●ネコノアシ、ルッカ・コミックスに行く
ルッカというのはフィレンツェにほど近い小さな町で、町を取り囲む外壁が完璧に残っているので有名だ。
この町で毎年10月末に、町をあげてコミックスフェアが開催される。ローマでも、ルッカコミックスの直前にコミックスフェアがあるけれど、こちらはほぼ商品見本市のようになっていて、グッズコレクターには便利だけれど、新人同人誌や出版社の動向や出版社との交流といった文化的な面がどんどん消えていっている。
ルッカコミックスはそうした面でも見るべきものがある。ルッカにはいくけどローマには行かないという作家も多い。
そのフェアに、デ・アゴスティーニの仕事の合間を無理矢理作って行ってきた。コミックス・エージェンシー「ネコノアシ」としての仕事が宙に浮いてしまっている。それだけに、作家さんが集まるコミックスフェアへ行って、実際に対面し挨拶くらいするという行為は再始動にふさわしい。
二年前に、学校の教務課長ジョルジャと立ち上げたコミックスエージェンシー「ネコノアシ」は、発足年にディジタル印刷でカタログと名刺を作って東京の出版社を周った結果、イタリア既成作品をこのまま日本の漫画市場に持ち込むのは無理と痛感し、シッポを股の間に挟んですごすごと帰ってきてそのままだったのだ。
ルッカ行きを決めたところで、デ・アゴスティーニのウェブ部門から「登録者との交流のため、スタンドに来てくれませんか。ウェブに載せるインタビュー画像も撮りたいので(薄謝も出します)」という申し込みもあって好都合。フェアに無料で入場できる。何よりも切符を買うために延々と並ばずに済む。
●久々の列車の旅
ローマテルミニ駅からルッカまで直行の列車はなく、フィレンツェ乗り換えでほぼ四時間。切符はもちろんオンラインで購入し、スタンプして持参する。夜明けに起きて車を運転するのがちょっと辛い。
ローマからフィレンツェまでは高速列車なので一時間半の旅。BAR車でもたもたコーヒーなど飲んでる間に着いてしまう。移動ってどうしてこう楽しいんでしょ。車窓の向こうを移り行く景色は見ていて飽きない。
フィレンツェで近郊距離電車に乗り換え。これが待ち合わせを含めて二時間ちょっとかかる。車窓から景色を眺める時間がたっぷりあるわけ。車内は二列縦並びの席。久しく列車に乗らないうちに、IT化がここにも進み、時速、車内と車外の気温、トイレの使用状況を示すモニターがあった。
出発してすぐ、トイレの使用状況が『Allarme SOS』つまり「SOSサイン」となっていた。最近、レイプ事件が社会面をにぎわしており、列車内での事件もあったばかりで、通路を隔てた席に座っていた男性もモニターを見ていて、ちょっと目で「?」をやり取りした。
車掌に連絡した方がいいのか、こうしてぼーっとしてる間にトイレで悲惨な事が起こっていたらどうしよう......といろいろ想像しているうちに、小一時間ほどしてアラームが消えて「使用可」の表示になった。翌日の新聞にも何も出てなかった。
●緊張のインタビュー撮り
ルッカはルネッサンス期の町並みがそのまま残っている。町を取り囲む外壁の要所にフェアのスタッフや市警がいて、道を尋ねるのに困らない。
昨日からルッカに行っていた、ジョルジャと連絡を取って落ち合う。町の中心の広場(イタリアの中世起源の町はまず広場が中心にあり、その広場に教会と市役所があって、それを取り囲むように町が広がる)に大テントがいくつもあって、それが主な会場になっていた。そのうちの一つがレセプションで、そこでスタッフカードを受け取る。これでどの会場にもフリーで出入りできる。
とりあえずデ・アゴスティーニのスタンドへ行く。
インタビューの時間を決めているうちに、「漫画の描き方コミュ」でやり取りをしていた若者三人が現れた。この三人は、コミュ登録者の中で、「技術的にもあるレベルに達し、本気でプロになりたいと思っている人のみ」のグループを作り、20人集まったうちの三人で、事前にルッカで会おうということになっていた。もちろん全員初対面。これがネット社会の醍醐味だね。
女の子二人に男の一人の三人をイタリア式にハグ。それぞれ持ってきた作品集を丁寧に見る。講談社の外部編集として、学校で七年、生徒の作品を講評し続けてきたおかげで、その場で何が不足しているのかを言えるのが嬉しい。学校で授業を始めたばかりの頃は、悪いのはわかるけど何が悪いのか、どこを直したらいいのかを言葉に変換するのに一週間はかかっていた。
この中の一人の絵をジョルジャがいたく気に入り、ぜひ日本へ持って行こう!ということになった。私はジョルジャほどには押す気にならなかったけれど、ある編集者がすごく気に入るというのは、市場に出すために重要な要素だ。この三人に対面したことに続き、収穫その2だ。
三人との対話の後、デ・アゴスティーニのインタビュー撮りをした。本格的なカメラの前に立ち、マイクを取り付けて答えるというのは、緊張もの。あらかじめ質問を書いた紙を渡されたけど、いざとなると、もたもたしてしまう。なるべくちゃんとしたイタリア語で答えようという、色気を出したりするので余計緊張する。
ジョルジャのインタビュー リラックスしている
出来上がったビデオを見たら、声はうわずり、視線がきょきょと落ち着かなくていかにも素人な姿が映っていた。ジョルジャはでんと構えて、撮られ慣れしてる。学校主催の卒業証書授与なんかで舞台に立って、ライトを浴びながら言葉を発してるからなぁ。まぁ、初体験の収穫。次回は視線を一定に保とう!
いかにも素人なmidori
いちおうデ・アゴスティーニのスタンドでの義務は済ませたので、会場を回った。講談社でも仕事をしてくれた大御所、我らがエージェンシーに期待を寄せてくれて「言われた事は何でもやるよ!」と、報酬に結びつかないのにせっせと作品のアイデアを出し、下書きをしてくれる若き漫画家、デ・アゴスティーニでも一緒に仕事をしている漫画家などと直に会い、握手をしてそれぞれと体温を交換して、これも収穫。
スタンドを回ってるうちに吸い寄せられて、初めて知ったオーストリアの作家、SHAUN TAN。すぐに買ってしまった。古い写真の雰囲気を出している絵で、どこの国と特定できないようにファンタジーを交えて移民の苦悩を描いている絵本。これも収穫。
< http://www.elliotedizioni.com/catalog/title/title_card.php?title_id=58
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出版社のサイト
< http://nuvoleparlanti.blogosfere.it/2009/02/lapprodo-di-shaun-tan.html
>
ブログ
エージェンシーとして、何か具体的に作業をしたわけではなく、約束を取り付けたわけでもないけれど、ルッカコミックスという重要なコミックスフェアにネコノアシが顔を出した、という事実が重要なのだった。
【みどり】midorigo@mac.com
ルッカ行き。ジョルジャは前日に学校の卒業生男子19歳と、彼が運転するキャンピングカーで出発した。この彼、キャンピングカーを運転するのは初めて。すべては宿泊費を浮かせるため。本来なら私も同行すべきところ、家庭があって家を空けられないので一人で電車で日帰りした。労をねぎらうため、彼の好きなおにぎりを作って行った。生シャケに塩を一振りしてを焼いてほぐしたものをすし飯に混ぜて握り、海苔でくるんだ。米酢もみりんもないので、ワインビネガーと砂糖で代用。食べる頃にはお酢がうまくご飯と混ざって、すごくいい塩梅になっていた。この彼にとって、私はおにぎりの女神なのであります。
イタリア語の単語を覚えられます!と言うメルマガだしてます。
< http://midoroma.hp.infoseek.co.jp/mm/menu.htm
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