ローマでMANGA[163]サイレント・マンガと卒業制作と自分のプロジェクトと
── Midori ──

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりしていきます。

前回まで「ローマでコロナ」でローマ、およびイタリアのコロナ情報を書いてきましたが、そろそろいつもの状態に戻っていいかな、と「ローマでmanga」にします。





●それでもちょっとコロナ

3月に世界一の感染者数、重篤患者数、死亡者数を誇ってしまったイタリア。イタリアをあげてのロックダウンを実施し、人と人の接触を激しく規制した結果、みるみる感染者、重篤者、死亡が減って2か月後からロックダウンの段階的解除となった。

大陸を超えての観光客の移動はまだ規制されているけど、イタリア中の移動、ヨーロッパ間の移動はできる。それでも、例年に比べて国境を超えてのバカンスへ行く人が少なく、イタリア人の多くは国内でバカンスを過ごす2020年の夏となっている。

中でも南イタリアのプーリア州(長靴型のイタリア半島のかかとの部分)がえらく人気で、聞く人聞く人プーリアだった。我が息子も友達とプーリアへ行ってきた。同じ時期にベローナの義妹一家もプーリアに行っていたから、一日一緒に過ごしたりした。

南イタリアはローマ帝国が生まれる前に、ギリシャやアラブの植民地として文明開化したから、歴史的にも見るべきものはたくさんあるし、海もきれい。おまけに食べ物がこれまた美味しい。ターラント(かかとの付け根)のムール貝は、小粒だけど味が濃い逸品。

プーリア全土がモッツァレッラをはじめとする「パスタフィラータ」のフレッシュチーズの特産地でもあり、牛乳の生クリーム部分を中に収めた「ブッラータ」もプーリアの特産品。
http://www2.odn.ne.jp/g-cheese/arekore/itaria.htm

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%83%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%BF


……よだれはこのへんで拭いておきましょう。

そういうわけで、気が緩んだ人が多く、「マスクなんて意味がない」という人や「外ではマスクなしでいいんだ」と勝手に決める人が多出。

特に若者が、夜間にパブやディスコでかなりの近い距離で踊って飲んで喋る、海岸でも安全距離を保たないことが多く見られ、そのせいかじわじわと感染者(検査で陽性)が増えてきて、死亡者もじわじわ増えている。

この事実を受け8月17日付けで、屋内屋外にかかわらず、ディスコなど踊ることが禁止され、午後6時から翌朝6時まで人が密集する場所でのマスク着用が義務つけられた。とりあえず9月7日まで。
https://photos.app.goo.gl/nfaAgrWXwQwqAikp8


「踊る」という行為は運動と同じで、心拍数が上がって呼気の広がる範囲が大きくなるからだ。ロックダウン中、家の周りの散歩は容認され、当初ジョギングもOKだったが、間もなくジョギング禁止になったのはこのせいだ。

政府広報のアニメにあったけど、ジョギング中の呼気は長々と尾を引いて20メートルにも及ぶ。普通の呼気は1メートルだ。

未だに新コロナウィルスの性格が正確にわかってないし、ワクチンや特効薬がない以上、最低限の用心をしておくのが良いと思う(帰宅したら手をよく洗う。人が密集する場所でのマスクの着用)。いたずらに怖がったり不安になったりする必要はない。「正しく怖がる」ことが、放射能やウィルスには適切な対応です。

●集中力が上がったリモート授業

さて、manga。新コロナでロックダウンがあった3月は、事実上授業は停止していた。学校側はどのように対処するのかまだわかってなかった。

そして3月の4週目からリモートで授業が再開。3月ほぼ一月授業がなかった分、当初の予定では6月で授業が終わるはずだったのを一か月延ばした。

リモート授業自体はうまくいった。ZOOMの使い方も皆すぐに慣れ、通学の時間がない分、遅刻もほぼなかったし、仕事の都合で早退していた学生も、仕事自体が休みになったために毎回ちゃんと参加した。

教室だと皆の前のやや上方に設置された、それほど大きくないモニターを見上げる。あるいは黒板の文字を追う。教室に他の学生もいるし、「その他大勢」という感覚になるのか、講議中に他のことをしたり、おしゃべりする場合が多々あった。

リモートでは、デバイスを前に我々講師の顔を見て、あるいはスライドを見て授業を受ける。するとサシで授業を受けている感じになるのか、集中力が上がった。

だけど、家でやるはずの原稿制作が疎かになった。昨年までは、一篇20ページの3作品、計60ページ仕上げられたのに。

6月末に授業が終了しても、ネームが終わらない。1月末に提出のはずだったサイレント・マンガ・オーディション用の原稿も上がってこない。3月に休校だった時に何やってたんだ?

↓サイレント・マンガ・オーディション
https://www.manga-audition.com/japan/


リモート授業中に何度も提出するように言ったが、そうした催促の言葉はリモートでは弱く感じるのか。脅迫力が弱いのかもしれない。相手は20歳の若者だから、こっちの手を取り足を取りの引率に慣れている。リモートではその「手を取り足を取り」の感じが薄れるのかもしれない。

我々講師側も、この初めての状況に動揺した。それで、適切な指導ができなかった、と言わざるを得ない。

しかも、卒業試験に代わる最終講評が授業行程が終わってすぐではなく、9月になったことから生徒の「危機感」はますます薄れた。講師は初めてのリモート授業のほうに気持ちが集中して、未提出だったサイレント・マンガ原稿の行方については気が回らなかった。

●新学期から6時起き

今年10月に始まる新学年では、週に6時間だった授業が8時間になった。授業日数が週に二日なのは同じ。教室での授業が4時間、後の4時間はリモートだ。午前10時授業開始だったのが、9時になったのがちょっとなー。それに間に合うためには、6時起きしなければならない。

我が家からだと公共交通機関のアクセスが悪いので、車を使う。ちょうど通勤ラッシュにぶつかる時間だから、余裕を持って家を出る。それに駐車場所を探す時間もプラスする。目覚めてから脳味噌と体が繋がる時間を入れると、逆算して6時起き、ということになるのだ。

リモート授業のみだった今年の4月以降と違って、対面の授業もあるから「脅迫」の効果があると思う。そして、サイレント・マンガ・オーディション。これは、その名の通り、セリフを一切使ってはいけない。演出力をつけるのに最適なので、参加するのを授業の一環としている。

2年つづけて3月末締切だったので、授業が始まる10月から12月までmanga構築法を勉強して、1月はmanga構築法とオーディション応募作品のアイデアを出す作業を行い、2月はネームの作成、そして3月は原稿制作というスケジュールを組んでいた。

ところが、今年は1月締切だった。悩んだ挙句、とりあえず参加を決行した。そのために11月半ばからオーディション用の作品制作に取り掛かったために、構築法の授業が十分ではなかった。

来年の締切はまだわからないが、いつであっても関係なく3月末に提出ということにして、構築法の授業の時間を取ることにした。実際の締切が3月末だったら、実際に応募する。また今年のように早めだったら、無視する。

10月から12月まで、講義をしつつ、何度もネーム作成をさせる。2ページから始めて、だんだん多くして行く。このスケジュールを死守する。

サイレント・マンガの後は、卒業制作の作品を二編作成してきた。現実を題材にする「Slice of life」と空想のファンタジー。

制作がのろのろした今年の結果を見て、どちらか一つを選ばせようか、という案が出てきた。どうするかまだ迷い中。本当は両方経験してもらってから、大海に船出させてあげたいけど。

●自分のプロジェクトは

自分のマンガプロジェクトを二つ持っている。どこかに売り込んだわけではないので、締切などがなくてグズグズ時間ばかり経っている。

それでも、2016年に初めて出版したテーマが自分のテーマだなとはっきりわかったので、そのテーマを踏襲している。自らの幼い頃、昭和30年代の日常生活をベースに、虫眼鏡で見るように主人公(擬似私)の想いを深く、それでいてあっさり描く。

対決が怖い、ということもあって自費出版してフリマで売ろうと思っていたけど、それだけではなくて、イタリアと(マンガ王国であるところの)フランスの出版社に売り込もうと思い始めた、今日この頃。

フランスで出版できるとイタリアより発行部数が多く、結構食べていけるそうだ。私の本を読んだ人から「なぜか懐かしい感じを受けた」とか、「毎日毎日の小さな積み重ねが大事なんだね」とか、「日常って本当は豊かなんだね」などと、ちゃんと読み取ってくれた感想をいくつももらった。

こうしたポジティブな感覚を提供できるなら、私の作品も役に立つ。水墨画風に描くのが楽しくてならないし、「日本」がますますブームになっているヨーロッパでは喜ばれる題材だと思う。

知人ではない人に「何人?」と聞かれ、「日本人」と答えると嬉しそうに笑う人が多い。一度は日本に行くのが夢、ともよく言われる。フリマで似顔絵を描いているときも、日本に行ってきた、また行きたい、と言う人にも多々会った(新コロナ渦が収まらないと、日本へ行く夢が叶わないけどね)。

私の作品では、日本人気質の良いところと、日常生活の貴重さを語っている。それがテーマ。二つのプロジェクトのうち、いま手をつけているのは、もう一つの本命の描き方の練習のつもり。

それにしても、家事炊事に取られる時間をなんとかしなくちゃ。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】

猛暑。郊外の田園生活なので都市よりましなのだけど、エネルギーが吸い取られる感じで、そういう習慣はなかったのについつい昼寝をしてしまう(時間が取られるのは家事炊事だけじゃなかった!)。

先日、午後に霧雨が降って、二重虹がかかった。猛暑の中の清涼剤。幸先が良いような気もして気分が良くなった。
https://photos.app.goo.gl/eu1gdkeBVQbmH1XM9


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