ローマでMANGA[109]パパ、私、作家だよ!
── midori ──

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。

●もう一つのコミックスフェア

最近、イタリアではコミックスフェアが増えている。

ちょっと前まで、ローマ、ルッカ、ナポリだったのに、すぐに思いつくだけでも、ミラノ、トリノ、ノヴァーラ、レッジョエミリア、フォルリ、ラスペツィア、ジェノバ、クネア、アレッサンドリア、ロヴィーゴ、サッサリ、パレルモ、エトナ、ブレッシャ、パドヴァ、リミニ、今年からヴェローナでも開かれるようになった。

ごく小規模なものまで含めると、一年中イタリアのどこかでコミックスフェアをやっている。

ローマは年に二回、ROMICSという名前のフェアがあって、フィウミチーノ空港にほど近い大きなフェア会場を使って開催される。
http://www.romics.it/


ただ、年々どちらかというと、キャラフェスのような感じが濃厚になってきた。参加するブースもキャラグッズを売るブースが増えている。カップラーメンの屋台やカタナのブースもあって、ジャパン・キャラフェスですか? という感じだ。

ところが、2015年にARFというコミックスフェアを開催する人? 団体? が現れた。グッズは排除。マンガに徹する。





ブースはほとんどがマンガ出版社。私が講師を勤める学校と、もう一校のマンガ学校とマンガ画材のブースが、出版社ではないので異彩を放つほどだ。自費出版のコーナーが結構大きいのも嬉しい。

場所は、前回フリマの話で登場した地域で、元国立屠殺場跡を使う。1900年代初頭の建物で、正面入り口の門の上には牡牛とそれを取り押さえる人物の彫刻が置かれてなかなか威厳がある。
https://www.tgtourism.tv/2017/04/30634-30634/


当時、国立でまとめて屠殺を行い、流通させたのだからかなり経済効果があったと思う。もっとも、肉をしょっちゅう購入できるのは金持ちだけで、庶民にとって肉はクリスマスとか特別な日だけの特別な食べ物だった。

東京築地市場(早く豊洲に移転を決めましょう、都知事様)のような感じで、周りには屠殺場で働く人を相手に食堂ができた。

メニューは屠殺場から出る臓物料理。牛の舌、レバー、心臓、肺を細かく切ってトマトでグツグツ煮込む。牛テールをたっぷりのセロリとトマトで煮込む。まだミルクだけを飲んでいる子牛の腸を、トマトで煮てパスタと和える。

今でもその食堂がリストランテとして二軒残っている。角にあるペコリーノがおすすめ。
http://www.ristorantepecorino.it/album/index.php?a=0


その隣にある1887年開業のケッキーノは、35年前までは先代の経営でトラットリアだった。庶民的な値段で庶民料理を出す美味しい店だった。20数年前に息子二人とその従姉妹が経営者になって、庶民料理を洗練させ、ワインを「他のレストランが探しに来る」くらい集めて高級レストランにした。

高級でも給仕やオーナー兼ソムリエの態度がスノッブではなく、料理も美味しいし良い店だった。五年前に行ってみたら、給仕はガサツで味が大幅に落ち、高級は値段だけだった。何を間違えたのか他人事ながら残念な店だ。
http://checchino-dal-1887.com/


あ、ついつい興奮してしまった。マンガ、マンガ。

元国立屠殺場はMACRO TESTACCIOと名前を変えて、文化的催し物の会場として使われている。
http://en.museomacro.org/


MACROは“Museo d’Arte Contemporaneo Roma”「ローマ現代美術館」の頭文字を取ったもの。屠殺時代の牛を吊り下げていた鍵手などを残して、なかなかシュールな佇まいをしている。
https://goo.gl/rbymdh


TESTACCIOはこの地域の名称、モンテ・テスタッチョから取っている。前回のテキストで説明したけど、古代ローマ時代にギリシャからの輸入でワインやオリーブオイルを運ぶために使った、土製のアンフォラを割って積み重ねて山にした。その山の名前がテスタッチョなのだ。

●コミックスフェアに作家として参加

ARFは金土日の三日間の開催。金曜日に「作家」として参加して来た。

“AUTORE(作家)”と書かれたカードを首から下げて無料で入場する。無料も嬉しいけど、還暦過ぎて夢だった役割を得てマンガフェアに入場する、その事実が嬉しい。

「パパ、私、作家だよ!」と天国の父に報告する。父は、好きな事があるならそれをして行くのが幸せなんだよ、とずっと言っていた。無理して私立の女子美に通わせてくれたのも私の幸せを願ってのこと。人間、生きてる限り、諦めちゃいかん。

まず、学校のブースに挨拶に行く。イベント担当のフランチェスカが一人で右往左往して焦っているので、まず学校ブースの準備を手伝うことにする。

若い友人でmanga作家(ユーロmanga)で学校の同年代のスタッフと友達になり、学校の事務所を仕事場にして色々と無償で手伝っているパオロもブースのオープン準備を手伝う。

時おり、私とパオロの本を出版したUppercomicsの代表者、ガエターノからパオロに電話が入る。一人で切り盛りしていてとても間に合いそうにないから、誰か手伝いに来て、という連絡だった。

パオロはガエターノがあまりにも当然のことのように色々頼みすぎると、イライラしていてとてもぶっきら棒に答える。

私は私の本を出版してくれたことがありがたくて、生まれたばかりの小規模な出版社が色々足らないのは当然だろうと考えて、イライラしてないので気の毒に思って手伝いに行くことにする。

もっとも、パオロみたいに色々頼まれていないので気楽なのだけど。色々頼まれても(主にサイトやポスターなどのイラスト)喜んでやると思うけど。

Uppercomics のブースは2メートル平米ほどの小さなブース。そこで、ガエターノが段ボール箱に囲まれて無表情で黙々と作業をしていた。元々あまり表情が豊かではない青年だけど、4月5月と大事なコミックスフェアが続けざまにあって、荷物を抱えて移動し、開催中は座り続けてクタクタなのだ。

「作家」としての役割はUppercomicsでなので、ブースの準備が整ったところで二脚ある椅子の一つに座って、作家の役目を果たすことにした。つまり、ライブで絵を描いて人の興味を引くのだ。

このところ、モダン和装に興味が出て、そういう写真を集めている。その写真を元にイラストを描いた。と、そうこうするうちに、な、なんと私の本を目当てに来る人が何人か出てきた。

本を買ってくれた人には、お得意の似顔絵を白地のページに描く。似顔を描いていると、面白そうに見て人が立ち止まる。営業能力も身についてきて、すかさず本の内容の説明をする。

キャラフェスになってしまったRomics とは違って、40代、50代のお客さんも多い。「過ぎた日の良いところを、人生の価値が物を持つことだけじゃなかった時代の話です」に共感してくれる。

その説明にうなづきながらパラパラとめくって、そのままあっけなく買ってくれたりする。さすが、マンガ専門のフェアだ。

お客さんが途絶えたところで、家で描いていたモダン和装少女の絵の続きを描く。それをじっと見ていた母子の母親が「息子がすごくその絵を気に入ったんだけど……」と言う。

タダであげてしまってもいいんだけど、「プロ」の二文字が頭に浮かんで「買ってくれるなら」と言ってみたらそれでもいい、と言う。

値段を聞かれてとっさに5ユーロ(600円くらい)と言って、後で若い友人等にバカかと言われた。もっと高くつけてよかったと。安売りはよくないんだけど。でも望まれるのは嬉しい。
https://www.facebook.com/midori.yamane/posts/10213550202257572


午後、学校のブースでは、学校の宣伝のために無償で似顔を描く。私のセミナーの生徒が数多くやって来て、似顔じゃなくて何か私の絵を希望され、モダン和装少女を墨で描いた。絵を望まれるのはやっぱり嬉しい。

●「パパ、私、アーチストだよ!」

月に一度、ローマから80キロほど北の、ビテルボという街の私塾にmangaのワークショップへ通っている。
https://www.arsartisviterbo.com/conosci-i-docenti


私塾のオーナーのバレリオは絵描きさんで、自らもデッサンや油絵のワークショップを持っている。

バレリオに私の本をプレゼントした。一か月後、メッセージではなくて口頭で伝えたかったとして、嬉しいことを言ってくれた。

「あれはmangaとかグラフィックノベルとかではなく、『良い本』というジャンルに入るべきだ」

「センシブルな人は深く読めるだろうし、センシブルでない人は自分が何を感じたのか分析できないまま、何かを感じるだろう。両端を掴むことが出来る。だからあれはアートだ」

「あなたはmanga家とか講師とかではなくて、自分をアーチストと意識すべきだ。絶対に描き続けなければいけないよ」

どうです、この言葉。ちょっと赤面しつつ「でも、あれだけでは食べられなくて……」とあんまり関係ないことを言ってしまった。バレリオは首を横に振って「アーチストはその作品で食べられるかどうかは関係なく、制作する義務があるんだよ」と言った。

バレリオ「あなたは自分の表現方法を見つけたんだ」
私「ちょっと年食ってるけどね」
バレリオ「一生かかっても見つけられない人もいるんだよ」

わかった。「パパ、私、アーチストだよ!」

バレリオの後押しがあって、私は自分が感じたことを表現していいのだと自信を持ってしまって、おかげで自分で色々制限をつけておたことに気がついた。

それで、ARFで写真を元にして、あまりしたことのない水彩で、モダン和装少女を練習を兼ねて描いたりしたのだ。

●朝だ朝だーよ♪

今後やるべきことは、今までもずっとあった課題の解決法を見つけること。

家事との時間の兼ね合いだ。テキパキしてる方ではないし、物が多いこともあって片付けが下手。おまけに農地と言っていいほどの庭の手入れはキリがない。

さらには、旦那は定年退職したし、息子は大学中退してサッカー場やコンサートのセキュリティーのバイトをしている。つまり、昼食時と夕食時に家族の全員か誰かがいるので、調理と後片付けの作業が毎日二回ある。

旦那は絵やmangaを描くことの意味やかかる時間には無頓着で、キッチリ片付いた家が普通だと思ってる(大抵そうか)から、家の整理整頓を後回しにしてmangaのネタを考えて座っていると機嫌が悪くなる。

今までは家族が就寝後真夜中にやっていたけど、疲れも出てどうも効率が悪い。だから早朝にシフトすることにした。6時起きをとりあえずの目標にしたものの、なかなかうまくいかない。

それでも、寝起きのグダーっとした感じに浸りたい気持ちを、とりあえず目が覚めたら起きる、というふうに頭を切り替えることができた。息子の高校が終わってから9時起きが習慣になっていた。この習慣を少しづつずらしていけばいいのだ。

「早朝に仕事」にシフトした友人何人かは、5時半に起きる。何も邪魔が入らない時間が3時間から4時間手に入ってるとてもよい、とのことで、いずれは私も……。

年取って来て夜中にトイレに起きることが多々あるのだけど、大抵3時半ごろ。これがもう少しずれれば一石二鳥なんだけど。


【Midori/アーチスト/マンガ家/MANGA構築法講師】midorigo@mac.com
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バレリオが褒めてくれた私の本はこれ ↓ が元です。更新しなくちゃ。

MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
https://www-indies.mangabox.me/episode/58232/