでありました。
イタリア(というか日本以外)の出版社では、編集者と作者が細かくミーティングをしないし、そういう関係を築いたとしても、manga言語をしっかり把握してる人はまだまだ少ない。
その中でmangaを読み込んで、ここまでユーロマンガとしてmanga言語を駆使する作者が現れ始めたのは、驚くとともに嬉しい。
ただ、何があったのか、アンジェラはこの夏に筆を折る事を決めてしまった。それぞれの事情があり、それぞれの決定を尊重する事以外できないので、ここはアンジェラのユーロマンガの作家として作品を発表してくれたことに、ありがとうと感謝の意を表したい。
アエオンの後に出したBLUEも評判がいい。実はまだ読んでないので読んだらここで書評をするかも。
https://shockdom.com/negozio/fumetti/blue-capitolo-finale/
【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】
台風で被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。
気象予報士の資格を持ち、地質学にも興味があって詳しい弟の話を聞くと、日本列島は人が住んでいられることが不思議なほどの、天災列島なのだと理解できる。そこに実際に1万年以上前から住み続けているのだから、自然と創意工夫に長けていくだろうね、と思った。
iPadのOSが更新されて、iOS13になった。そうしたら日本語入力でちょっとしたバグ。
1)Bluetoothでつなげたキーボードで、イタリア語から日本語への変換(その逆も)が、アプリごとにできたりできなかったりがあった。それはそのまま継承。慣れたからそれはいいんだけど、変換するときのキーが変わってしまって、見つけるのに苦労した。
2)いったんセンテンスを入力し確定して、次に行く時、何故か一文字分スペースが空くことがある。毎回じゃない(よかった)。なぜそうなるのかわからないので、今のところ防ぎようがなく、空いたら詰めるという作業をしている。
それ以外に新しい機能があるらしいけどまだ触ってない。理解してない。
[注・親ばかリンク] 息子のバンドPSYCOLYT (活動停止中、残念!)
お絵かきインスタ
https://instagram.com/midoriyamane
MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
更新しようしようと思いつつ、そのまま…
https://www-indies.mangabox.me/episode/58232/
主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.com/
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