ローマでMANGA[69]結果オーライなら細かいことは気にしない作家
── midori ──

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講談社のモーニング編集部が日本人以外の作家を起用して、描き下ろしを作ってもらって掲載するという、前代未聞の企画を進行した時に、イタリア人作家と編集部の仲介をするという嬉し楽し仕事をしていた頃の記録の意味を込めて書いているシリーズです。

今は、「幸運が服を着て歩いている」楽天的なヨーリとの関わりを書いてます。




●親孝行な我が息子

毎度のように、この原稿のためにファックスをスキャンした。今回は1993年の2月から5月までだ。すごく少ないので苦もなくスキャンできた。

2月で5枚、3月が11枚、4月14枚、5月12枚だ。前年の10月26枚、11月30枚に比べると段違いの少なさ。

1993年の2月初めには私が出産のため入院したこともあって、「ローマ支局」の業務が一時中断した。でも、ファクスの枚数が減ったのはそのせいではなかった。

前年はヨーリの企画提案から、作品掲載の方向で話がまとまり、ネームのやりとりがあったのでファックスの枚数が多かった。

とりあえず、物語の構想が決まり、各話8ページで全13話が決まり、各話のあらすじも決まって、1993年には作品制作に入ったので画像のやりとりがぐんと減った。

前年の終わりには契約書作成のやりとりがあって、日本語の草案、そのイタリア語訳が飛び交ってやはりファックス枚数が多かった。

つまり、物語の構成と始めの数話のネームの打ち合わせと、契約書の打ち合わせが済んでから入院の運びになったのだ。今、思い至ったけれど出産が予定日を一週間越えていたのは、息子が待ってくれたのかもしれない。

予定日の1月終わりには契約書の最終打ち合わせで32枚のファックスのやりとりがあったから。予定日通りだったら、契約書の打ち合わせが終わる前に中断になっていた。親孝行な子だ。

●まだまだ続く事務手続き

ヨーリは大人しく作画に入ったわけだけど、契約書は打ち合わせが終わったばかりで、ヨーリは絵を描きながら契約書を反芻していた。らしい。

すでに本契約書の英語版とイタリア語訳版を受け取っていた。2月19日の私から編集部へのファックスに、ヨーリの不安が二件書かれている。

ひとつは「キャラクター(主人公・自分がモデル)の所有権が明記されていない」こと、二つ目は「オリジナルの描き下ろし」であることを明記した条項が、もともとはイタリアの雑誌に掲載された話が元になっているので、この条項を盾にとって責められたらどうしよう、ということ。

契約書を訳してて思ったのは、こういう風にその気になって重箱の隅をつつくように言葉の綾をとっていくと、いくらでも穴がみつかり、それを避けようとしてすごくわかりにくい言葉使いになっていくということ。

それでも、すべての起こり得る事象を想定して、それに対処する条項を決めておくのは不可能だ。だからこそ、契約書の最後の方にどこの裁判所の管轄になるのかを明記してある。

編集部はそのことは理解してるから安心してていいと電話で言っていたけれど、では版権を扱う国際室も保証して欲しいと言ってきた。信頼関係を基板にして契約や約束をする日本人は、外国と仕事をするときに、このおっとりしたヨーリでさえこれほど神経質に心配する態度を見習った方がいい。

3月、最初のファックスは編集部からのヨーリへの原稿料支払明細書と、英語でモーニング編集部担当編集者と国際室版権担当者の連名で、「不思議な世界旅行」と題する作品が契約書の条項に反しないことと、「ヨーリ」というキャラクターが作者のものであり何人も作者の承諾なしに使用することはできないことを明記した念書だ。この原本に編集者と版権担当者が署名して郵送するので、契約書にサインをして戻してくれとのファックスが続く。

つまり、契約書はここに完成し、ヨーリは第一話を制作し終えて編集部が受け取ったということだ。

●陽気で大雑把なヨーリと太っ腹な編集部

契約書の内容には神経質さを示したヨーリだけれど、基本的に大雑把な人だ。原稿制作が進んでいくにつれ、生原稿の大きさが一枚ごとに違っていて、版下へ送るために編集者が縮小率をいちいち計算しなくてはならなくて、判型は大きくても小さくてもいいけど、お願いだから大きさをそろえてくれ! と言った記憶がある。

編集部に届いた第一話の原稿の中に枠線が入ってないものがあり、編集者が「日本のマンガではコマ全部に同じ幅の線で枠線があったほうがいいので、編集部で入れていいか」と問い合わせている。

ヨーリの答えは「ただ単純に入れ忘れただけなので適当にやってください」だった。担当編集者がこの答えを聞いて(読んで)、「ヨーリらしくていい」と楽しんでいた。

この頃のモーニング誌は百万部という発行部数を誇っていた。編集長はこの売上を読者に還元したいと、かなりのオリジナルグッズを作って毎号プレゼントを企画していた。

読者プレゼントの他に、海外の作家や編集者を招いて日本の編集作業を見たり日本の生活を味わってほしいと奨励金制度を企画した。

我らがイタリア人作家もこの奨励金に参加しませんか? と招待されていて、ヨーリも参加の意思表明をした。

ファックスで送られてきた申込用紙を記入するのに、英語ではなくて、英語も日本語も書けないのでイタリア語で記入したい、ということで私の日本語訳を別紙につけることで担当編集者に承諾をもらった。

ところが、ヨーリは別紙に手書きで長々と応募用紙に必要な仕事の経歴や、なぜ奨励金に応募したいのかなどの設問に答えてきた。

結局、私は応募用紙に直接日本語で書き込んで送った。結果オーライなら細かいことは気にしないというヨーリ式で、私も担当編集者も気楽に楽しく仕事ができる作家だった。

【みどり】midorigo@mac.com

お小遣い稼ぎ大冒険の続き。

登録したウエブライターサイトからは結局お返事が来ず仕舞い。どんどん書き送るべきなのかもしれないけど、そのままになってる。すぐに反応がないとモチベーションが下がる。

そうこうしてる間に、マンガを介在して知り合った現在ロンドン住まいのイタリア人女性からいい話が持ち上がった。彼女が大学生の頃から、かれこれ10年くらいの付き合いになる。漫画家になりたい彼女は、グループを作ったり、コンテストを見つけてきたりして、しょっちゅう作品を作ってやる気のあるところを見せている。

その彼女が、原作を書きたい男の子と組んで作品を作るにあたり、ネーム(漫画作品の原稿レイアウト)の段階で私のサジェスチョンが欲しい、それについてはちゃんと仕事として多くないけれど報酬を出します、と言ってきた。

若い人が作品を作る手伝いをするのは嬉しい。ほんとはプロになる前の若い人からお金を取るのはなんだかなーと思うのだけど、それなら学校で教えるのもダメなわけで、ありがたくいただくことにした。

やっぱりマンガで生活費を稼げるのが一番いいな。んでは、「あなたのネームを診断します」というのをやったらどうかと思いついた。若い人がお客さんになるだろうから、なるべく安く。

今月はガイド仕事が重なって、人並みの月給くらいの報酬が入ることになってホッと一安心。来月はどうなるでしょうか。

「イタリアで新しい漫画を作る大冒険」
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主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
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