アートブックOBSCUREは、新しい号を製作するたびに、今までとは違う試みを行なおうとしていた、という印象があります。
残念ながら、各号でどういう試みを行ったか具体的に思い出すことはできませんが、その結果、本の作りについては3号、6号、8号に特徴がありました。
3号の判型はA3の紙を縦に2つ折りにして小口を断ちきった、細長い形状だったのは前々回に書いた通りです。
また、6号には厚い鉄の表紙を付けたため、もらった本をオブスキュアから持ち帰ることができなかったことも書いています。
さて、8号ですが、これも私の手元にはないので記憶をもとに書きますが、製作された300部はすべて異なる内容で、参加作家の各作品は綴じられず、表紙に挟まれた状態で売りに出されました。
OBSCURE8号がそのような形態になったのは、藤乃屋舞さんの発言が発端になったと記憶しています。
舞さんは以前から、CD-Rの音源がオマケ扱いだったことに不満を抱いていたようでした。
写真は自宅で見つかったOBSCURE3号の付録。KUJUN、白井朋樹、Rudolf Eb er、関根正幸が参加。
●10分のカセットテープ300本に録音
ある時、舞さんは「俺たちの音楽が本誌のオマケだってよ」と言い出しました。
もちろん、前回書いたように、当時、CD-Rはまだまだ高価だったことと、ダビングにも時間がかかったため、300部全てにCD-Rをつけるのは難しく、オマケでも仕方がないという事情もありました。
おそらく、その時も鷹野くんが舞さんにその話をしたのでしょう。これに対し、舞さんは次のような提案をしました。
・CD-Rの代わりに10分のカセットテープを300本用意する。
・スタジオを借りて演奏を行い、すべてのカセットテープに一気に録音する。
この舞さんの提案は採用されて、2001年5月下旬に横浜のスタジオでOBSCURE8号の付録となる、カセットテープへの録音が行われることになりました。
録音は夕方頃から始まったと思います。ただし、私は仕事の都合で、午後9時過ぎに最寄りの新横浜駅に到着、迎えに来てもらいました。
スタジオには、オブスキュアのメンバー以外に、藤乃屋舞、KUJUNと浅野忠信の兄弟、テニスコーツ(植野隆司、さや)などの面々が来ていました。
その他に、後にオブスキュアで共同生活を送ることになるHAMADARAKA(有薗エル、エム)、ポンタ、シュージ達もいて、この日、コーキくんから彼らを紹介してもらいました。
ミュージシャン達は、休憩を挟みながら演奏を行いました。
その演奏を用意された複数台のテープレコーダーやテープデッキで録音、テープが終了すると、箱買いした生テープと次々に交換していきました。
録音は、段ボール箱の中のテープが尽きた深夜3時過ぎまで続き、その結果、演奏の断片が録音された、内容がまったく異なる300本のテープが出来上がりました。
●作家も300の異なる作品を用意
こうなると、本誌の方も1部毎に違う内容にしようという話が持ち上がります。すなわち、作家が(出来れば)300の異なる作品を用意して、その組み合わですべてが異なる内容のアートブックを作ることになりました。
私も前の年にフィルムスキャナーを購入していたので、写真で参加することに
しました。
ただし、今まで撮影したネガから必要な写真を見つけ出すのに手間取り、種類としては40しか用意できませんでした。
その40種類の中から、あるものは1〜2枚、あるものは数十枚という風に枚数にはバラツキがありますがプリントして、300枚を用意しました。
一方、山根康弘くんは、300枚すべて異なる絵を描き下ろしたと思います。
OBSCURE8号製作の当日も人が集まって、各作家が用意した300枚の作品から1枚ずつ選んで、1冊のアートブックにする作業を行いました。
その際コーキくんから、上から順番に見ていったときに、一つの流れが感じられるように作品を選んでほしいという要望があったのを覚えています。私自身、その要望にはあまり答えられませんでしたが。
OBSCURE8号のために用意した写真ですが、アートブックに差し込んで終わらせると、おそらくは購入した1名の目にしか触れないため、どこかで別に発表できないものかと考えていました。
そうしているうち、次の年になって、今はなきgeocityで無料のホームページが作成できると知りました。
そこで、OBSCURE8号のための写真を含む、それまでに撮影した写真を紹介するためのサイトを2002年の暮れに始めるのですが、そのサイトの名前に付けたのがこの連載と同じ「Scenes Around Me」でした。
【せきね・まさゆき】
sekinema@hotmail.com
http://sekinema.com/photos
1965年生まれ。非常勤で数学を教えるかたわら、中山道、庚申塔の様な自転車で移動中に気になったものや、ライブ、美術展、パフォーマンスなどの写真を雑多に撮影しています。記録魔