エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[24]語彙消失歌会のはなし 期限切れの言葉/海音寺ジョー

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◎語彙消失歌会のはなし

歌会という短歌をする人の会合がある。

それぞれが自分の歌を持ってって、投票したり「この歌が良い」「悪い」「なぜなら韻律が」とか「意味が分かりにくい」など評価、分析し合って一つ一つの歌を多角的に検討、談論をする会なのだが、インターネットで大活躍の御殿山みなみさんと、短歌カードゲーム・ミソヒトサジの制作等も行う、なべとびすこさんが6月24日に『語彙消失歌会』なるものを開催した。

この歌会は、細かい理屈抜きに良い歌は「いいじゃん」と難しい言葉やめにして叫び合おうじゃん、というコンセプトであるという。(それは、エポックでは?)と年甲斐もなく、ワクワクして参加させてもらった。





当日、大阪の中崎町という駅で御殿山さん達と合流し、会場の『らこんて中崎町』に連れてってもらった。

会場は若い人ばかりで場違いだったかと怯んだが、そういうのが一人ぐらい混じっても良かろうと開き直った。

歌会というものに、その日までに通算三回参加してて、一つは結社のめちゃ真剣なやつだった。

直に批判をぶつけたり、助詞の一つ一つを検証したり、背景の思念や歌意の裏読みをしたり、感情がエスカレートして互いの人間性にまで踏み込んで争論が泥沼化し、司会が慌てて「ち、ちょっと休憩を取りましょう!」と叫んだり・・・

しかし、色々な方の話を聴いたり実際参加して感じたのだが、それがオーソドックスな歌会のスタイルであり、醍醐味なのだろう。

しかし、二人の主催はそんな既成の価値観の枠にとどまらない、常識のなさが売りであった。

企画力が息して動いてると言っても過言ではない、アイディアマン御殿山さんと、実行力が服着て動いてる、なべとびすこさんがタッグを組んだ、今回のイベントが面白くないはずがないという確信があった。

貸しスペース『らこんて中崎町』に集うと、なべとびすこさんが「う〜」「どうしよ?」「う〜ん」とほとんど何も仕切り発言をしないうちに、参加者みんなが長机を並べ、壁際にあった椅子を人数分揃えていく。

ぼくは殆どの人と初顔合わせだったが、皆旧知の間柄らしく連帯が出来てる感じだった。いくつかの長机を寄せて作られた大テーブルに、御殿山さんが夜なべして製作した、語彙消失カードがバサッと散りばめられた。

これはA4サイズの画用紙に端的なセリフが印刷されたカードで、例えば「好き」「わかりみ」「エモい」「それな」「意味はわからんけど何かすごい気がする」など、ガチの歌会では使いづらいことこの上ない、端的な決めセリフがわざとプリントされてるのだった。

自分で、「良い」「この歌、すごい」と語彙力なさげな発言をしてもいいし、そのカードを掴んで掲げるだけでもいいのである。というのが当初のルールだった。

自選の短歌、自分がいいと思った他の人の短歌を短冊に二首ずつ書いて、司会のなべさん御殿山さんに預け、歌会が始まった。

投票は無しで、詠草(短歌)が発表されるごとに、順繰りに参加者が朗読し一言評を言って、めいめいがババッと思いついた者順に所感を述べていくという、牛隆佑さんが主催されてる借り家歌会ルールに準じて進行した。

その時、一発目の評を述べる人が一番気分に近いカードを掲げる、もし該当のカードが無かったらテーブルの上のマジックで、司会席の隣だった窪下さん、ナタカさんがババッと白紙カードに書き込み、新たな語彙消失フレーズを作成する、という流れが生じた。

基本自由に発言していいのだが、司会に当てて欲しい人はカードを頭上高く掲げて待つという、この場でのルールが自然に醸成されていった。

カードには、テンプレートタイプのも用意されてた。

「半端ないって。○○半端ないって。そんなん思いつかへんやん、普通」というやつで、○○に感嘆のキーワードを入れて叫ぶ用なのである。なべとびすこさんが一回だけ使っていた。

和気あいあいと名歌に触れつつ、オオー! ぬおおー! とみんなで感嘆しあって、歌会は進んだ。「天才」「それな」カードが良く使われた。

ぼくは当たった歌が難解だったので、あれこれ迷って「何かめっちゃいいと思うんやけど何処がいいのかわからないので誰か説明して」カードを掲げた。右隣の座席だった、田上純弥さんや千原こはぎさんが、わかりやすく解説してくれた。

短冊が小さく、遠くからは読みづらかったので、各歌の提示はホワイトボードが使われた。御殿山さんが駿台予備校講師並みの手際の良さで、ホワイトボードを三分割して詠草を書きこみ、評の終わった歌は素早く消して次の歌を書きこみ、かつ司会もなべさんとこなす名采配で、全部の歌を予定時間内に紹介しきった。

ハイペースだったが、今まで知らんかった名歌、あるいは歌集を読んでたはずだけど、当時気づくことが出来ず、記憶から飛ばしてた歌の良さに触れることが出来て、充実した時間だった。

最初、語彙消失カードで端的に感想を表明するのだが、感じ入った参加者が次々に「そもそも、この歌の凄さは…」「こういう意味にもとれるんじゃない?」とわかりやすくも的確な指摘をして読みを深化していったので、そのへんは一般的な歌会の良い形へと、収斂されていってたと思う。

票を競ったり、綿密な歌の分析、討論も良いけど、「これいいね」「この歌いいよねー」と大勢で多くの歌を鑑賞できた語彙消失歌会、すごく楽しくて、是非また開催してほしいと思った。

語彙消失カード、まんべんなく効率よく使われたが、「全米が泣いてまう」カードは、ほぼ出番がなかった。次は勇気を出して使いたいな。


◎期限切れの言葉

遅番パートのフェイが、嬉しそうにゆってきた。

『松尾さん、新しい日本語覚えたヨ』

フェイさんは不法入国してきた中国人娘で、最近俺の勤める相生橋筋の居酒屋にバイトで入ってきた。正規の日本語教育を受けていないよって、片言の日本語しか喋れない。

『うん、どんな言葉ですか?』
『イーゴ、イーチェー!』

それは日本語なんけ?
フェイが片言で説明を始める。

『人はー、人にー会うときは、それっきり、一度きりにーなるかもしれない。だから、会うはー、大切なことです。という意味ネ』

それで一期一会のことだとわかった。

『それは、イチゴイチエって言います』
『そうカ、イチゴーイチエだたか。日本語難しいねえ』

フェイは照れ笑いする。

オレはフェイには丁寧な言葉を使う。悪い言葉や卑語は、彼等はすぐに覚える。でも、接客仕事には敬語ができなあかんから、俺の言葉をフェイが真似するように、わざと丁寧な言葉を使ってるんや。

『フェイ、フェイが日本語をちゃんと話せる、そうなったら、時給が上がる。だから頑張ってください』

『松尾さん、前にも同じこと言ったね。前の前にもネ。ワタシ時給、まだ上がんないヨ?』

『オレだって安月給やぜ。でも、イーゴイーチェは、よく勉強したよな、偉いなフェイ!』

『へへへへ』

あてにならない口約束で世界は満ち満ちている。ドブタメのような場末の町であくせく働きながら、生活に倦みながら、だけどイチゴイチエはいい言葉だよなーと、その時俺は思った。


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