泰国パパイヤ削り[X2]鉄壁の助っ人。
── 白石 昇 ──

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gu123エロ本奪還大作戦三日目、次の代理人への交渉などを済ませたので、ついに借りた金返して預けているエロ本二千七百冊を奪還しするために出動。

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白石昇です。僕は部屋に戻っても眠ることなく、朝四時前に港へ行き、始発のバスに乗りました。そしてバスの中では当然のように熟睡していたのですが、ちょうどパパの住む家の一キロほど手前で目が覚めたのです。


バスから降りるとまず僕は、タノムサム兄さんの家を訪ねる事にしました。正直言って僕は一人でパパと対面するのが嫌だったし、何人かで行けばパパが取り乱す確率はぐんと低くなると思ったのです。

そうなのですそういうひとなのです。パパは普段ひとに対して強気に出るようなひとではないのです本来は。ただ、そこに金銭を伴う関係が出来ると著しく勘違いして傲慢になるひとなのです。

だから出来ればタノムサク兄さんについてきてもらった方がいいと思ったのです。元ジュニア・ウェルター級のチャンピオンで、身長が一八〇センチを超えるタノムサク兄さんが一緒にいれば、最悪、暴力沙汰は避けられるはずなのです。

だってタノムサク兄さんは日本でソースネクストってソフト会社のコマーシャルに出ていたくらい見るからに迫力があるタイ式ボクサーなのです。兄さんの前で暴れようなんて人はなかなかいないはずなのです。

僕は今まさにこれから選手がロードワークに出ようとしているジムのドアを開け、その中を通って、タノムサク兄さんの家に行きました。家と言っても単にジムに隣接している六畳ほどの部屋に、奥さんと子供の三人で住んでいるだけです。

奥さんが部屋の前にタライを出して洗濯をしていたので僕は、兄さんいらっしゃいますか? と聞きました。奥さんは、あらひさしぶりねえ、元気だった?と言ってから、兄さんはね、またスイスに呼ばれて行っちゃったのよ、とおっしゃいました。

そうなのですタノムサク兄さんはトレーナーとして時々外国に呼ばれる事があるのです。向こうでK-1の選手とかにコーチしたりしているのです。

奥さんのその言葉を聞いた瞬間、僕の中ですっかりできあがっていた用心棒同伴円満奪還計画は激しい音を発てて崩れはじめます。僕は、あ、ならいいです。有り難うございます、と奥さんに言ってジムをあとにしました。仕方がありません。こうなったら他を当たるしかありません。

どう考えてもひとりで行けばいたずらに時間がかかるだけだし、そもそもひとりでは二千七百冊ものエロ本を運び出すことなど不可能です。一〇〇冊で十五キロだから、三〇〇キロ以上あるのです。誰かに手伝ってもらわなければなりません。

僕はとりあえずその近くにある旅行者御用達の安宿に向かいました。おそらくそこにはまだ、友達の日本人旅行者が泊まっているはずだと思ったのです。

その宿はちょうどレストランとして新しく建設中の建物で、その二階に旅行者が泊まっています。管理人はいません。言ってみれば建設中の建物を常連の長期滞在旅行者に貸しているような形なのです。

ジムから歩いていって僕がその宿に入ると、現在宿泊している旅行者は二人で、どちらも知っているひとでした。僕はとりあえず二人に事情を話しました。彼らは起きたばかりで目がぼーっとしていましたが、そういった事情なら、と同行することを快く承諾してくれました。

とりあえず銀行が開く八時半まで待って、私と彼らは三人で歩いて銀行に行きました。そして銀行でパパに借りた金額と利息分のお金を一気に円からバーツへと両替しました。僕の貴重品袋が一気に千バーツ札の束で膨れあがります。

そして僕たちは三人でパパが住むマンションに向かったのです。このマンションを訪れるのは初めてではなかったので、警備員さんは顔を覚えてくれていたらしく、挨拶するだけて中に入れてくれました。

そしてエレベーターを使って上がりドアの前まで来ると、正確に、強く、大きな音でパパの部屋のドアをノックしました。すると、がちゃり、と音がしてチェーンをしたまま部屋のドアが十センチくらい開きました。

その隙間からパパが顔を見せ、僕の姿を確認すると、一瞬息がつまったかのように表情を止めました。僕はどきどきしていたのですが、とりあえず今の自分に出来るだけの笑顔を作り、必要以上にに明るい声で次のように言いました。

おはよーございまーす。おかねかえしにきましたー。

つづく。

【しらいしのぼる】http://d.hatena.ne.jp/whitestoner/

言語藝人。昭和44年5月1日長崎県西彼杵郡多良見町生まれ。『抜塞』で第12回日大文芸賞を受賞。訳書にノート=ウドム・テーパニット『エロ本』、『gu123』。

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エロ本
テーパーニット ウドム 白石 昇
白石昇事務所 2002-08-19
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by G-Tools , 2006/10/20