ローマでMANGA[108]似顔絵を 描いてるときは 霊能者!?
── midori ──

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。

●フリマ初参加

子どもの頃から漫画家を夢見て、中学から美術大学の付属に入って大学まで出たのに、泣かず飛ばず、主婦に落ち着くかと思いきや、グダグダと何か描いたりしてお茶を濁して早還暦。

つくづく進んで自分を売ることを極力避けて来たなぁと、今更ながら、本当に今更ながら反省しきりの今日この頃。

まだ人生が続いている以上、何かする時間があるわけで、友人に紹介されてフリマに初参加して来た。

メルカティーノ・ジャッポネーゼ(日本のミニマーケット)という名の月一のマーケットだ。もう10年も続いているそうだ。





その名の通り、日本に関係する物を売る。キモノ、帯などの伝統衣類、風呂敷、手ぬぐい、食器、手作りアクセ、手作り小物、そしてアニメやゲームのキャラ関係品、日本に関する書籍など。売店を出すのは日本人とイタリア人が半々くらいだった。

毎回決まった場所ではなく、フリマ主催者が会場をどこに見つけるかによって決まる。今回は、ローマの南、元中央卸市場の近く。

この界隈は古代ローマの頃はテベレ河の港があって、ギリシャとの貿易船が荷を降ろしていた。テスタッチョと呼ばれる小高い丘が有名だ。

この丘はギリシャからオリーブオイルを運んできた土製のツボを割って、積み重ねてできた人工の丘なのだ。
https://flic.kr/p/SXcwDY


(写真の出どころのURLは下記)
http://rome.carpediem.cd/events/3226570-apertura-monte-dei-cocci-testaccio-at-monte-testaccio/


19世紀には国立の屠殺場が出来、その後、ムッソリーニの時代にちょっと離れた場所に国立中央卸市場が出来た。つまり、昔から商人、庶民で活発な地域だった。

最近ではちょっと文化的な地域になって、ローマで初めてのラーメン屋が二軒も開き(ラーメンも文化!)、寿司バーが四軒も開いて、ブリテッシュカフェや猫カフェも開いて、ちょっとした「文化的な」若者が集まる地域に変貌している。

・猫カフェ
http://www.romeowcatbistrot.com/


そんな地域にある文芸カフェ「カフェ・レッテラリオ」が今回の会場になった。
https://www.caffeletterarioroma.it/


ここは、元地下駐車場を利用して出来たカフェ。車が悠々と通れる広さのスロープを下って店内に入る。中央にバーがあり、ピアノを置いた小さな舞台が右端にあって、ミニライブができる。奥にはラジオスタジオ、左手には図書室。もはやイベント会場と化している。

●お客さんが来なかったらどうしよう

私は昨年出た本を七冊ほど持って行き、コミックスフェアの学校のブースでやる筆ペンによる似顔描きを商品とする。
https://uppercomics.com/portfolio/un-posto-vivere/


たくさん商品があるわけではないので、ブースは小さくてよい。1m×1mのブースに80cmのテーブルということだったが、実際にはカフェのディレクターが普段使用するというテーブルをあてがわれて、十分にスペースがあった。

・準備万端
https://flic.kr/p/U7ZDqG

https://flic.kr/p/U7Z1i5


周りでは、常連さんがテキパキと商品を並べ、互いに挨拶を交わしている。ここで疎外感やらドギマギしてしまう時期は卒業した。年をとるのも悪くないと思う時だ。

「どうも〜、初参加です。みどりです。よろしくお願いします」笑顔で周りに挨拶をした。

家から持ってきたライトをセットし、紙と筆記用具を出す。売る本を重ねて、家で作って来たPOPを置く。

組み立て式の棚などをセットしている常連さんは、いかにもプロフェッショナルで、何だか私には足りないものだらけ。果たしてお客さんが来るだろうかと心配になってくる。

参加費分と、家からここに来るまでのガソリン代のマイナスで終わるのか。

まぁ、これも体験。誰も来なかったら、ここに座っている時間を利用してマンガの筋でも考えよう、何か絵を描こう、ここにいる人たちのスケッチなどしよう……と最悪の状態の過ごし方をシュミレーションしたら気が楽になった。

トイレに行っておいてスッキリして作業に取り掛かろうとしたら、ジーンズの後ろのポケットに入れておいた携帯が、ジーンズを下げた途端にポチャンと便器の中に落ちてしまった。まだ何もしてなかったし、手を突っ込んで回収。

すべきことはして、手を洗うのもそこそこに携帯を開けて電池をとりだし、ティッシュで水分を取ってみたけど、結局死んでしまった。平気なふりしてるけど、やっぱり緊張してるのかな。先行き悪いなー。

目の前を知り合いが通りかかる。元オタクで、二十代の前半だった頃に友達グループを作って、manga情報誌を出していたイタリア人女性だ。

五年前にFacebookで再会した。日本人と結婚して二児の母。コミックスフェアにキャラグッズを売るスタンドを出している。

思いついて、彼女の似顔を描かせてもらった。これをテーブルに置いて見本にするのだ。実物があったほうが、POPにプリントした小さな写真より説得力がある。

・サクラ(笑)
https://flic.kr/p/Ubyjbz

https://flic.kr/p/TZ3Ujr


ここ二年ほど、似顔は筆ペンを使っている。
http://www.pentel.co.jp/products/brushpens/brushtype/pentelfudeportable/


年配の女性がやって来て、見本の絵を褒めてくれた。絵を描いているそうで、私の筆の絵にあるような線に憧れている、とも言った。

彼女はきっちりした線をつかうのだそうだ。使っている筆ペンを見せ、メーカー名とこの筆ペンを買った店名を紙に書いて渡した。

彼女は一周して来た後、お客さんになってくれた。嬉しそうにポーズをとって笑顔を見せる。ポーズでちょっと右のほうを見ながら、チラチラと視線を下に落として絵を見ている。

大きな声で「上手ねぇ、素晴らしいわ」と感想を言ってくれるので、人が立ち止まり始め、しまいには列になった。心配は無用になった。

●似顔絵描きのポイントは5点

似顔というくらいだから、出来上がりはモデルになった人の顔に似ている。どうやら、特徴を掴む才があるのではないかと思ってしまう。

リアルな絵ではなく、シンプルな線の集まりで、昨年から水で薄めた薄墨で陰影をつけたりするようになった。

自分でもなんでそうなるかなぁと思うのだけれど、目は心の窓と言われる目ではなくて、眉毛の描き分けでその人の特徴を描く。

目は誰に対してもほぼ同じ描き方だ。目の色が薄い人は虹彩に色を塗らないか薄墨で塗るという違いがあるけれど。

鼻は濃い顔のイタリアでもmanga式にちょこんという印で表現する。鼻の高さは後で薄墨で目の周りに影をつけてる表現する。口もあまり大きな描き分けはない。

個人差は眉毛と髪、ヒゲのある男性は髭。あ、化粧の濃い人は、瞼に当たる上の線を濃い目に描く。つまり、この四点で描き分けている。

髪の生え際というのも結構大事な部分なので、五点になるね。

この五点を把握するために、何度も紙から顔を上げてモデルの顔を見る。凝視はしない。パッと見ながら印象を掴む。

携帯の写真で描いてと依頼されることもある。大抵は実物を前にライブで描いたほうが気に入ったものができる。写真だと瞬間を切り取っているので、本人と違った印象になってることもあると思う。

もっとも私はその本人を知らないのだから、違うも何もないのだけど、なんて言うんだろう、魂がない、と言うような感じかな。そこで、霊能者が出てくる。

霊能者というのはもちろん大げさだけど、パッと何度も見て、印象を掴んで紙に私というフィルターを通して写して行くとき、その人の内面が見える気がすることが多々あるのだ。

若い男の子で、背丈が190センチはありそうなガッシリした体に眉と唇にピルシング、耳にピアス。頭の側面を剃って中央にだけ髪を残して黒の革ジャンという、なんか強面の外面を持ちながら、描いて行くと、目がすごく優しいことに気づく。

すると、皆同じ描き方のはずなのに、目が優しい表情になって現れる。

中学生くらいの男の子を二人連れた、いかにも疲れた感じのお母さん。自分を飾る時間的な余裕も経済的な余裕もないのではないかと思わせる、パサパサの短めな髪を、無造作にただ前髪が目の邪魔にならないためだけにピンで留めている。

「いつも怒ってばかりで意地悪ばあさんだよ」と悪態をつく息子の言葉とは裏腹に、聡明なハツラツとした、そしてロマンチックな思いを抱えた少女が浮かんでくる。だから、そのように描く。

無口で大人しそうな小学生の男の子。ものすごく頭の回転が速く、感覚が鋭く、周りのレベルと合わないのでは。

気丈そうに、キッチリと眉を描き、ハッキリと赤い口紅で唇をかたどった若い美女は、自信がなくていつも何かに怯えているのでは。

と、まぁ、確認できるものではないので確証はまったくなくて、ただの私の空想でしかないと思うけれど、そうしようと思わずとも昇って来る妄想は楽しく、目の前にいて私の手元を見つめる人が愛おしくなって来るのが常なのだった。

その感覚が嬉しくて、お尻が平らになりつつも何時間も描き続けてしまうのだった。

・応援団
https://flic.kr/p/TADS39


学校で知り合った若い友人のフランチェスカ、バレンティーナ、パオロはアニメ鑑賞の仲間でもあり、中華料理や餃子パーティー、スシパーティーの仲間でもある。若い友人、なにしろ、皆私より1〜2歳年下の母親を持つのだから。

私の慰労にローマを縦断してわざわざ出て来てくれた。かわいいね。これも報酬。

似顔は一人5ユーロをいただいた。一段落つくと、周りのブースの人が寄ってきて「二人を一枚に描く時は値段をあげなさいよ」「そうよ、そうよ。手間がかかってるんだから」と言い騒ぐ。さすが商売人。安売りは良くない。

80ユーロという案が出されたが、なんだかもらいすぎの気がして7ユーロにした。値上げを決めて初めてのカップル。「二人だと7ユーロなんですが」と恐る恐る言うと、あっさり承諾してくれた。そういうものなのだ。

周りのブースの人も応援団。

●mangaをあきらめない若い友人

話は変わって、ロンドン住まいの若いイタリア人友人(ここでも)について。高校生の頃からmangaを描き始め、一時は周りの意見に負けて描くのをやめていたが、やはりあきらめきれないと描き始めた。

コアミックスのサイレント・マンガ・オーデション(海外にも門戸を開いている)に何度か応募し、「今回、これでどこにも引っかからなかったら、応募をやめる」と、全霊をかけて制作した作品が入賞した。
http://smacmag.net/v/smaex2/how-to-smile-by-elena-vitagliano/?lang=ja&_ga=1.37054566.790187665.1493424371


頑張れ!


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】midorigo@mac.com

あまり仕事がないのをいいことに? 和裁に挑戦を始めた。

最近、和服っていいなぁという思いが強くなり、普通に出かける時でも着てしまいたいとまで思うようになったけど、着物は高い。ポリエステルの中国で機械縫いでも、私のお財布では高い。

色々見てたら、「昔の人は普通に自分で縫っていた」「着物は直線縫いだけ」「服地で縫いました」なんていうブログ記事が目について、ついにその気になったというわけ。

http://www.natsume.co.jp/book/index.php?action=show&code=005724&keyword=%CF%C2%BA%DB&x=0&y=0&book_type=1


「初めての和裁」の本を買い、幅140センチのデニム地を買い、首ったけでどうにか縫い上げた。楽しかったので、イタリアの面白い布を買ってまた作ってみるつもり。