●体験留学で里帰り
今年3年目になる体験留学のために東京に来ている。体験留学というのは、私がMANGA・セミナーの講師をしているローマを本校とするマンガ学校で、3年間満点を取った生徒に授与される奨学制度で、水道橋にある東京アニメーター学院で2週間にわたって普通の授業に編入させてもらう仕組みなのだ。
私は通訳として参加するので、この時期、仕事で毎年里帰り。実家の家族の顔を見られるのが嬉しい。
イタリアでマンガ学校に入ろうとする子達は、日本のアニメのTV放映と日本のMANGAを見て育っており、日本風のマンガを描いて日本の出版社から作品を出したいという夢をもっている。さかんに「ドラゴンボール」や「らんま」のキャラクターを描いてその夢を膨らませながら、ある程度成長するとマンガ学校の門をたたくわけだ。
ところが学校では、日本のMANGA風の絵を描いても仕事に結びつかないので、徹底して「矯正」し、フランス風、アメコミ風の絵を描くようにする。矯正された後も、日本MANGAへの憧憬を捨てたわけではないから、学校が優秀生徒に用意する東京への体験留学は、夢の一部をかなえることになる。
●ヨーロッパのマンガはMANGAではない
3年制の我がマンガ学校では、最終学年時にコースを選択することになっている。フランスマンガ(バンドデシネ)、アメコミ、イタリアンコミックス、ユーモアの4つ。中でも自分の作家性を出すことができ、しかも仕事になる可能性が高いバンドデシネコースを選択する学生が多い。フランスのマンガ市場が大きいことの証拠でもある。大きいと言っても、このコラムで何度か書いているように、日本のMANGA市場とは比べ物にならないけれど。
今年も、ローマ校からの学生とフィレンツェ校からの学生に、作品集を作って来てもらった。体験留学先で作品集を見せると、ここ2年間同様、日本人学生達、先生方から感嘆の声があがる。出版社に見せても、やはりうまいですねーと言われる。
昨年誕生したコミックスエージェンシー・ネコノアシも、今年は押したい作品の数ページを翻訳したものを冊子にして持って来た。それを出版社に見せると、やはり興味を示してくれる。もちろん作品を見せる出版社は、海外の作品を出版したことのある会社に限っている。でも、その興味は編集者の個人的な興味に留まる。
それは、日本のMANGA市場の特異性の故だ。日本のMANGAは、もちろんいろいろなジャンルがあるけれど、「MANGA文法による」という不文律があり、これ以外は奇異なものとして無視される。特に、最近の萌え系のグラフィックの前では、さらに奇異感が増す。MANGAの読者はヨーロッパマンガを無視する。
つまり、MANGA市場にヨーロッパマンガが入り込む隙はないわけだ。作品を見せた出版社の一つは、コミックス作家をアーチストと位置づける。ミュージシャンやイラストレーターとしても活躍する作家を扱い、そのアーチストの表現の一部としてコミックスを位置づけてコミックスを売る。もう一社は、社会における差別をテーマにした出版活動を行っているので、そのポリシーに合えば海外コミックスを出版するのにやぶさかではない、という姿勢を取っている。
いずれにしても、日本のMANGA界に、日本のMANGA家志望者がやるように、出版社に持ち込んだり新人賞に応募したりしても無駄……ということになる。他のジャンルではそこまで頑なではないのに、なんでMANGA界ではこうなのだろう。今年はこの壁をすごく感じる。
mixiのバンデシネを研究するコミュニティ(BDをもっと知りたい)に参加して、体験留学の度に交流会を持っている。ブログはこちら。
< http://1000planches.org/
>
そこに参加する人達は多かれ少なかれ、視覚伝達美術に関わったり興味を持ったりしている人だ。一般MANGA読者と一線を画する。
●ヨーロッパマンガのジャンルはなに?

< http://www.euromanga.jp/
>
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4063788865/dgcrcom-22/
>

●ヨーロッパマンガとヨーロッパMANGAあるいは思考のためのメモ
私が夢見ていることは、大きく二つに分けられる。
その1:ヨーロッパのマンガを日本市場に持ち込むこと。
日本のMANGA市場の特異性がなんなのか、なぜ他の分野で起こる受け入れがMAN GA市場では起こらないのか。これを考える必要あり。じっくりと早急に。ヨーロッパマンガは日本に知られていないので、ともかく存在を知らせる必要あり。
その2:ヨーロッパのMANGA家を志望する若者に発表の場(仕事)を作ること。
MANGAに憧れて、MANGA家になりたい若者のエネルギーはすごい。このエネルギーは今のところ、地表には出ずに地下でくすぶっている。真の姿は、このエネルギーが自然に爆発して形を成すことだろうと思う。アングラ的に市場を形成したりして。
問題のひとつ、少なくもイタリアでは読者側がイタリア製のMANGAを受け入れないこと。他のジャンルではそうではないのに、この特異性は日本市場の特異性と共通点があるのだろうか?
もう一つの問題。MANGA家を目指す者達はグラフィック面でのコピーに留まっているから、MANGA文法を彼らに伝える場をもっと大きくする必要があるのか、つまり、こちらから手を出すべきなのか。
疑問。イタリア製の面白いMANGAが出れば読者は受け入れるのか。MANGA世界が作っている特異性の方が強いのか。
究極の夢は1と2を合わせて新しいマンガ、MANGAを作る事。いや、私が作るのではなく、出てくるのを見届けること。その道をじっくりと早急に探すこと。おばあちゃんになってしまう前に。
【みどり】midorigo@mac.com
今年の里帰りでは夏目房之介さんとお近づきになることができた。
< http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2008/11/post-eab5.html
>
さらに、熱くアメリカのコミックスと作家を日本に紹介し続けるceenaさん、
< http://d.hatena.ne.jp/ceena/
>
「Euromanga」の発行者さん、「BDをもっと知りたい」の責任者さんら、海外マンガを日本に紹介したいと熱望する彼らとネットワークを作り、さらに交流を深め、一人ではできなかったことも知恵を絞り合ってなんとかしたい、そんな考えも生まれたのが、今回の里帰りの大きな収穫でした。
そういうわけで、ものすごく忙しい2週間の東京生活を送っています。いろいろ考え、いろいろ見聞きし、イタリア人と日本人の間に入って同時通訳やら、両方向へ説明やら、頭もフル回転を余儀なくされてます。
イタリア語の単語を覚えられます! というメルマガ出していたけど、結果として中断中。
< http://midoroma.hp.infoseek.co.jp/mm/menu.htm
>