ローマでMANGA[168]私がやらずに誰がやる?!
── Midori ──

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。

まずは、新年おめでとうございます。

とっくにお正月気分などないと思いますが、私としては今年初なのでご挨拶申し上げます。

「風の時代」だとかで、唯物的なものから精神性を重要視していくとか。そうだといいな。

何の話から始めようかと考えて、結局、まだ続いているコレから……。





●ローマでコロナ

2週間ごとに赤、オレンジ、黄の「自粛規制段階」が各州の陽性者、重篤者、死亡の増加加減によって変化する。SNSで「今日はいったい何色?」と書いたカードを掲げる男性の写真が出回ったけど、まさに、そんな感じ。

ワクチン第一弾が上陸し、医療関係者への接種が始まった。ただ、注文した数が全部は届いていないそうだ。

観光業、飲食店、店舗は相変わらず困っている。

しかしながら、この度ほど、いま現在の私の環境に感謝したことはない。

ローマ郊外の元農家で、庭というより農地だから家にいても閉塞感がない。定職がなく、家にいることが多いので、自粛で家にいなくてはいけない、となっても生活に変化がない。

お小遣い稼ぎのガイド業や、フリマでの似顔絵描きの仕事がなくなったけど、旦那が元公務員の年金生活者なので、毎月決まった額が入ってきて慎ましく暮らせば生きていける。

自分のマンガ企画や、学校の生徒作品のお直し、それ以外のお絵描き、読書などあって暇を持て余すことがない。主婦でもあるので、家の中でやることに事欠かない。

元々出不精なので、ますます外出が億劫になっているのが困ったことかな。

そのうちどうにかなるだろうと、新コロナが原因の未来に対する不安もない“幸せ者”です。

●学校の話:サイレントマンガオーディション

1月27日締め切りのサイレントマンガオーディションに、強制参加の作業が続いた。我がクラスは13名。うち一人は、何があったのか連絡がないまま脱落して、現在12名。

https://www.manga-audition.com/


1月の授業が始まって、原稿制作に入ったのが4名。3分の1。ストーリーボードを提出したけど、まだ十分なお直しができてないのが7名。ストーリーボードを出してこないのが1名。

総じて、仕事が早い4名は絵のレベルもそこそこ高く、内容もテーマに沿っていて、見られる。同じ言語で話している感じがあって、お直しも素早くできる。だから、次へも早く進める。

まだ十分なお直しができていないグループの中には、頭を抱えてしまうものを出してくる生徒もいる。最長17ページの物語だという、前提を理解していない。

例えば、なぜか外せない仮面をつけられて苦しむ少女が出てくるが、なぜそうなったのか説明するだけのページの余裕がない。

別の生徒は「悪魔大王が独裁政治を敷く悪魔の世界に悪魔と人間のハーフがいて、その容姿の違い故にいじめに遭い……」という、その世界の説明だけで何ページも使ってしまいそうな設定を持ってくる。

作品のアイデアをいくつか出してもらった時に、当然サイレントマンガのテーマやページ数は伝えてあるのだが、「前から(漠然と)考えてあった」話から抜けられなくて、ちゃんと読者が理解できるようにするには、100ページは要るだろうと思う設定を出してくる。

始めに5つくらい、思いつきでいいからアイデアを出して、と言ったのだが、ここでも早いグループは総じて5つ以上出し、遅いグループは頑張ってせいぜい2つ。

テーマや制限に合ったアイデアが出るまで、こちらの手助けが必要な面々なのだが、こちらにも時間制限があって、一人一人に充分に関わっていけないのがもどかしい。

もちろん、学校外の私的な時間を使って生徒に関わっていけばそれも可能なのだけど、実際問題としてなかなか難しい。

それこそ、無私で家庭も顧みずに関わっていかねばならなくなる。ちょっと罪の意識を感じなくもないけど。

編集部だったら、「これは使えない」で済むのだろうけど、学校なので放り出すわけにいかない。これを書いている時点で、締め切りまでに1週間。もうあきらめて、2月4日の中間考査に間に合えばいい、と思っているらしいけど、それでも遅い。

いかに物語を作ったことがないか、なのかな。

多分、どうやってアプローチしたらいいのか、わからないのだと思う。

こちらも、つい、提出されたものを授業中に皆の前でお直しして、それを授業としているので、提出してこない生徒を疎かにしてしまう。

仕事が早い生徒は、テーマを理解して大袈裟な設定をしない。できて当然だとは思うのだが、作画でもパースや人間の(mangaの)解剖学的な視点から見ても、大きくおかしなところがない。

仕事の遅い生徒には、これにも問題がある生徒が多い。今まで何してたんだ。

こういう問題がある生徒をどう扱っていくのか、どう指導していくのか、そもそも、何かいい方法があるのか。今度、もう一人の講師と相談してみなくては。

●manga文法のマニュアル本

学校では「絵を描く人」を養成する授業が行われている。

講師のほとんどが作画師であるし、欧米では物語を作る人と絵を描く人が別であることの方が多いので、仕方がないといえば仕方がない。

絵を描く人としての授業を受けて来て、パースも人体も低レベルというのも困ったものだ。

そして、(欧米の)マンガと(日本の)mangaでは構成の仕方が違うことを、ここで延々述べているわけだが、mangaの構成文法のようなものを世に出す必要がある! イタリアに住む日本人としてマンガ言語とmanga言語を解し、読者として、編集者として、作者としての経験がある私がやらずに誰がやる?! と、意気込んで始めたものがある。

もう、かれこれ10年以上前になってしまうが、ひとつの企画を立ち上げた。

mangaの描き方のマニュアル本は出ているけど、manga文法、構築法について書いた本は出てないよねと思い、元生徒を作画家に起用して、6つの題材を取り上げて企画を立てた。

1巻目:キャラを作る

作画担当のマウロ君に、落書きに近いかたちで人物を描いてもらい、それを見ながらチャットで人物像を掘り下げ、バックグランドまで考えて、大雑把に16ページのストーリーを作った。そこからストーリーボードを作ってもらい、それに少し修正を加えて仕上げた。

2巻目:フキダシの中の時間

フキダシの位置は読みのテンポを制御する。どのように読みの速度を決定するのか、例をあげて解説。

3巻目:コマ、連続した物語

キャラの動き(これを通してキャラの感情を表現する)をスムーズに伝えるための技法。

4巻目:コマ、大きさと形。コマの大きさの意味。斜めゴマの意味

5巻目:キャラクターの種類と役割

6巻目:良いストーリーボードの作り方

2011年のことだ。その名も「MangaBook」であった。

当時、学校に出版社機能を持つ部署があって、校長に企画の話をしたら学校で出そうということになって喜んだ。でも、3巻目まで印刷はしてくれたものの、そこで止まってしまった。書店に配本するはずだったのに。

私の性癖で、ことが頓挫するとそこで私も頓挫してしまう。受け入れられなかったのだから、仕方ない、それ以上押すのはいけない、と思ってしまう。

だから、Manga Bookはもうダメなんだと思い、印刷されて本になった3巻目と、レイアウトが済んでPDFになった4巻目を、USBに入れて家に持ち帰って終わった。

でも、残念でならない。ずっと頭の隅にMangaBookのことが引っかかっていた。

どんな形でも進めればいいじゃん! そう気がついた(遅い!)のはつい先日。

イタリア人の友人、ユーロmanga家のサルバトーレ君は、manga事情や、書評などをFBに投稿し、よく仲間のお喋り場所を提供している。彼のページで、manga制作に役立つ本という題していくつか本を挙げ、その中にMangaBookも入れてくれた。

↓サルバトーレ君のソーシャル
https://www.facebook.com/pascarella.salvatore

https://www.instagram.com/salvatorenives/?hl=ja


その投稿を読んだ人から、「どこで買えますか」と問い合わせがきた。

需要があるのなら供給しよう! 役立つなら! ソーシャルとかブログで発信すればいいじゃないか! とやっと思いつき、サルバトーレ君のその投稿のコメントで「何らかの形で発信するから!」と言った。

とりあえず、作画を担当してくれた絵師さんたちに打診して、快く承諾の返事をもらった。

前にアカウントをとっていたNoteに、ブログ形式で出すことにした。一巻づつ全ページを投稿するのではなく、ブログ形式に合わせ、短い記事にしていく。
https://note.com/midoroma/m/ma97720396c27


Noteは文と画像を簡単に交えて表示できるのでありがたい。複雑なレイアウトはできないけど。

NoteのリンクをFBに開設した「mangaエディター」ページに貼り、これをまた私の個人ページで共有した。
それを前述のサルバトーレ君が、自分のページに共有してくれる。

バズるほどではないけど、サルバトーレ君には彼と同年代のマンガ家、マンガ家志望者が多いので、喜びのコメントが多くてやる気も上がる。

3日ほぼ連続して投稿した。テキストはできているから、どの部分を投稿するかを選択すればいいので、それほど時間はかからない。

そうしたら、知り合いで小さな出版社をやっているラウラ・スカルパさんから、自分のところで出したかった、とコメントをもらった。

あ! 彼女がいたじゃない! 何で思いつかなかったんだろう!!!!!

ラウラさんは「スクオラ・ディ・フメット(マンガスクール)」という雑誌を出しているくらい、マンガを教えることにも興味がある人。自身も漫画家、イラストレーター。

↓ラウラさんの出版社
http://comicout.com/


さっそく、ラウラさんに4冊分のPDFを送り、電話で話をした。

内容はよくできていて、出さないのはもったいないと言ってくれた。

学校で出した雑誌のような形式ではなく、本の形態にする。4冊に分けずに、せめて2冊にする。カラーだとお金がかかるので白黒。

印刷屋さんと相談して見積もりを出してもらうから、ちょっと待てって、とのことだった。

ウチは小さいから、たくさん報酬を出せないけど……とのことだったが、作画を担当してくれた元生徒に幾ばくかあげることができたら嬉しい。私も幾ばくかもらえたら嬉しい。

そして何よりも、manga文法が広まるよう、もう一歩を踏み出せたら嬉しい。

●進撃のエレナ

前回にも出てきた「教え子」のエレナは、「日本市場でプロになる」という夢を追いかけ続けて、日本の出版社が提供する新人賞の類を探している。

何度もここで触れている「サイレントマンガオーディション」をはじめ、日本国外からの参加を受け付ける賞が増えている。エレナはサイレントマンガで2017年に大賞を取ってるし。

そして、昨年見つけたのが「マジック・インターナショナル・マンガ・コンテスト」だ。

http://www.magic-ip.com/it/magic-international-manga-contest-2021-iscrizioni-aperte/


開催者はMonaco Anime Game International Conferenceという、モナコ公国のアニメ(「アニメーション」ではなく「アニメ」。この言葉はもはや外来語として日本のアニメをいう時にヨーロッパで定着している)を題材としたイベントを行なう会社のようだ。

このマンガ・コンテストは金銭の賞はないが、集英社の「少年ジャンプ」と提携していて、大賞を取った作品は「少年ジャンプ」のウエブマガジンに掲載される。

ウエブであっても、あの「少年ジャンプ」に掲載される!

昨年の10月27日締め切りで、11月16日に一次予選があった。10人の中にエレナが残り、今月14日の二次予選で5人の中に残った! 2月27日に最終審査がある。

キャラクターデザインとキャラの性格は、小林まことさんのキャラに似たエレナの絵柄によくマッチしてるし、

↓小林まことさん
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%9E%97%E3%81%BE%E3%81%93%E3%81%A8


(私のサジェスチョンもあって)内容もとてもわかりやすい。感情もよく表現されている。だから、かなりいけるのではないか、と思っている。

2月26日発行予定のデジクリ「ローマでMANGA」で、受賞!!! のニュースをお届けできる……といいなぁ。

今また、別のコンテストに参加するための作品を準備している。モチベーションを高く持ち続けているのは本当にすごい。

そして、2017年にサイレントマンガで大賞を取ったとき、私のサジェスチョンがかなり効果があったと思ってくれていて、必ず私にアイデアの段階から声をかけてくれる。

彼女の情熱に惹かれて、FBメッセンジャーで声がかかると、つい答えてしまうのだった。

エレナが日本市場でmanga家になり、私が、こちらにはいないmanga編集者としてイタリアマンガ界に認められることになる2021年にしようね! と言い合っている。

私も頑張ります。manga家として、そしてmanga言語を交えたストーリーボード作成者としても。

manga家としては細々とやっている。生涯のテーマがはっきりしているので、もうちょっと頑張って世に出していかなくちゃ。

ストーリーボード作成者としては、何度かここで述べた「天才的な企画」で実現している。ただ、絵の担当者の仕事が遅くて、企画出発から4年も経ってるのにまだ終わらない。勘弁してよ。

物語の作者と、次回はこの絵師さんは外そうね、と言っている。いい絵を描くのだけど、しょっちゅう落ち込んで作業が止まったり、他の仕事を優先してこちらを後回しにされのは困る。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】

いやぁ、疲れました。米大統領選。11月3日から1月20日まで、下手な映画よりドキドキした。

トランプ大統領任期中、態度がでかいとか、口が悪いとか、Twitterを使いすぎるとか、悪口を言われ続けていたけど、粛々と公約を守っているだけじゃない、と思ってまったく悪い印象を持っていなかった。

私の周りでは、幸い息子だけがそれに賛同してくれた。今回、別の方が大統領に就任したのがすごく残念。

陰謀論とか夢物語とかいろいろあって、それもなかなか楽しかったけど、表に出ているはっきりした現象だけを見ても、今回の選挙で表に出て来たものは、変じゃない? ソーシャルシステムがこぞってトランプさんとその支援者のアカウトや投稿を削除。

民間の、でもこれだけ大規模で世界中に影響を与える会社が、どの情報を出すか、誰が出していいかを決めていいの?

トランプさんのTwitterアカウントが削除された時に「ザマァみろ」とコメントした友人がいたけど、自分の嫌いな人が発信できなくなる、っていうそれだけじゃないと思うんだけど。

中立な立場のParlerというプラットフォームに、トランプさんはじめ保守派の人間がこぞってアカウントを作ったら、アップルとAndroidでappの配信を停止? アマゾンがサーバーを提供しない? 何それ。

何でそんなに怖いの? ちなみに、削除されてるのはトランプさんとその仲間だけではなく、トランプさんを支持する一般の人もだから、本当に、何を怖がってるんですか? 本当にこの状態って正常ですか?

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