ローマでMANGA[101]自分のアートの幅が広がった
── midori ──

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。

●「Romics」ローマのコミックス・フェアで学校のブースは……

9月29日から10月2日まで、第20回を数えるローマ最大のコミックスフェア「Romics」が開催され、いつものように学校のブースに「参加」した。
http://www.romics.it/


http://qq4q.biz/yM0B

(↑写真で左手下から二番目の黄色いテーブルがあるブースが学校のもの)

学校のスタンドを仕切るのは、イベント係のフランチェスカ。そして、学校卒業生で、フランチェスカと友人関係にある何人か。

学校とはまるで関係ないのだけれど、フランチェスカの取り巻きの一人の友人のパオロが入り浸り始め、一緒に映画を見に行ったり、食事会をしたりして仲間になって、ブース運営の手伝いをするようになった。



つまり、ボランティアで成り立っているわけだ。学校がこれらの元学生たちにコンタクトをとって依頼して報酬を出したり、しているわけではない。ちょっと違うのではないかと思うけれど、今までこのようにしてきたので、このままいくのだろう。

この元学生たちは、各種機材やパンフレットなどの紙物や、幕などの搬入を含めたブースの物理的な設置の他に、ブースにいて訪問客の求めに応じて様々なキャラクターを描く。

訪問客で自分で絵を描かない人はもちろん、独学でファンアートなど描いてる人も、目の前で白い紙の上にみるみるキャラクターが現れていく様を感嘆しつつ見守って、学校のブースはいつも人だかりが絶えない。

リクエストは手空きの誰か、あるいは自分が得意とするキャラを描いていく。次々とリクエストが溜まり、リクエストを書いた紙が一杯になる。

一時間後に取りにきてね、と言われた人が取りにきてもまだ手をつけてない事が多々あり、L字型のテーブルでは「ピカチュウとアイアンマン、誰か描いてる?」「バットマンがもうすぐ終わるから、僕が描く」といった会話が飛び交うのだ。

自費出版してる子(皆、息子や娘の年齢)は絶好の宣伝場所になる。自分の席の前に本を置いて、販売も兼ねるし学校はそれを承認している。学校卒業生が本を出しているということは学校の宣伝にもなる。

ボランティアで絵を描きに来る子達は、疲れを知らずに描きまくる。中にはパニーノのお昼も、コーヒーブレークも取らずに描き続けてしまう子もいる。喜んでくれる顔を見ると嬉しくて……だそうだ。結局のところ、描くのが好きで好きでたまらないという事なのだろう。
http://qq4q.biz/yM0A


●私もボランティアでアートの幅を広げる

私はここ数年、そのボランティアの仲間入りをしている。イベント係のフランチェスカは、フェアに来てくれる数少ない講師だ、と喜んでくれている。

以前はなんとなく、イタリアmanga界の今を知らなくちゃ、という義務感で四日間の開催日のうち、一日か二日、自分で入場料を払って来ていた。

何年前だったか忘れてしまったけど、七年ほど前かな? Romicsスタッフから学校を通して、mangaのワークショップか何かやってくれないかと依頼があり、いいよと引き受けた。

ワークショップは一日(一時間)だけだったけど、「ゲスト」となり、毎日ゲスト券で入場させてくれた。それ以来、私のmanga講義は恒例になって、毎回、ほぼ毎日行くようになった。

学校の講師といえど、年にただの四か月、週に二時間のセミナーしか受け持っていない私は、学校内にもあまり人脈というか、親しく話し込むような知りあいを作れずにいた。

他の講師がセミナーから正式コースの地位獲得していくのを見ると、学校に繁く出入りし、他の講師とおしゃべりし、校長や教務課長とおしゃべりし、そういうつもりがあるのかないのかわからないけれど、自分を売り込んでいる(営業している)のだとわかった。先に出てきたパオロもその一人だ。

なかなか正式コースが発足しないのだが、他の講師達と親しく話すようになり、結果、以前に取り上げた通り、ストーリー担当と作画家と組んで新しい企画を立ち上げて、出版社を見つけるという結果を見るに至った。まだ制作中だからバンザイを叫ぶには早いけれどね。

そして、若い作画家達の中に混じって訪問客に絵を描くことも始めた。
http://qq4q.biz/yM0F

(↑パオロとならんで絵を描く私)

「お客さんにあげる絵」は、元々は作画家達が仕事で描いているキャラクターを描いていたのだ。

どういうことかというと、欧米のmangaは一つのストーリーをチームで作成する。ストーリーを書く人、作画する人、ペン入れする人、そこに彩色する人というぐあいに。

学校卒業生は作画家、カラーリストとして職を得る場合が多く、例えば、アメコミで仕事をしてる人は、もう何も見ずにバットマンやアイアンマンが描けるというわけだ。あるいはイタリアの大手が出版する長年続いているシリーズ物(Dylan Dog, Martin Mystre)のキャラなど。

mangaしか知らない訪問客が増えるにつけ、リクエストにmangaのキャラが増えていき、そのあたりから、学校がお願いしてきてもらって「バットマンの作画家、ナンタラカンタラがライブで絵を描きます」というイベントではなく、若手が自分も好きなmangaのキャラを描くようになっていった。

ネットやスマホの普及もこの現象に一役買っている。ポケモンの中のあるモンスターを依頼されても、見ないと詳細がわからない。そこで、スマホで検索して見本を見ながら描いて、ご希望に沿える。

私は、アメコミのキャラも自分のキャラもなかったので、お客さんの似顔絵を描いた。manga風似顔ということで、たとえ似てなくても許される。

ところが、私に隠れた才能があったのか、なんとなく似てしまうんですね。髪型と眉毛の形で特長が出てしまうのだとわかった。これまではミリペン。昨年から筆ペンを使っている。昨年から墨絵風に惹かれているので。
https://www.instagram.com/midoriyamane/


今年の春の回で、「ピノッキオは嘘つきではない」と題された展示会があり、そこに何か描いて、と言われた。その時なにかインスピレーションみたいなものが閃いて、禅っぽく筆でかすれた部分をもった円を顔にして、ゆったりしたピノッキオを描こう、と思った。

それが(内輪で)好評で、すごく気に入って家に飾りたいんだけど…という教務課長に喜んで差し上げた。求められるのは嬉しいね。そうしたら、イベント係のフランチェスカも、本当は欲しかったけど遠慮してた、と知ってもう一枚描いた。

それを見たパオロが何気なく、僕はピーターパンがいいなと言うので、禅の丸を顔にという基本を守ったまま描いたら、これも喜んでくれた。

調子に乗って、今回のRomics開催中、「ナイトメア・ビフォー・クリスマス」のジャックと「千と千尋の神隠し」のカオナシとバットマンを描いたら、瞬く間に内輪で取り合いとなり、「トトロを描いて」という注文もきた。

他に、「雷神」「風神」「鬼」も依頼された。望まれるのは嬉しい。つまり、この描き方で、世界の昔物語のキャラ、アメコミキャラ、アニメキャラと、題材がたくさんあることがわかった。自分のアートの幅を広げさせてもらった。
https://www.instagram.com/explore/tags/tondocharactor/


●Romicsのこれから

私のRomics訪問が学校内の人脈作りに傾いているので、フェアを歩き回らずにいた。三つあるパビリオンは広くて疲れるし。本当にこうしたフェアに参加するのはエネルギーがいる。

それでも、回を重ねるごとにコミックスフェアと銘打つのが相応しくなくなっていっているなと感じた。キャラクター・フェアが相応しいだろうな。

キャラクターグッズを売るブースが増え、書店ブースで人だかりがあるのはmangaを売る書店。コスプレイヤーが多く来場し、彼らはブースには興味がない。練り歩いてカメラにポーズをとるのが目的だ。

いっそのこと、そうしてしまえばいいのに、と思うくらいmangaとその制作や企画、出版といったことから遠くなっている。

(Romicsの公式写真アルバムサイトではまずコスプレが出てくるし…)
https://www.flickr.com/photos/145437075@N03


(同サイトのアルバムで「ブース」を選んでまず出てくるのがコスプレ、ガジ
ェット関係だし)
https://www.flickr.com/photos/145437075@N03/albums/72157674660562415


Romicsが終わると、今月末から開かれるルッカのコミックスフェアに向けての準備が始まる。忙しい秋なのであった。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】midorigo@mac.com

本文に出てきたパオロと親しく付き合っている。パオロは用もないのに、私のセミナーがある時に学校に遊びに来たりする。パオロのmangaを出版した小さな出版社が、ルッカコミックスに出すものを増やしたいと言ってる、と紹介してくれた。

MangaBox 縦スクロールマンガ「私の小さな家」
https://www-indies.mangabox.me/episode/58232/


↑このmangaを出してくれることになった。還暦過ぎて二回目の出版、イタリアでは初めてのデビューを果たすことになり、大いに喜んでいるところであります。

これまでに描いたのは16編。一冊にするには少ないので、2編追加し、各エピソードに2ページ分の解説を付けて、私の紹介やなぜこの話を書いてるかなどのエッセイを追加して100ページを超えるようにする。これを数日中に仕上げる。忙しい秋なのでありました。

主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.com/