創作戯れ言[5]評価について
── 青池良輔 ──

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コンテンツ制作を行う上で、常に気になる事に「評価」があります。

感想やコメント、クライアントの満足度など様々な形で受け入れなければいけません。もちろんそこには「良い評価」と「悪い評価」があり、なるべく良い評価を得られる様にがんばっている訳ですが、「評価ばかり気にしていると良い物はできないよ」という話も耳にします。

評価を気にして作品が良くならない理由は、「萎縮する」「ウケ狙いに走る」「こびる」「安全策をとる」などでしょうし、確かに健康的な創作環境とは思えません。クリエイターと名乗る限り、自己表現はちゃんとしておきたいと思うのが当然だと思います。しかし、「評価を気にしない方が良いよ」という言葉には、何となく偽善のニオイも感じてしまうのです。極端な話、全く評価を気にしないということであれば、作品には表現の勢いや個性は出る可能性が高くなるかもしれません。しかし、「で?」と。


少なくとも、コンテンツ制作という仕事においては「努力」は作品自体の評価対象ではないと思います。ものすごくがんばって作ってみても、長年温め続けた企画を食う物も食わず必死に完成させたけど、「で?」と。こういう事をいうと冷血なプロデューサーのようですが、コンテンツの評価の基準がそこにないのですからしょうがないかと。

僕の場合、今まで作ってきたコンテンツのほとんどは受注であれ、オリジナルであれ、なにかしらの「対価」をもらって制作しています。その対価は、評価の金額換算と考える事もできるでしょう。より自分のコンテンツを高く買ってもらえるには、それなりに評価を予測する意識をもっていかなければいけないと考えます。よりコンテンツを魅力的に見せる創意工夫を取り入れたり、アイデアをもう一段深くブレインストーミングしてみたりというのは、決してマイナスではないはずです。「前向きに評価を気にする」ことで「萎縮」は「空気を読む」、「ウケ狙い」は「ターゲット設定の明確化」、「こびる」は「よりわかり易い内容、ユーザビリティーを考える」、「安全策」は「メジャー感をもたせる工夫」に変わっていくのではないかと思います。

そこで改めて「評価を気にしない」という言葉の偽善を考え直してみると、「評価と向き合う事を避けている」ように思えるのです。僕はコンテンツ制作をする時に、かなり評価について悩む方ですが、正直いつも「怖い」です。企画書でも、脚本でも、作品自体でも、それを見せる時には「う〜」とか言いながら、もじもじしています。もちろんできる限りの努力をして良い物を創ろうとしていますが、「はぁ〜ん。がんばって、この程度?」と言われる恐怖は、自分の才能や人間性を否定されているように感じてしまいます。

完全燃焼して「イマイチ」と言われる位なら、「評価は気にしない」というヨロイを着込んでしまった方が安全です。そして「純粋な自己表現を追求してみたい」という言い訳を準備した安全策こそが偽善のように思えるのです。良い評価が出たら身を翻して「狙ってました」と言いそうな口先だけの軽さを感じるのです。

では「ひたすらにズルく。計算高く作品をつくればいいのか?」というと、ちょっと考えてしまいます。「分析」とか「駆け引き」とか「誘導」とか、それはそれで非人間的な感じがします。理詰めでプランニングされ、評価さえ計画の中に取り込んでしまえば、何を言われても怖くなくなります。ただ、これは大変極端な例で大手の代理店にでもならない限り実現は難しそうです。

僕などは、「評価を気にしないっていうのは、偽善っぽい」「評価は気にして制作してるけど、怖い」「理想の結果を出せるような分析力もない」と、ただ翻弄され憔悴していっているような感じがしますし、どこかで手を打たないと、コンテンツ制作そのものができなくなりそうです。

今の時点では、言い訳や恐怖や分析など全てをひっくるめ、自己評価と自己分析の結果を具体化して、自分自身の背中を後押しする必要があるようです。

コンテンツ制作の実際において、周りの人の意見や決定を除き、もろもろ自分で決めないといけない事には、「こうやったらこう言われるだろうな・・」という「漠然分析」。「あ〜、なんかヤバい感じがするけど、これでいこう」という「恐怖対策」。「この位は言い訳させてもらおう・・」という「甘える準備」など、心の中にラインを引くしかないかなと思っています。

外部の評価と上手く付き合うには、まずこの自己評価が納得できる所までの作品を作れば良いと感じます。最終的に褒められても、叩かれても、自分の中でもろもろの「評価基準」ができていれば相対的に判断できるでしょうし、コンテンツ公開前から無駄に怯えなくても良いような気がします。

自己評価の基準は、経験や自信などで刻々と変化してゆきます。良いと思っている事も、ケースバイケースで判断が変わってきます。立ち位置が変われば、同じ評価を外部から受けてもその感じ方も変わるでしょう。今の自分が「面白い」と思える物に注力するのが第一なのかもしれません。

生意気言いました。

【あおいけ・りょうすけ】your_message@aoike.ca
< http://www.aoike.ca/
>
1972年生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。学生時代に自主映画を制作したのち、カナダ・モントリオールで映画製作会社に勤務する。Flashアニメシリーズ「CATMAN」でWebアニメーションデビューする。芸術監督などを経て独立し、現在はフリーランスとして、アニメーション、Webサイト、TVCMなど主にFlashを使い多方面なコンテンツ制作を行う。

・書籍「Create魂」公式サイト
< http://www.ascii.co.jp/pb/flashbooks/create-damashii/
>

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青池 良輔
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