ローマでMANGA[107]ロンドンでmanga
── midori ──

投稿:  著者:


ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりしていきます。

●ロンドンのエレナ

なんで「ロンドンでmanga」なのかと言うと、ロンドンに遊びに来ているからなのだ。ヨーロッパ内の二都市間の移動は、飛行機で約2時間だからかなりお手軽だ。もっとも、ローコスト飛行機を使うと、使用空港が都市から離れているので、地上移動時間を含めると5時間くらいになってしまうけど。

なんでロンドンに遊びに来ているかというと、20年来の友人エレナが7年前からロンドンに住んでいて、いつか訪ねて見たいと思っており、今回様々な環境が整って可能になったからなのだ。




エレナはナポリ出身で、母娘ほどの年齢差がある。当然、娘はエレナだ。若者の失業率40%のイタリアでは、仕事を得るのが難しい。大学卒業後、色々探したけど見つからず、イタリア脱出を決行したのでした。

当時はイギリスもEUだったしね。ここでエレナはベビーシッターから始まって、様々な仕事をした後、大学の美術史の助手のような仕事を今はしている。どうにか生活できる程度の定収入があるという。

30代のイタリア人というと、日本のマンガ、アニメを見て育った世代で、エレナもそのせいで漫画家になりたいという夢を持っていた。高校生だったエレナが、作品の講評を求めて来て付き合いが始まった。

ただ、周りからmangaなど仕事にならないとさんざん言われて、一時あきらめていた。それがここ数年、やっぱり好きだからやめられない、と描き始めた。

ロンドンでmanga好きを集めてグループを作り、イベントに参加。manga風似顔絵を描きます、とネットで商売。友達の結婚やイベントで本人の半生をmangaにしてプレゼントしている。

2004年スマトラ沖大地震と津波の後、mangaグループにインドネシア出身者がいたこともあって、被害にあった子供達が笑顔を取り戻すためにお絵描き教室を開く。そのための資金集めて、「家」をテーマにしたmangaの本を作って売る。こうして、mangaを描く機会を積極的に作って行った。

さらには、サイレント・マンガ・オーディションに参加することを決めて、せっせと作品を作っていった。
http://www.manga-audition.com/


このオーディションには四回ほど参加して、佳作にもひっかからないが、腕は確実に上達して来ている。

「上達するための描き方がわかった。もっと若い時からやっていれば、今はもっともっと上手くなっていたはずなのに」とくやしがっている。

他に、若い男の子原作のニンジャ風mangaの作画(これをイタリアの出版社に持ち込むつもりでいる)と、ロンドンに技術を習いに来た「長州ファイブ」のストーリーを企画して構想、資料集め、ネームまで進んだ。

これは、タダで作業するより報酬があったほうがモチベーションも上がるし、公にできる機会があったほうがいい、と考えを改めた結果、ロンドンの日本協会と日本文化の教授と話をつけて準備金をもらい、出版社とも話をつけてある。

準備金は本当に準備金で、エレナの利益にはなっていないが、マイナスにはならない。

この二作が終わったら、温めている企画があって、それに集中するとの事。

エレナはナポリ出身だから、ナポリ風ピッツァは、もう血となり肉となっている。日本人とラーメンの関係と言ったらいいだろうか。しばらく食べないと無性に食べたくなるのだ。

ナポリ風というか、ナポリ人にとっては、周りがちょっと盛り上がった香ばしい生地に、熟したトマト水牛モッツァレラをのせたものがピッツァであって、他の地方の薄べったいものは邪道なのである。

「ローマ風ピッツァ」とか「フィレンツェ風ピッツァ」とか呼ぶべきであって、ナポリのピッツァは冠をつけずに「ピッツァ」と呼んでいいものなのだ。

だから、そのピッツァを題材にする。こちらも同時にピッツァの歴史とか、生地に使う小麦粉の種類とか資料集めをしている。

自分が好きなものは心がこもるから、いいものになるんじゃないかな。たっぷりと情報も含んで。これは日本で出したいと目論んでいる。

「ナポリ風」ピッツァは日本でも注目されて、ナポリ・ピッツァを謳ったピッツェリアが増えているご時世だから、上手く出版社にあたればいけるかも。

●ロンドンで日本の漫画古本を買う

イギリスには約63000人、イタリアには約12000人の邦人が住んでいる。ロンドンには36000人、ローマは1200人程度。都市の規模も違うし、これだけの日本人がいるのだから、日本の物の流通も大きい。しかも、cool japanはここでもcoolだ。

すると、日本書籍の古本屋さんなんていうものがあったりするのだ。エレナに連れられて、重要訪問場所の一つとしてSohoにあるデラックス・クリーニングの看板を掲げた(まま)の古本屋さんへ行ってきた。セクシーショップがあったりする界隈で、昔の貸本屋を思わせる佇まいだ。

http://uklondonblog.com/150310archives/1021469823.html


好奇心で見るだけ、と思っていたけど「あすなろ白書(柴門ふみ、全3巻)」、「うどんの女(えすとえむ、全1巻)」、「この世界の片隅に(こうの史代、全3巻)」を買ってしまった。

日本の古本屋だから日本語版だ。古本屋だから著者の利益にならないのでごめんね。でも古本屋さんと私の利益になった。

そのほか、主に食料品が充実しているジャパン・センター、小ぢんまりしてるけど、manga新刊を含めた書籍が充実したJPBookも見学した。ここではいい子にして見るだけで、店の邪魔をするに留まった。

●ハリポタ博物館で感激

mangaとは直接関係ない話題だけど、書かざるを得ないはなし。

電車を乗り継いでワーナー・ブラザース、ハリーポッター・メーキングという、博物館と呼びたい場所に行ってきた。

https://www.wbstudiotour.co.uk/


ハリポタの映画撮影に使ったセットを展示してある。行った三日前に森が追加され、二か月ほど前に駅が追加され、その二点はエレナも見てないというので、ついてきてもらうのに悪いな〜という気持ちがちょっと癒された。

もう、年がいがないとか言われてもいい。感激でした!

ホグワズ(学校)の食堂から始まり、ハリー達の寝室、魔法使い用の店が並ぶディアゴンアレイ、駅、森……撮影に使ったセットだから臨場感がある。まず食堂に入った時に、鳥肌がたったことを告白しておきます。

臨場感のあるセットより、さらに感激したのはメーキングのコーナー。各建物や道具の設計図、紙による模型、怪物達のメイクのためのスケッチ。ハグリットが、一部はこうした着ぐるみと、モーターとコンピュータ制御の被り物で撮影されてたとは!

館内のコースで最後に見るのは、ホグワズのミニチュア。これも実際に撮影に使用されたもの。ものすごく精巧に作られていて、設計者をはじめ制作に関わった人達の真摯さみたいなものが伝わってきて、心が気持ちよくざわついた。それを感激というのか。

ショップにつながる魔法の杖の店には、何千という、一個一個手作りの箱が棚に納められ、箱の一つ一つに手書きでスタッフの名前が全員分書かれている。こういう配慮でスタッフの気持ちが一つになって、結果として作品に反映されるのだ。

ロンドンへ行く機会があったら是非とも一度行って見てくださいな。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】midorigo@mac.com

ロンドンのmanga店の事を書こうと決めていて、4日に原稿提出のところ、1日からのロンドン行きを待っていた。夕食の後に書こうと目論んでいたら、連日二万歩近い移動でクタクタ。来ない原稿を待つ編集部を心配させてしまいました。ごめんなさい。