ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。
●ローマでコロナ
約一年経っても、まだ渦の中。この項目はもはや恒例になってしまった。
ローマが州都であるところのラツィオ州は、軽症の黄色ゾーンであったけど、3月15日(月)から2週間、イタリア全土(サルデーニャを除く)が赤ゾーンとなった。
イタリア全土でいきなり感染者が増えたわけではない。4月4日と5日の復活祭休みに備えたのだ。
欧州では、復活祭は日本のお盆のように、都会で勉学仕事をしている人が故郷へ帰る習慣がある。
昨年の今頃、イタリア中がロックダウンに入った時、その前日に一斉に北イタリアから南へ大移動が起こった。北イタリアは連日のように死者が出ていた時期だ。
北イタリアから南の故郷へ帰り、家族と一緒にロックダウンをやり過ごそうとしたわけだが、その結果、感染者が出ていなかった南の地域で感染が広まる結果となった。
当初は復活祭の二日間を全国赤ゾーンに、という案が出たりひっこんだりしていたし、イタリア人のほとんどが、復活祭は外出禁止になるだろうなと予想していた。
ところが、我らが新しい首相マリオ・ドラギさんが、2週間前からの赤ゾーンを発表した。復活祭を故郷で過ごしたければ、長期休暇を取る必要がある。そうできる人は限られるだろうから、一斉に移動のパーセンテージが減るだろうと考えたのだと思う。
ワクチンは、ファイザーの2回接種のものが主に接種されている。ただ、このワクチンはマイナス70度での保管が必要なために、大病院でないと保管設備がなく、接種できる場所が限られてしまう。
アストラゼネカ社のワクチン接種後、ヨーロッパで、イタリアで、血栓症を発病した人が出て死亡者もいた。イギリス、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、ドイツ、イタリアで一時接種を中止したことは、日本でも報道されたと思う。
首相はすぐに出たEMA(European Medicines Agency)の会見で、「アストラゼネカのワクチンで死亡する確率よりも、新コロナのウィルスで死亡する確率の方が高い」と言った。
科学的に、あるいは統計学的に、あるいは感情を交えずに意見を言うと、そんな言い方になってしまうのだろうが、「ワクチンで多少の死者が出ても仕方がない」と言っている風に聞こえてしまう。
行政あるいは科学は、一人一人の人生よりも群全体の行く末を考えるのが役目だから、仕方ないとはいえ、ちょっとなーと、一般人としては思ってしまった。
その後、接種後死亡した人の解剖や検査が進み、死亡原因とワクチンの関連が見つからず、中断が解除になった。
イタリアへのワクチンは、我が家の近所の空軍基地にまず到着するのだが、そのせいか、解除になってからカルゴ機の発着が多い。滑走路まで我が家から直線距離で2キロほどだから、飛行機の発着音はよく聞こえる。
イタリアでは、3月23日現在、4.12%の接種が済んでいる。普通の生活に戻れるのは9月との話だ。
そうこうしているうちに、白ゾーンだったサルデーニャがオレンジゾーンになった。復活祭が近づいてきて、三密を避けるようにとの配慮だろう。
●オンライン授業に欠けるもの
さて、マンガ学校では……全国レッドゾーンなので、授業はすべてオンライン。対面ではないので、講師側が実際に描いてみせるにはそれなりの装置が必要だ。
私の授業はmangaの構築法で、講義と生徒のストーリーボードのお直し(フォトショップで)なのであまり困らないが、もう一人の講師ディアナ嬢は絵の実技担当なので、この時期、水彩とカラーインクでの彩色授業で苦労している。
過去に、デ・アゴスティーニ社の「マンガ&アニメ」というシリーズの監修をした時に、元教え子でもあるディアナ嬢にイラストレーターをやってもらった。彩色の回で、カラーインク、水彩、アクリル絵の具で彩色する過程をスキャンして、ページを構成した。
そのスキャン画像をモニターに写して解説し、生徒が彩色し、スキャンしてTEAMS(マイクロソフトの会議プログラム)にアップしたものを、フォトショップを使い、ワコム社のペンタブレット「シンティック」でデジタルでお直しをしている。
https://store.wacom.jp/wacom-cintiq
●そういえばペンタブ
彼女が授業でシンティックを駆使して、ささっと描いているのを見ると(ディアナの絵のうまさは置いといて)、私も欲しくなる。
iPadとApple Pencilで似たような効果を得ているし、その書き心地には満足しているのだが、オンライン授業はデスクトップを使う。私の画面を共有にして、フォトショップでストーリーボードのお直しをする。ペンタブがないからマウスでお直しをするのだが、限界がある。
どうにかやってるけど苦労する。「この人物をこっちに移して(と言いつつ、フォトショップで移す人物を選択し、マウスで引っぱって場所を移す)。
このコマはひきゴマの方がいい(と言いつつ、コマ全体を選択してコマンド+Tでポイントを出して、全体のサイズを小さくする)。そして、文字ツールで言ったことを書き添える。
ペンタブだったら、あれこれツールを変えないで、紙に赤ペンでお直しするようにペンだけで済む。マウスで書いた文字は読みにくいが、ペンで書いた文字なら判読可能だ。
iPadをiMacのペンタブレットとして使えるAstropadというソフトがあって、ちゃんと購入してある。実は。
https://designfuchikko.com/ipadapp-astropad/
ただ、「まだ」というか、「今のところ」なのか、いまいち使い勝手が悪い。軽く描くと、ちゃんと線が現れない。筆圧を加えると、やたらに太くなる。若干、時間的なバグがある。
慣れればどうにかなることなのか、私のiOSバージョンと、iMacのバージョンと、Astropadのバージョンの三者で相性が悪くて、ずっとこのままなのか、わからない。
デジタル画で仕事をするときは、iPadで直接やってしまって、なかなかAstropadを介しての練習をしない私も悪いんですが。
●2年生の集中授業がきつかった
ユーロマンガコース3年生の授業の他に、2年前からプログラムに組み込んだ、2年生への授業というのがある。
年間を通してではなく、3年の専門コース講師(我ユーロマンガの他に、フランスマンガ、アメコミコースがある)が、一クラスにつき2回×2時間=計4時間の、味見のような授業をする。
3年生になる時にどのコースを選ぶのかを考える助けになるし、選択に外れるコースについても、大雑把な知識を得ることができる。
ユーロマンガは、毎年この時期に順番が回ってくる。2年生は3クラスあり、ユーロマンガの授業がある火曜と木曜を避けて、延べ6回の授業が組み込まれる。
学校外で、ずっとストーリーボードを見て、お直しをしているエレナがいる。彼女は2017年の「サイレントマンガオーディション」で、グランプリを穫った。
このオーディションでは賞を穫った人に編集者がつき、同サイトに掲載するワンショットを描く機会が与えられる(本当に漫画家を育てることを目的とした、他に類を見ないすごい賞です)。
エレナはストーリーボードができると、編集者に見せる前に私に見せる。実に繁く作品を作る人で、当然そのストーリーボードのお直し依頼はしょっちゅうある。
ところが、ここへ来てエレナの質問に答えるのが、苦痛で仕方なくなった。ストーリーボードのどこがなぜ良くないのか、分析して言葉にする。その思考をイタリア語にする。この二つの行為は、脳の似た領域を使うような気がする。
日常の何気ない会話は、もはやいちいち言葉を探さないでできるけど、授業は脳みそをフル回転させてなるべく、正しい、通じるイタリア語の言い回しを考える。
何度も口にしている講義ではあるけれど、さらにわかりやすい言い方、さらにわかりやすい例題などを求めて、若干の変化がつく。また、その時の相手側の反応で変わったりもする。
特に2年生の授業は、実技はなくて講義だけなので、言い回しに気を使う。
エレナの質問到着を意味する、FBメッセンジャーのメッセージ着信の印を、携帯やタブレットで見ると、なにか胃のあたりが重くなるような、うんざりする気分に襲われることに気がついた。すぐに開けないで、数時間放っておくことが続いた。
なぜなのか考えて、2年生への授業が続いたことが原因ではないかと思い至った。昨年のプログラムでは、こんなに集中していなかったと思う。今年は二週間に集中した。
Mangaのページを分析して、「言語に翻訳」し、それを「イタリア語に翻訳」する、という作業に脳みそが疲れ切っていたようだ。
着々と70歳に近づいてる。年齢のせいかもしれない。集中して考える、という脳みその訓練をしてこなかったので、考え始めるとすぐ疲れる……ような気もする。外国語疲れ、というのも溜まってきたような気もする。
気がついた事実を、エレナにメッセージで伝えた。私の冷たい態度は、当然エレナに伝わっていて、「言ってくれてありがとう」と言われた。やはり気にしていたようだ。
経済的な側面から、ユーロマンガコースの希望者が増えて、クラスの数が増えたらいいなぁ、とずっと思ってはいる(時給なので授業時間が増えれば報酬が増える)。
ところが、こうなると実際にクラスが増え、つまり授業数が増えたら、このようにオーバーヒートしてしまうのかな、だったら、報酬よりも楽な方をとりたい、と想像だけで考えを巡らせて、また疲れている。
●フレデリックのユーロマンガ 〜 マンガ・mangaの未来
マンガを通じたお友達の一人で、フレデリック・トゥトルモンドという東京在のフランスの青年(?)がいる。
フランスマンガ(BD)が大好きで、日本でBDを広めたいと頑張って、飛鳥新社と組んでその名も「EUROMANGA」というタイトルの雑誌を刊行したこともある。その当時、イタリア人作家の作品の翻訳を請け負ったりした。
この世界に興味のある人は聞いたこと、あるいは見たことがあると思うけれど、「ラディアン」を日本に持ってきた人です。
2年前にebookjapanを通して電子版の試し配信を開始した。そして、今年の1月、同名の電子版雑誌の月刊誌の配信を開始。ebookjapan、Amazon始め、各電子書店から購入可能となっている。
http://www.euromanga.jp/
3月23日には、東京新聞に小さな記事が載った、とFBに報告していた。
https://www.facebook.com/photo?fbid=2888504554729442&set=a.1498729583706953
着々と夢を実現しているなぁ。
BDは当然、manga文法を使っていないので、主人公に感情移入して、ストーリーを生きる形のmangaだけを読んできた日本の読者には、なかなか受け入れられないと思う。
でも、その色彩の美しさ、描画のレベルの高さを楽しめると思う。そしてBD文法に慣れてくると、内容も楽しめるようになって、あなたの漫画ライフがますます充実します……はい。
BD作家の中にはmangaと日本のアニメで育った人もいるので、mangaの影響を受けている人も出てきている。
前述のラディアンは描画スタイルもモロにmangaだが、描画スタイルはBDだけど読みのリズムがMangaという作家も現れてきて、まさに「EUROMANGA」と呼ぶにふさわしい、ハイブリッド作家が育ってきている。
例えば「ラストマン」(※江川達也「ラストマン」ではない)
https://www.euromanga.jp/lastman-01/
内容紹介にも「大友克洋氏絶賛! マンガ・アニメ世代の作家3人が送る今フランスで最も熱い作品! マンガ的爽快感とバンド・デシネのリズム、双方のいいとこ取りがフランスで話題になった、MANGA×BANDE DESSINÉEのハイブリッド格闘アクション! 2015年アングレーム国際漫画フェスティバル“最優秀シリーズ賞”受賞!!」とある。
大友克洋さんとか、谷口ジローさんとか、最近では、「とつくにの少女」のながべさんとか、日本からもハイブリッドと言える作風(谷口さんと大友さんがBDやアメコミを購入している・していたのは知っている)を持った作家さんが出てはいるけれど。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A8%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%81%AB%E3%81%AE%E5%B0%91%E5%A5%B3
マンガ・mangaの未来はeuromangaから、ということもあるのではないかと思うこの頃。
それは、mangaもマンガも読んでいるヨーロッパの作家から出てくる確率の方が高い。
そういえば、こういう作品がイタリアから出ていた↓
https://www.editorialeaurea.it/editoriale-aurea-aureacomix-107-uncanny-valley-uncanny-valley-c64010001070.php
はい、私がストーリーボードを担当している、ここで何度か「天才的な企画」と呼んで紹介した作品です。
manga文法を使って、「主役(主人公ではなく、その場面を語っているキャラ)」をはっきりさせて、読者が感情移入をできるようにして、主役の感情を描く…ように努めるが、編集の都合上、manga文法ではページ数をとりすぎて受け入れてもらえないケースが多々ある。
すると、どうしてもマンガ文法を混ぜざるを得なくなる。つまり、行動をベースに表現して、背景をしっかり描いて、感情はその視覚要素を総合して想像してもらう。
でも、主役の感情を全面に押し出すべき時は、manga表現独特の大きなキメゴマ、背景なしを使ったりする。つまり、マンガとmangaのハイブリッドのEUROMANGAなのだ。
【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】
お煎餅が好物。里帰りで買い込んできても、すぐなくなる。似顔絵描きで参加するフリマで買ったりしてたが、コロナでフリマは無し。
米粉で醤油煎餅を作れることをネットで知ったので、さっそく試してみた。
https://cookpad.com/recipe/2581704
仕上がりは……硬い。パリッとしてるのではなく、歯がカケそうに硬い。醤油とみりんを混ぜて、生地の上に塗って焼くので香りはお煎餅。
なんで硬くなってしまうのか理由はわからないけど、むしょうにお煎餅が食べたいので、工夫してなんとかサクッと食べられるお煎餅になるよう頑張ります!
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