●「実録! 少年マガジン編集奮闘記」に出会う
この場合の「出会う」は、「運命的に」というニュアンスが後ろにある。すべての出会いは「運命的」なのだけど、自分の人生に節目をつけてしまうような大きな意味合いをもつ出会いのことだ。
東京滞在中に当然本屋へ行ったわけだけど、そこでタイトルと著者に引かれて買ったのが「実録! 少年マガジン編集奮闘記」宮原照夫著(講談社刊)だ。
宮原照夫さんは、今の私を作るきっかけになった方と言っても差し支えない。宮原さんは「少年マガジン」で「巨人の星」、「明日のジョー」を世に出した仕掛人だ。当時、「少年マガジン」の編集部員でこの二大作品をプロデュースしたのだ。
当然、このMANGAを読むために「少年マガジン」を、毎週ではなかったけど買った。さらに同誌の編集長だった時に、上村一夫、川村コオといった劇画家、大人向けのMANGAの作家に読み切りを描かせる企画をたて、それが面白くてわたしも毎週買った覚えがある。今でもその頃の数冊を持っているくらい。グラビア2色刷りが新鮮だった。「巨人の星」連載開始が1966年だそうだから、「少年マガジン」には中学、高校、大学とお世話になったわけだ。
就職する頃、友人が「少年マガジン」編集部に勤め始め、MANGA好きの私に編集者を一人紹介してくれた。そこでは仕事には結びつかなかったけれど、イタリアに滞在するようになってから、その編集者を通じて、当時マンガ編集局長をされていた宮原さんを紹介してもらった。宮原さんは海外のコミックスに興味を持っていて、イタリアのコミックスをレポートするお仕事をいただいたのだった。
宮原さんが「少年マガジン」の編集長だった頃、編集部員として編集者教育を受けたKさんが、後に「モーニング」を創刊して編集長になり、そのkさんを通じて「ローマ海外支局」の任を受けたのだから、宮原さんなくして、今の私はなかった。
そんな事もあって、この分厚い本を見つけた時、迷わずに買ったのだ。しばらくご無沙汰してしまっている宮原さんへのご挨拶のようなつもりでもあった。
●今のMANGAは自然に成ったのではない
ローマ宅に帰ってから、食後の30分とか、就寝前の30分とか時間を盗んでこの本を読み始めた。読んでいるうちにドキドキしてきた。すごく鼓舞されるのだ。
宮原さんは、「巨人の星」「明日のジョー」の他に、その前に「ちかいの魔球」、「紫電改のタカ」をプロデュースしているのを知った。この頃は、雑誌を買うには幼すぎたが、祖母宅の貸間に住んでいた男の子がこの雑誌を時々買っていて、遊びに行っては夢中になって読んだのだった。
こうして私の成長期に傍らにあったMANGA達の多くが、宮原さんの手になっていた事を知ったのも驚きだったけれど、それ以上に、今のMANGAの在り方が形成されて行く歴史をこの本は教えてくれる。
自然に成ったわけではなかったのだ。編集者、編集部、漫画家の熱と努力の賜物だったのだ。MANGAの多くは当初、ギャグが主流だった。宮原さんは、「ちかいの魔球」をプロデュースした頃から、MANGAが小説に対抗するメディアにならないか、という考えが脳裏をよぎるようになったという。
当時の「マガジン」の柱だった「8マン(桑田次郎画)」の連載中止と「W3」(手塚治虫)の「サンデー」への移籍という事件を機に、逆境に敢えて攻撃に出て小説に対抗できるMANGA、「巨人の星」プロデュースとなったのだそうだ。
重ねて言う。今のMANGAは自然に成ったのではなく、プロデュースされたものだった! その事を改めて知ったのが、目から鱗、ドキドキの原因だ。宮原さんが、またしても私の人生の節目に現れた!!
●私の使命がはっきり見えて来た
昨年、コミックスエージェンシーを立ち上げて、イタリアと日本のマンガの橋渡しをしたいと、漠然と言っているが、この本を読みながら私が本当に望んでいることが自分で見えてきた。
不毛なるイタリアマンガ界に一石、いや大きな岩を投げ込みたい…ということなのだった。イタリアのマンガ家志望者達が、外国へ行かないと仕事にならないというのはおかしい。イタリアの読者が、自国のマンガ家の作品ではなく外国の作品しか選択技がないというのもおかしい。
成るのを待っていないでプロデュースしていいのだ!! コミックスエージェンシー・ネコノアシは資本がなく、出版社でもない。また、誰も月給を出してくれないという問題もあるのだが。
講談社の「少年倶楽部」から「少年クラブ」へ。さらに「少年マガジン」へ。そして私つながりで言えば、「マガジン」から「週刊モーニング」へと。編集者の在り方、プロデュースのノウハウなど、長年の蓄積がそこにあった。
ネコノアシには、それがない。だが、編集者の在り方は、今でもつながりのある「モーニング」の編集者とイタリア人作家のやり取りなどを通して、私にもわずかだが伝わっている。それをイタリアマンガ界へ伝えて行く事、イタリアマンガを興すこと。それこそが、こうして今ここにイタリアに暮らし、ずっとずっとMANGAを離さずにいた私の使命ではないか!!
今、約半分まで本を読み進んで、ますますドキドキしているのだった。
【みどり】midorigo@mac.com
イタリア中、雨に見舞われている。テベレ河の水位が危険なくらい上がり、我が家でも庭がプール状態になった。半日ほど太陽が出ることもあるけれど、また雨模様。湿気が骨までしみ込んできそうで、寒い、寒い。
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