講談社のモーニング編集部が日本人以外の作家を起用して、描き下ろしを掲載するという、前代未聞の企画を進行した時に、イタリア人作家と編集部を仲介するという、嬉し楽し仕事をしていた時の記録の意味を込めて書いているシリーズです。
今は、「幸運が服を着て歩いている」楽天的なヨーリとの関わりを書いてます。
今は、「幸運が服を着て歩いている」楽天的なヨーリとの関わりを書いてます。
●「ミヌス」世に出る前夜
前回、「不思議な世界旅行」のネームについて編集者が一部直しをお願いし、話し合いが終わったら仕事を勝手に進めるものと思っていたヨーリがびっくりしたものの、編集者のサジェスチョンに従ったら結果がとても良くなったと喜んだ、という話をした。
そして最後に「そしてFAXは10月に入る。」と書いたけれど、9月の間違いです。すみません。この原稿は、色があせ始めた当時の感熱紙ファックスをスキャンしながら書いている。9月までのファックスをスキャンし終わったので、「今度は10月」という頭で間違えてしまった。
そして9月は大きな動きがあって、一月で17枚のファックスのやりとりだけれど内容が濃い。それまでも一月で20枚を超える月もあったけれど、契約書だったり、ネームだったりでやりとりの内容の濃さとは比例していない。
まずは13日付けの編集部からの通信で始まる。なんと、「突然ですがモーニング45号にミヌスを載せることにしました」なのだ。
イゴルトの「YURI」に続いて、私が手がける作家の掲載第二弾だ。中間にいて橋渡しをしているだけだけれど、結果が見えるのは嬉しい。自分の子どもの入学式を見るような、誇らしい嬉しさだ。
掲載までにあまり時間がなく、超速で準備を進めなければならない。幸いミヌスはサイレントなので、翻訳やふきだしの写植(当時は文字は写植!)を用意したりという手間がないので間に合うと判断したらしい。
でも、原稿があるからそれで準備が整ったわけではない。
初めてのお目見えだから、読者様へのご機嫌伺いが必要だ。そこで編集者から次のような依頼があった。
・日本の読者へのおもしろいメッセージ
・おもしろい作者近況
(以上二件はつまらなかったら書き直し、と但し書きがファックスにあった)
・ヨーリの略歴。日本へ奨学金で行った時に提出した経歴書に訂正、追加などはないか。
・ヨーリの住まいであるボローニャの絵葉書きを50枚買って、一言二言書く。
日本の漫画雑誌には、必ず巻末にアンケートハガキがついていて、読者は感想や意見などを書くことができる。「ミヌス」に関して感想を書いてくれた人の中から50人抽選でヨーリ直筆の絵葉書を贈るという、新シリーズを始めるにあたって、宣伝を兼ねた読者プレゼントだ。なかなか面白いアイデアだと思う。ヨーリも、このアイデアに対してキャッキャッと喜んでいた。
さらに、ヨーリが日本滞在中に描いた自画像とミヌスの原稿から、一部予告に使うことを了承してほしい、という一文もある。問題があるようだったら連絡をください、という但し書きもある。
掲載する第一話のサブタイトル、主人公ミヌスしか名前が明らかではないが、話に出てくる家族の名前を決めてくれという依頼もある。宣伝も考えるから、原稿があればそれで充分というわけではないのだ。
見方を変えると、宣伝も考える編集者の仕事量の多さに改めて感心する。モーニングのような漫画雑誌の場合、これを週間単位でやるわけだ。
この依頼の返事は日本時間16日午後1時と下線つきで明記してある。イタリア時間だと15日の午前5時。依頼が来たのはイタリア時間で12日の午前7時だから、約3日の猶予しかない。
ファックスでお知らせし、電話でも知らせている。電話でも知らせている。というのは、60歳間近の頭で20年前のしっかりした記憶があるわけではなく、ヨーリが「突然の掲載のお知らせ」に喜んでいたと編集に報告するファックスはあるが、ヨーリからの喜んでいるファックスはないことからの推測だ。
そして、ヨーリからの返事ファックスが15日午後7時付で届いている。午前5時までだと言ったのに。太い先のサインペンで全部大文字で、いかにもおおらかな感じのするファックスで笑ってしまう。
依頼にあった近況報告というのは欄外に載せるものだが、このコンセプトがどうもイタリア人にはわかりにくいらしい。
ヨーリの前にビットリオ・ジャルディーノという作家の作品が掲載になり、その時も近況報告をお願いしたところ、どうしても意味がわかってもらえず、仕方なく電話で何が好きかとインタビューまがいのおしゃべりをして引き出した話を、近況報告として勝手に書いて送ったことがある。
ヨーリも今ひとつわからなかったらしく、主人公のミヌスが「日本へ行くんだ」とヨーリに話している状況を書いてきた。
近況報告、「自分の身の回りに起こったこと」を話すって変ですかね。イタリア人メンタリティをかなり理解しているつもりだけど、なんで理解してもらえないのか理解できないでいる。
●ミヌスいよいよ掲載へ
そして、20日に編集部からの返事。早速、了承を取った自画像と、ミヌスの一部を使用した予告ページを作って送ってきた。
ヨーリは担当編集者への通信の宛名に「様」をつけて「あなた」で書いてきた。今回、「不思議な…」のネーム(途中経過)のカラーコピーを郵送してきて、担当編集者宛てへの手紙も同封されていた。
それには、日本語の友達言葉に当たる「tu」で書いてきた。日本滞在ですっかりオトモダチ気分になったらしい。私もちゃんとそのように訳し、編集者もノッて「ヨーリ君、僕は休んでいる間もしっかりと頭は動かしていたんだよ」と文体を変えて遊んでくれた。
ミヌスについては、編集作業をしながらじっくりと向き合った結果、「造形も含めた可愛らしさでアピールするのがいいと感じている」と書いてきた。丸みになんとも微妙な味わいがあるとも。
ミヌスをヨーリが提案した時に、造形がシンプルすぎると編集者が言い、ヨーリがシンプルだからこそ色々なものになれていいのだ、と「戦った」ことを思いだす。作者は自信があるなら頑張ってみるのも正しい道かも。
大御所ヨーリと私を一緒に語るのは気が引けるけれど、私が僅かな期間モーニングに作品を載せていた頃、ネームに対して修正サジェスチョンをいただいて、編集さんの頭に見えているものが完璧に理解できないと、無理に合わせようとして、とても難しく時間がかかってしまったことを思いだす。
さらに、ミヌスについて父のミヌス、母のミーア、息子のミーオというファミリードラマとして物語を作っていくのがいいのでは、とも書いている。カラーではなくモノクロでどんどん描いていくのがいいのかもしれない、とも。これが構成ということですね。
いずれにしても、ミヌスはまずカラーで掲載の運びとなった。単行本になる前に外国モノの企画は中止になったので、日本では手に入らない。イタリア版の表紙はこちら。
< http://www.comma22.com/index.php/catalogo/prodotto/nome/Minus/id/30
>
「不思議な…」も着々と進んでいる。
次回は郵送したネーム(途中報告)の編集者の返事から。
●おまけ Macとの戦い
一年前に手に入れたMacのノートブックはバグだらけで、まだ喧嘩を続けていた。20日のファックスはまた手書きに戻り、憤慨をぶつけている。
「さて! Macですが、引き取ったのもつかの間、何の仕事もしないうちに(?)←もうこれです! これはやはり壁にたたきつけたあと、上からドンドン踏みつけてゴミ箱に投げ捨てた後、ツバをペッペッと二、三度吐きかけた方が良い、ということでしょうか!!」
(?)はアイコンを絵で描いている。当時のことなので、なんと、フロッピーディスクを模している。覚えてますか、フロッピー? フロッピーの中央に「?」マークが出ていたのだ。
思えば、講談社との仕事はMacとの戦いの時期でもあった。
【みどり】midorigo@mac.com
地球温暖化だとか、いや、それはないとか、意見がいろいろだけれども、気候が変わってきているのは否めないと思う。温暖な地中海気候と分別されていた、イタリアの気候が変わってきている。夏の湿度が高くなり、気温も40度を超えることが珍しくなくなった。北イタリアの冬は寒さが厳しくなった。集中豪雨で一度に降る雨の量が多くなって、水害を引き出す例が多くなった。
1月末、ローマは夜半から朝にかけて18時間しとしとと雨が振り続けた。豪雨ではなく、シトシト。でも降り続けた時間が尋常ではなかった。ローマの北のほうでは特に被害が出て、一階に浸水した家屋が多く出て、中には1メートル90センチも部屋の中に溜まって、ベッドが浮いていたというケースもあった。
< http://bit.ly/1e6EmNZ
>
我が家では庭の一部を潰して作ったホビールームに浸水。これを見つけたのが夜10時半。家族三人すでにパジャマだったけれど、全員長靴とフード付きの合羽を着用して水と戦った。
朝6時半まで。翌朝、いや、同日朝の筋肉痛は言わずもがな。作業中、シベリア拘留の強制労働や、各地の津波や、昨年暮れのサルデーニャの洪水の被害者のことを強く思った。
平穏に暮らせることのありがたさを思わずにいられない。
「イタリアで新しい漫画を作る大冒険」
< http://p.booklog.jp/book/77255/read
>
主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
< http://midoroma.blog87.fc2.com/>
前回、「不思議な世界旅行」のネームについて編集者が一部直しをお願いし、話し合いが終わったら仕事を勝手に進めるものと思っていたヨーリがびっくりしたものの、編集者のサジェスチョンに従ったら結果がとても良くなったと喜んだ、という話をした。
そして最後に「そしてFAXは10月に入る。」と書いたけれど、9月の間違いです。すみません。この原稿は、色があせ始めた当時の感熱紙ファックスをスキャンしながら書いている。9月までのファックスをスキャンし終わったので、「今度は10月」という頭で間違えてしまった。
そして9月は大きな動きがあって、一月で17枚のファックスのやりとりだけれど内容が濃い。それまでも一月で20枚を超える月もあったけれど、契約書だったり、ネームだったりでやりとりの内容の濃さとは比例していない。
まずは13日付けの編集部からの通信で始まる。なんと、「突然ですがモーニング45号にミヌスを載せることにしました」なのだ。
イゴルトの「YURI」に続いて、私が手がける作家の掲載第二弾だ。中間にいて橋渡しをしているだけだけれど、結果が見えるのは嬉しい。自分の子どもの入学式を見るような、誇らしい嬉しさだ。
掲載までにあまり時間がなく、超速で準備を進めなければならない。幸いミヌスはサイレントなので、翻訳やふきだしの写植(当時は文字は写植!)を用意したりという手間がないので間に合うと判断したらしい。
でも、原稿があるからそれで準備が整ったわけではない。
初めてのお目見えだから、読者様へのご機嫌伺いが必要だ。そこで編集者から次のような依頼があった。
・日本の読者へのおもしろいメッセージ
・おもしろい作者近況
(以上二件はつまらなかったら書き直し、と但し書きがファックスにあった)
・ヨーリの略歴。日本へ奨学金で行った時に提出した経歴書に訂正、追加などはないか。
・ヨーリの住まいであるボローニャの絵葉書きを50枚買って、一言二言書く。
日本の漫画雑誌には、必ず巻末にアンケートハガキがついていて、読者は感想や意見などを書くことができる。「ミヌス」に関して感想を書いてくれた人の中から50人抽選でヨーリ直筆の絵葉書を贈るという、新シリーズを始めるにあたって、宣伝を兼ねた読者プレゼントだ。なかなか面白いアイデアだと思う。ヨーリも、このアイデアに対してキャッキャッと喜んでいた。
さらに、ヨーリが日本滞在中に描いた自画像とミヌスの原稿から、一部予告に使うことを了承してほしい、という一文もある。問題があるようだったら連絡をください、という但し書きもある。
掲載する第一話のサブタイトル、主人公ミヌスしか名前が明らかではないが、話に出てくる家族の名前を決めてくれという依頼もある。宣伝も考えるから、原稿があればそれで充分というわけではないのだ。
見方を変えると、宣伝も考える編集者の仕事量の多さに改めて感心する。モーニングのような漫画雑誌の場合、これを週間単位でやるわけだ。
この依頼の返事は日本時間16日午後1時と下線つきで明記してある。イタリア時間だと15日の午前5時。依頼が来たのはイタリア時間で12日の午前7時だから、約3日の猶予しかない。
ファックスでお知らせし、電話でも知らせている。電話でも知らせている。というのは、60歳間近の頭で20年前のしっかりした記憶があるわけではなく、ヨーリが「突然の掲載のお知らせ」に喜んでいたと編集に報告するファックスはあるが、ヨーリからの喜んでいるファックスはないことからの推測だ。
そして、ヨーリからの返事ファックスが15日午後7時付で届いている。午前5時までだと言ったのに。太い先のサインペンで全部大文字で、いかにもおおらかな感じのするファックスで笑ってしまう。
依頼にあった近況報告というのは欄外に載せるものだが、このコンセプトがどうもイタリア人にはわかりにくいらしい。
ヨーリの前にビットリオ・ジャルディーノという作家の作品が掲載になり、その時も近況報告をお願いしたところ、どうしても意味がわかってもらえず、仕方なく電話で何が好きかとインタビューまがいのおしゃべりをして引き出した話を、近況報告として勝手に書いて送ったことがある。
ヨーリも今ひとつわからなかったらしく、主人公のミヌスが「日本へ行くんだ」とヨーリに話している状況を書いてきた。
近況報告、「自分の身の回りに起こったこと」を話すって変ですかね。イタリア人メンタリティをかなり理解しているつもりだけど、なんで理解してもらえないのか理解できないでいる。
●ミヌスいよいよ掲載へ
そして、20日に編集部からの返事。早速、了承を取った自画像と、ミヌスの一部を使用した予告ページを作って送ってきた。
ヨーリは担当編集者への通信の宛名に「様」をつけて「あなた」で書いてきた。今回、「不思議な…」のネーム(途中経過)のカラーコピーを郵送してきて、担当編集者宛てへの手紙も同封されていた。
それには、日本語の友達言葉に当たる「tu」で書いてきた。日本滞在ですっかりオトモダチ気分になったらしい。私もちゃんとそのように訳し、編集者もノッて「ヨーリ君、僕は休んでいる間もしっかりと頭は動かしていたんだよ」と文体を変えて遊んでくれた。
ミヌスについては、編集作業をしながらじっくりと向き合った結果、「造形も含めた可愛らしさでアピールするのがいいと感じている」と書いてきた。丸みになんとも微妙な味わいがあるとも。
ミヌスをヨーリが提案した時に、造形がシンプルすぎると編集者が言い、ヨーリがシンプルだからこそ色々なものになれていいのだ、と「戦った」ことを思いだす。作者は自信があるなら頑張ってみるのも正しい道かも。
大御所ヨーリと私を一緒に語るのは気が引けるけれど、私が僅かな期間モーニングに作品を載せていた頃、ネームに対して修正サジェスチョンをいただいて、編集さんの頭に見えているものが完璧に理解できないと、無理に合わせようとして、とても難しく時間がかかってしまったことを思いだす。
さらに、ミヌスについて父のミヌス、母のミーア、息子のミーオというファミリードラマとして物語を作っていくのがいいのでは、とも書いている。カラーではなくモノクロでどんどん描いていくのがいいのかもしれない、とも。これが構成ということですね。
いずれにしても、ミヌスはまずカラーで掲載の運びとなった。単行本になる前に外国モノの企画は中止になったので、日本では手に入らない。イタリア版の表紙はこちら。
< http://www.comma22.com/index.php/catalogo/prodotto/nome/Minus/id/30
>
「不思議な…」も着々と進んでいる。
次回は郵送したネーム(途中報告)の編集者の返事から。
●おまけ Macとの戦い
一年前に手に入れたMacのノートブックはバグだらけで、まだ喧嘩を続けていた。20日のファックスはまた手書きに戻り、憤慨をぶつけている。
「さて! Macですが、引き取ったのもつかの間、何の仕事もしないうちに(?)←もうこれです! これはやはり壁にたたきつけたあと、上からドンドン踏みつけてゴミ箱に投げ捨てた後、ツバをペッペッと二、三度吐きかけた方が良い、ということでしょうか!!」
(?)はアイコンを絵で描いている。当時のことなので、なんと、フロッピーディスクを模している。覚えてますか、フロッピー? フロッピーの中央に「?」マークが出ていたのだ。
思えば、講談社との仕事はMacとの戦いの時期でもあった。
【みどり】midorigo@mac.com
地球温暖化だとか、いや、それはないとか、意見がいろいろだけれども、気候が変わってきているのは否めないと思う。温暖な地中海気候と分別されていた、イタリアの気候が変わってきている。夏の湿度が高くなり、気温も40度を超えることが珍しくなくなった。北イタリアの冬は寒さが厳しくなった。集中豪雨で一度に降る雨の量が多くなって、水害を引き出す例が多くなった。
1月末、ローマは夜半から朝にかけて18時間しとしとと雨が振り続けた。豪雨ではなく、シトシト。でも降り続けた時間が尋常ではなかった。ローマの北のほうでは特に被害が出て、一階に浸水した家屋が多く出て、中には1メートル90センチも部屋の中に溜まって、ベッドが浮いていたというケースもあった。
< http://bit.ly/1e6EmNZ
>
我が家では庭の一部を潰して作ったホビールームに浸水。これを見つけたのが夜10時半。家族三人すでにパジャマだったけれど、全員長靴とフード付きの合羽を着用して水と戦った。
朝6時半まで。翌朝、いや、同日朝の筋肉痛は言わずもがな。作業中、シベリア拘留の強制労働や、各地の津波や、昨年暮れのサルデーニャの洪水の被害者のことを強く思った。
平穏に暮らせることのありがたさを思わずにいられない。
「イタリアで新しい漫画を作る大冒険」
< http://p.booklog.jp/book/77255/read
>
主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
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