ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。
●生徒の将来は「じゃあね〜!」じゃない!
イタリアの学校は6月が学年末。今、必死で製作中の卒業制作課題二編(一編は実際に資料集めが可能な現実的な話。もう一編はファンタジー、想像上の物語で小道具か登場人物・マスコットなどの小動物に、オリジナルの想像上のものを入れる)各20ページが終わると、卒業試験に当たる講評を経て、すべての行程を終える。つまり、社会へ出る。
マンガ学校を終えて社会に出る、ということは、すなわちプロのマンガ家になる、ということだ。もちろん、学校を終えたからといって、出版社が校門で卒業生が出てくるのを手ぐすね引いて待ってるわけではない。校門ないし。
ここで困るのは、私に自分をマネージメントして売り込んでいく、という経験がないことだ。特に漫画家としては。驚いちゃうけど本当なのだ。
なぜmanga家になりたいという夢を持ちながら、そういった経験をして来なかったのか、避けてきたのか、という問に対して、今や私は答えを持っているのだが、ここで述べると冗長になるし、ちょっと話題が違うので割愛する。
私に漫画家として売り込む経験がない、という事実をベースに、ユーロマンガというジャンル自体がイタリアおよびヨーロッパのマンガ界で新しい分野だ、という事実をここで取り上げることにする。この二件の事実は、生徒の卒業後の行方の指導を難しくしている。
難しいと言ってそのまま「じゃあね〜!」と生徒を放り出すのは、専門学校の講師にあるまじき行為だと思う。昨年の一年目は結局「じゃあね〜!」で済ませてしまった。初めての正式コースの、すべてのプログラムが終わってホッとしてしまった。
今年は、なにか役に立つ現実的な案を幾つか提示した上で、「じゃあね〜!」と言いたい。
●「ユーロマンガ」というジャンル
mangaが持つ構築法、というか文法というのは、読者の感情移入を可能にして読者がキャラと一緒にその物語を生きるという、とっても楽しいエンタメとなっている。
しかも、どんな文化を持つ人にも共通の人間の感情をベースに、誰もが気持ちが良いと感じる「友情」とか「達成感」とか「他との共感」とかを、声高にではなく物語の底に流している。
だからこそ、日本のmanga、及びそれをベースにしたアニメが、文化の違いを超えて世界中の人々に受け入れられているのだ。本物のグローバル。
90年代に私が「海外支局ローマ」を請け負った、講談社週刊モーニングの「海外作家に日本市場向けに描き下ろしてもらう」企画はとっても意味があったのだ。ただ、その時は誰もmanga言語とマンガ言語が違うということに、すぐには気が付かなかった。
その詳しい話は別に譲るとして(過去にも書いたし)、基本的にmanga言語を使ってマンガを制作する、というのは可能なはずなのだ。
ではマンガとは何か、というと、日本人以外のマンガ作家がそれぞれのビジュアルスタイルを持って、それぞれのジャンル、SFとかお笑いとか、ヒーロー物とか、で制作されたもの。コマ割りされたページ上に、絵と台詞で進めていく物語。
ここで言うmangaとはmanga言語のことであり、マンガは外国人が制作した漫画作品ということになる。つまりmanga言語を使用して、世界中の誰もが漫画作品を作れるか、ということなのだ。
昔は無条件に「できる!」と考えていた。今は違う。原因は二つあって(今のところ)一つは言語。日本語、イタリア語、英語等々、普段コミュニケーションに使う言語の違い。もう一つは出版界の違い。
「読者がキャラに感情移入して物語を生きる」ことを可能にするmanga構築は、日本語の特徴をおおいに駆使して発達した。日本語の特徴とは動詞だけで表現が成り立つこと。
ヨーロッパ言語では、必ず主語・動詞・述語の3点セットでなければ意味が通じなくなる。その例として、「バガボンド(井上雄彦・講談社)」第1巻から。
http://bit.ly/2ERBVqi
右ページの下段大ゴマに、主人公の横顔アップと、太字で「殺してやる」と一言。イタリア語版の場合、動詞だけでは意味が通じなくなるので、「お前を俺が殺すであろう」と、ちゃんと述語も主語もあり、おまけに動詞では時制をはっきりさせないといけないので、丁寧に未来形になっている。
つまり、日本語だと動詞だけでよく、しかも、漢字と平仮名の組み合わせで、「殺してやる」の5文字、発音6個分を頭の中で発音しなくても、「殺」の一文字の意味がわかる。
つまり、「殺してやる」というセリフを見た瞬間、台詞の意味がわかり、しかも大文字、そしてフキダシの形が通常発音(ギザギザだと怒鳴っている)なので、読者はキャラがこの台詞をはっきりゆっくり発音していると受け取って、そのように読む。顔のアップもあり、この瞬間はちょっとスローになって、キャラの狂気を認識するのだ。
イタリア語だと文字数が多くなることもあって、フォントをあまり大きくできない。述語・動詞・主語が連なり、日本語に比べて冗長になる。
つまり、日本語バージョンとヨーロッパ言語バージョンでは、このコマのニュアンスが若干変わるのだ。つまり、この一件を以てしてもmanga構築法を100%他国へそのままもっていけないことがわかる。
だから「ユーロマンガ」なのだ。
一般に「ユーロマンガ」というと、こちらでは主に絵柄のことだと思われている。mangaが絵柄のことだと思われているのと同じように。
つまり、mangaを特徴付ける、ちょっとデフォルメした大きな目を持つキャラクターが、表情豊かに、多彩な形態と大きさを持つコマの中で、バトルを繰り広げる、という認識だ。
ここでは構築法の話。絵柄がmangaの影響を受けていなくても、manga構築法で構成されていればユーロマンガだ。先に言ったように100%manga言語/構築法は使えないので、ユーロマンガ。
今回は、生徒の将来の話なので、「ユーロマンガ」で日本へ行けるか、という話になる。
●「ユーロマンガ」で日本へ行けるか
日本のmangaとアニメに憧れて、manga家になりたいと思って専門学校に通う子達の夢は、日本で出版することだ。
manga言語を駆使して作品を使っても、日本のmanga界で一般に通用する作品にならないのは先に書いたように、使用する言葉が違うので100%mangaにならない。つまり、日本の市場に持ってくるとちょっと違和感がある。
もう一つ、mangaは生モノ。「今」、mangaの読者層が使う言い回しとか、笑いのツボがまったく押さえられない。
日本のmanga家志望者のように、作品を作って編集部に見せるとしても、編集者と日本語で話ができないと話にならない。
日本で我らが生徒がユーロマンガで出版できる方法の一つが、サイレントマンガオーディションに応募し、賞を取って、担当編集者が付き、何度もダメをくらいながらショートをWebに掲載してもらうことだ。
そのために、サイレントマンガオーディションの編集部には、様々な国の編集部員がいて、イタリア人もいる。他の出版社では、そこまで時間や出費をして外国人のmanga家を探すところはない。
もう一つは「ラディアン」の後を追うこと。
http://bit.ly/2WBPMLJ
フランスのmanga家が、当初からフランス語とは逆の、日本語の読み方向で作成した少年漫画。
これが、東京在住のフランス人で、フランスマンガをこよなく愛し、日本でフランスマンガを出版すべく立ち上げた出版社、ユーロマンガ合同会社のオーナー、フレデリック氏の目に止まり、ユーロマンガ合同会社/飛鳥新社から出版され、あまつさえNHKでアニメになって昨年10月から放映に至っている。
ユーロマンガ Wikipedia
http://bit.ly/2WBPWmj
ユーロマンガ合同会社のサイト
http://www.euromanga.jp/
ただ、日本の他のmanga出版社のように新人を育てたり、新作を上げたりしない。あくまでも他社(特にフランス)で出版されたものを、訳して出版する業務に徹している。
ということは、我が生徒たちは、まず、イタリアでオリジナルの作品を出版することから始めるのが道だ。日本のmanga家志望者が、頼まれもしないのに読み切りを描き上げては、編集部に持ち込んだり、賞に応募したりする行程と変わらない。賞に漏れたり、編集部でダメと言われたら、その原稿はお蔵入りになるのだ。作家としての血となり肉となるけどね。
●イタリアで「ユーロマンガ」の作家になる
これはもはや夢でも何でもない。
まずあまり大きくないところで「マンガ先輩」「カサオバケ」「ショックドム」「デンティブル」の4社がある。少年マンガ、少女マンガ、ボーイズラブなど。(ここでのお約束は、日本のマンガを「manga」ソレ以外を「マンガ」と表記するのだけど、ユーロマンガなので「マンガ」と表記する)
https://mangasenpai.blomming.it/shop
https://www.kasaobake.it/news/
ショックドムとデンティブルは、mangaの影響を強く受けたユーロマンガにはこだわらない。
https://www.e-shockdom.com/home
https://www.facebook.com/EdizioniDentiblu/
昨年ユーロマンガコースを卒業した二人が組んで、「マンガ先輩」に企画を見せ、「全編できたら見せて」と言われて懸命に製作中。
ユーロマンガコースの前身、mangaセミナーに参加した三人のうち一人がショックドムから全7巻、残りの二人がコンビで作品を作ってデンティブルから全3巻の作品を出した。
以下のリンクを張った3社は、ヨーロッパで「グラフィックノベル」と呼ばれるジャンルのマンガを出版している。日本でいうところの劇画、青年漫画だ。
外国の既成のマンガを翻訳して出版するだけでなく、オリジナル作品を出版しているので、「劇画」つまり、大人向けの物語を発表したい新人向け。この3社は他のヨーロッパ諸国の出版社も注目してるので、イタリアからさらに広がるかも。
https://baopublishing.it/
http://www.fandangoeditore.it/categoria-prodotto/marchi-editoriali/coconino-press/
http://www.oblomovedizioni.com/libri.php
ということは、道はある。ひたすら、作品を作っては提案しに行く、ということを繰り返す、日本の新人さんと同じことをする、ということだ。
【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師/】
「“やる気”と“健康長寿”をつかさどる『テストステロン』とは何か?」という見出しにつられて、ウェブ上の記事を読んだ。還暦を過ぎて数年経つと、あちこちに故障が出るし、やる気がなくなるっていうのが怖いなぁと思うこともあるので。
記事に行ってみると、釣られたタイトルには続きがあって、「体を作るだけでなく、ライフスタイルにも影響する男性ホルモンの真実」とか。
https://emira-t.jp/special/6788/
「テストステロン」は主に男性に分泌されるホルモンなのだ。
「例えば、男性は狩りに出掛け、獲物を捕らえ、帰ってくるということを古代より行ってきました。この行動の元、つまりエネルギー源となっているのがテストステロンなんです。」
「つまり見た目の男性らしさだけでなく、チャレンジしたり、集団の中で自分
を表現したり、意思を主張する上で必要なホルモンが、テストステロンだとい
うのだ。」
んじゃ、あたしには関係ない記事か、と思いきや……
「女性にとっても、決断力や判断力、さらにリスクを取るという行動につながっています。また、女性にとってテストステロンの影響が強くなるのは、閉経後が多いといわれています。そのころになると女性ホルモンが減っていくのですが、テストステロンの量は大きくは変わりません」
「その結果どうなるかというと、考え方が男性的になっていくのだという。例えば、よりアクティブになって社会貢献活動をするようになったり、友人と連れ立って旅行に出掛けるようになったり。その行動原理はテストステロンの特性を考えれば説明できる。」
そっか、最近とみに昔からの性癖である、他の顔色を窺って、イニシアチブを取らず、我を引っ込める、という事をやめて我を出す、やりたいと思ったことに手を出す、ようになったと思ったら、閉経して女性ホルモンが減った結果なのね。育った環境から押し殺すようになった自分らしさを取り戻すのに、女性ホルモンが邪魔だったとはね。
息子のバンドPSYCOLYT [注・親ばかリンク] (活動停止中)
https://twitter.com/midorom
インスタグラム
https://www.instagram.com/midoriyamane/
主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.com/
前記事
https://bn.dgcr.com/archives/midori/