ローマでMANGA[30]MANGAに対する認識の違い
── midori ──

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●MANGAを外から見る人

何度か書いている分冊百科のデ・アゴスティー二刊「漫画の描き方」の仕事は無事全60巻が終わった後、40巻追加となった。週刊締め切りがまだ終わらないことになって、痛し痒しというところだ。

レッスン記事のテーマに添って、切り口を考え、挿入する絵の構成を考え、絵かきさんに依頼を出し、出されたラフの直しを依頼し、その間にテキストを書く。切り口を考えた時点で、簡単な構成をアートディレクターに提出してOKを待つのだけど、彼も忙しくて直ぐに返事をくれない。

絵描きさんとのやり取りや、絵が上がってくるのに時間がかかって、締め切りになってしまう。なかにはなかなかラフをあげてくれない絵描きさんもいる。かと思うと、ある人は次から次へと描いてくるけど、細かいところの描きなおしが必要で、それを依頼するのに時間がかかってしまって、その間はテキストが書けず、締め切りになってしまう。

書き上げてサーバーに上げる。しばらくするとディレクターから電話があって、構成が良くないとか、こういう切り口は違う。〇〇号はなんでまだサーバーに上がってないのか、とか文句を言われる......という効率の悪い仕事の仕方をしていた。

ずっと大人しく聞いていたけど、ある時、一時間以上もぐちぐち責められてキレてしまった。「私が認識しているMANGAとあなた方が認識しているMANGAは別物だ」と言ってしまった。彼の上司であるグラフィック・スタジオのオーナーに、下手に出ながら「互いのMANGAに対する認識が違うために、手間取ってしまって申し訳ない。でも、私に漫画の描き方を書くように言われたら、私が認識してるように書くものと考えます。違った認識で書かなければならないようですと、私には難しい仕事です」と、メールを書き送った。



そのせいか、追加40号が始まって一か月、最近は(そうした通告はなかったけれど)アートディレクターと電話で参考にするMANGA作品を選び、彼が切り口を考え、絵描きさんとのコンタクトを取る。私は上がってきたラフを見ながらテキストを書く、という具合でかなり仕事が楽になった。報酬がさがったけれど、土日もなく、主婦仕事にも時間をとられて、夕食の後、10時半から眠い目をこすりながら仕事をして、その上文句たらたら言われるよりはずっといい。

けれど、認識の違いはまだ残っていて、違和感がそのまま。切り口を決めるために電話で話すときに感じる。私は、自然にテーマに沿った内容から入ろうとする。あるテーマで漫画を作るときにどうしたらいいかと考えようとする。毎号、日本のマンガ家さんに「私はこう描く」という2ページを作ってもらう。そのページは私が訳すので送ってもらうわけだけど、見方が同じなので、「そうだよね!」と安心していた(でも、この切り口に関しても、あれこれ言われるので、このマンガ家さんは降りてしまった)。

ディレクターは絵から入る。テーマに沿ったキャラを「でっち上げ」、その背景を「でっち上げ」る。

テーマは「海」とか「スーパーヒーロー(ドラゴンボールのような)」とか「遺伝子改造もの」とか、とりとめがない。要するに、おおかたのイタリア(あるいはヨーロッパ)のMANGAの見方を「MANGAの描き方」では求めているわけだ。

MANGAとは、目の大きなキャラが派手な姿をして派手な動きをするもの、とまぁ、乱暴に言えばそういう認識をしていて、その外見「だけ」を追う、という、多くのMANGAファンが求めているものを提供する(「だけ」は私がそう感じるので付けた。本社始め、多くのMANGAファン、MANGA家になりたい子たちの認識はこれ)。

たとえば、「海」では、「ワンピース」と「沈黙の艦隊」をモデルにして「冒険ファンタジー」と「シリアス」に分けた。昔の海賊の服装をした元気な6.5等身の男の子と、海軍軍服に身を包んだ7等身のキャプテンを主人公キャラ、舵をとるミニパンツの女の子と制服の上に白衣を着た女医、マッチョに刺青をした戦士とチョッキを着た砲兵、などのキャラをでっち上げ、海賊船と潜水艦の全貌などの絵を別ページを添えた。

冒険ファンタジーで語ることが出来ること、リアルな軍事もので語ることができること、などを書く......と頭をかすめたけど、それは本社が求めているものではないのだ。

●これがイタリア式?

ただ、私はそういう見方をしようとするのに骨が折れる。だから、電話ではディレクターの質問、例えば「このテーマのモデルになる作品に何がある?」「人物はどんなのがいいと思う?」に淡々と答えるにとどまっている。

これで、適当に答え(最後にはディレクターの言う事が本人の裁決により採用になる)、適当に絵に合わせた文を書いていれば、報酬をもらえるのだからいいじゃないか......になってしまっている。

ああ、これって、イタリアの多くのサラリーマンの働き方ではないか!!

仕事するなら、報酬をもらうことだけが目的ではなく、自分の頭で考え、読者に真に役立つようなことを書きたい、と思っていた気分がみるみるしぼむ。

責任を与えられず(雇用者が信用しない。責任ある地位には家族の者かコネで入った人に与える)、イニシャチブをとることが許されず、ボーナスが増えることなく決まっていれば、なるべく楽してやっつけ仕事でいいや、と思ってしまうのは人間的とも言える。いや、だから今の仕事をやっつけ仕事でいいや、と思ってるわけではないけれど、最初の気概が削られてしまったのは事実。

日本の会社はこれの逆をやる? そういえば、ローマの日本百貨店で働いたとき、イタリア人従業員も交えて全員に管轄を与え、予算を組ませ、買い付けをさせ、売上予想に達したら月末の朝礼で発表して、店内で使えるクーポンを賞として与えるということをやって、かなりみんな真剣に働いてた。

焼け跡から日本経済が世界2位なったのも、こうした日本のメンタリティのせいか、と妙なとこで妙なつながりを発見した。

【みどり】midorigo@mac.com
イタリア語の単語を覚えられます!と言うメルマガだしてます。
< http://archive.mag2.com/0000075559/index.html
>

前回の投稿で口蹄疫の事を書きましたところ、
「このエントリーは有意義だと思うが
>県と国の初動の遅れ、
この表現では、宮崎県も政府と同じような失敗をしてしまったと受け取られる
とのではないでしょうか。実際、県は政府に無視されながらも、(権限や財力
が限られているため、県だけでできる範囲は限られていますが)精一杯やって
きたと思います。県の初動の遅れとは何でしょうか。。」
というご意見を頂きました。

それについては
「私が書いたときは、まだ新聞でそうしたことを報道されてなかったので、ま
るでその報道を擁護しているようですが、そうではありません。間が悪かった
ですね。宮崎県の獣医師は、口蹄疫じゃないかと報告があったときに大丈夫だ
と判断して、検体の検査まで時間がかかった。これはミスと判断せざるを得な
い。ということを読んだか聞いたかした(発生時からあれこれ見聞きしている
ので、ソースは忘れました。そのへんが素人です)ので、公平であろうとした
んです。県の『ミス』(『まさか』と思った?)は政府の犯罪とも言える放置
ぶりに比べたら、取るに足らないものだと思っていますが、妙な正義感のよう
なものがはたらきました。

こうしたことを1万以上の「公」なメディアで発信することの難しさをちょっ
と感じたところです。私個人のブログでしたら、何を書いてもいいわけですが、
柴田編集長以下、掲載する人に迷惑がかからないように、と妙に公平さを......
と考えた結果です。私のMixi日記には県を責めることは書いてありません。誠
に間が悪かったとしか言いようがありません。」
と、返事をしました。

そういうことです。国の放置に比べますと、県の「ミス」はとるに足らないものと思ってます。ついでながら、口蹄疫はまだ新たな感染が広がってます。
ここで問題がいくつか。

・政府は被害農家への補償を言ってますが、具体的な動きはまだ何もなく、宮崎県は県の予算補正をして、やりくりしています。
・被害農家は口蹄疫が出てから無収入ながら、殺処分を待つ動物の餌、雇用者への給料など支出はそのままです(一頭でも感染した動物が出たら、その農家の動物はすべて殺処分することが法律で決められています)。
・すべての動物を処分した畜産・酪農農家がやり直し、収入が出るようになるまで最低5年かかるそうです。

・消毒薬に「汚染」された各種機械はもう使えないものもだいぶあるとか。また、消毒薬で健康を害する人も出てきています。
・また、国が約束した補償は実際に動物を殺処分した動物の数に応じてであり、口蹄疫のため収入がなくなった直接動物を飼っていない業種に対しての補償は何も取り決めがありません。

・参議院選挙は予定通りだそうですが、口蹄疫の感染がまだ広がりをみせている宮崎の地域では、実際選挙どころではなく(感染を広げるのを防ぐためにあらゆる種類の集会は取りやめ、外出を極力控えている)、逆に宣伝カーの往来で感染が広がるのでは、と心配してます。
・今のところ例は出ていないようですが、野生動物への感染も心配されてます。偶蹄類である猪や鹿には感染します。

・宮崎牛、神戸牛、と和牛はいくつも種類があるようですが、育った期間の長い地域の名前をつけるのが習慣なので、そう呼ぶ。実際は神戸牛も元は宮崎の牛。つまり、宮崎の畜産の被害は他県へもじわじわと別の形で被害が及ぶことになります。

・2007年6月末にイギリスで口蹄疫が出たときに、時の首相は休暇から急ぎ戻って国家緊急治安特別会議を招集した上、口蹄疫が終息するまで国政選挙を延期しました。日本の今の参議院、任期は8月末までです。7月末、いや8月始めまで参議院選を延期しても、国政には影響がないのに、なぜ今選挙を急ぐのか、不思議でなりません。旧・現農林大臣の言動、旧・現首相の言動を見ると口蹄疫を無視してるように見えます。不思議です(本当は怒り、またこの国の統治に不安を覚えてます)。

※なお、ここに書かれたことは、筆者midoriにすべての責任があり、デジクリ発行者には責任はありません。