ショート・ストーリーのKUNI[255]それはきっと理想国家
── ヤマシタクニコ ──

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ウクライナ共和国のすぐそばに、「デンキツケンカイ」という小さな共和国があることはあまり知られていない。割と最近独立したばかり、人口5000人程度の小国ではあるが、知名度の低さは小国だからというよりは、国際機関などにも加盟せず、外交の表舞台に出ることもほとんどないからだと思える。というのも、大統領以下全員、やる気がないからだ。

「あーあ、めんどくさいなあ」
「大統領、またこぼしているのですか」
「ああ、補佐官。ほんまもう、やってられんわ。書類読むのもめんどくさいし、いろいろ決めるのもうっとうしいし。大統領やめたいわー」
「そういうことは気軽にいうものではございません」
「なんで独立なんかしたんやろなあ、先代は。支配されてるほうが楽やのに」
「それは仕方ありません。『何もやる気がしない』人たちが自分たちの国をつくって、思い切りやる気がない生活をしようとしたからでございます」
「どんな矛盾やねん、それ」
「いずれにしてもそれがわが国の歴史であります。歴史にきちんと向き合うことから始まるのです」
「そやなあ。それにしても、なんかええ方法ないんかなー。毎日だらだらしてたいのに。いいかげんな生活したいのにー」
「大統領、実はそこでですね」
「なんや」





「耳寄りな情報をキャッチしたのでございます。何でも東のほうに、えーっと、えーっと・・・なんとかポンという国がありまして」
「なんとかポン。あったかなあ、そんな国」
「なんとかポン・・・または、なんとかホンかも」
「あったかなあ」
「そのなんとかポンの最近の様子を見てみますと、めっちゃ楽そうなのです。われわれの参考になるかもしれません。といっても、詳しいことはよくわからないんですが。なにせわが国のインターネット環境はお粗末なものですので、国境近くのスタバでパソコン広げている客のモニタを、横からのぞき見して知ったことです」
「まあだいたいわかったらええやん。どんな感じやねん」

「なかなか一言では言えませんが、びっくりするほど無茶苦茶で手抜きでちゃらんぽらんであくどい統治。にもかかわらず政府は長期にわたって国民の支持を得ているそうなのです」
「何それ。わしもやりたい、無茶苦茶で手抜きでちゃらんぽらんなやり方」
「はい」
「にもかかわらず国民から支持されている」
「はい」
「ぷー。うそやろ、そんなうまい話! あるわけないやん」
「それがあるんですよ。支持率がずっと40%以上。50%を軽々と越えるときもあるんです」
「えっ。すごいやん。わしなんか今支持率調査したら10%くらいちゃうか。特に何も悪いことしてないけど。全然人望ないし」
「わが国では、そもそも支持率調査をしろといってもみんなやる気がないので始まりません」
「そうやなあ」

「例えば、なんとかポンでは最近、消費税の税率が上がりました。景気が良くないのに。8%だったのが10%になりました」
「そらあかんわ。みんな怒るやろ」
「しかし、直後の調査では支持率はなんと45%。ほとんど変化がありません」
「えーっ。それって、つまりあれかな。元首がみんなから尊敬されてるとか?」
「それがそうでもないようなのです」
「え、尊敬されてないんか」

「それはなんとも・・・元首は難しい漢字はしょっちゅう読み間違うことで有名ですし、国会での答弁についてはしばしばネットで文体模写が出回ってます。元首のくせに国会ではヤジを飛ばすので有名」
「うーん・・・ひょっとしておもろいやつ?」
「でもないようでして・・・」
「イケメンとか」
「いえいえ」
「なんやろ。謎やな」
「しかも、しかもです。元首の代わりにいつも記者会見したりする役の人がいるんですがね」
「補佐官みたいなもんか」
「だと思うんですが、これもまたびっくりするくらい仕事が楽ちんそうなんです。何か聞かれても『承知していない』『問題ない』で終わり」
「ペッパー君でもできそうやん。そんなやり方ではみんな怒るやろ」
「それがもう何年も続いているんで、なんとかポンでは別にオッケーみたいですねえ」
「へー!」
「記者会見なんかめんどくさいのでやってこなかったんですが、それならわれ
われみたいにやる気がない人間でもできそうです」
「おお、できるできる。なんやそれ。もー、天国やないか」
「理想国家かもしれません」
「ええ話持ってきてくれてありがと。続きはまた。今日はもうやる気使い果たしたから」
「私もでございます」

「おーい補佐官。あの話、その後どうなった。ほら、遠い遠い東の国の、なんとかポン」
「ああ。なんとかポンでは最近『サカナを見る会』というのが問題になっているようです」
「へー、サカナを見る会。みんなで海遊館に行って、『あ、あの魚、うまそう
やな』『あー、三枚におろしたい。腕が鳴る』とかいう会か」
「違うと思いますが、そうかもしれません。写真を見ると公園のようなところにみんな集まっているみたいなのですが、この元首の滑舌が悪くて実のところなにを見る会なのかよくわからないのです。とにかく、税金を勝手に使って派手に飲み食いしたのだと思います」
「やるもんやなあ。わしもよんでほしかった」
「しかし、当然問題になっておりまして、国会で追及されてます。元首はサーバが問題だと」
「サカナだけに」
「『シンゴジラ』も関係あるみたいなんですが」
「『シンクライアント』やろ」
「なんで知ってるんですか」

「いや、それはあかんで、サカナを見る会。さすがに支持率はガクッと落ちたやろ」
「それがそうでもないのです。少し落ちましたが、それでも42%くらいだそうです」
「えーっ。いったいどないなってんねん」

「何年か前には自分の親しい人に、何かを作るための何かを特別に安く払い下げたことが発覚して何か大問題になったのですが、別に支持率は下がらなかったようです。都合が悪くなると証拠になりそうな書類は捨ててしまう。それどころか改ざんもあり。なのに支持率はほとんど下がらない」
「なんでやねん」
「不思議でしょ」
「不思議すぎる。秘密を知りたいもんや」

「それで、ありったけのやる気をかき集めて、隣の国の図書館にこっそり行って調べてきました」
「なんで隣の国の図書館に行くねん。といっても600mくらいしか離れてないけど。こっそりて何やねん」
「わが国の図書館より充実してるから仕方ないじゃないですか。そしたら、どうも『ソンタク』というものがカギを握ってるようです」
「ソンタク。なんやそれ」
「何か知りません。それがあると、元首は特に何もしなくとも周りの人間が勝手に動いてくれるんだそうです。リモコンみたいなものでしょうか。どこで売ってるんでしょうか。続きはまた。今日はやる気を出しすぎました」

「おーい補佐官」
「はい、お呼びでしょうか。うわっ」
「ふふふ。びっくりしたやろ。君が国境近くのスタバとか隣の国の図書館に行ったりして苦労してるみたいやから、インターネット導入したんや」
「おお、素晴らしい! 最新型のパソコンも!」
「こんなものが部屋にあると、自分がやる気のある人間のような錯覚をしてしまいそうやで。うふふふふ」
「それはいけません。わが国の根幹が揺らいでしまいます。やる気はほどほどにしなければ」
「早速WEBのニュースを見てみよう。おお、これ、ひょっとしたら例の、なんとかポンとかいう国の話ちゃうか?!」

画面ではニュース番組が流れていた。

「えー、わが国の内閣支持率の高さは海外でもよく知られています。度重なる不祥事、疑惑、にも関わらず支持率は高い。最近では各国首脳もひそかにその秘密を探ろうと、隠密に調査団を送り込んでいるらしいなどと噂にもなっておりましたが、なんと、このほど、高い支持率の『理由』が判明しました!」

画面には大きな文字がどーん、と出た。

  国民は「支持する」の意味がわかってなかった

「えー、改めて『あなたは支持するとはどういう意味だと思いますか。次の中から選んでください。1.知っている 2.政策や主義に賛同して後押しをする 3.好きだ 4.わからない』と聞いたところ、1を選んだ人が60%、2を選んだ人が7%、3を選んだ人が1%、4を選んだ人が32%となりました」

画面は街頭インタビューにかわった。
「えーっ、支持するってどういう意味だって聞かれても~」
「なんとなく知ってる、って意味じゃないんですか?」
「意味? うーん、考えたことないんでー」
「テレビでよく見るんで、顔をはよく覚えてるっていうかー」

「え、そうやったんや」
大統領は気の抜けた声で言った。
補佐官も拍子抜けの体でよろよろと椅子から立ち上がった。
「コーヒーでも入れよか」
「そうですね」
「今日はもう十分仕事したな」
「そうですね」


【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
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10月半ばに風邪をひいて以来、あちこちが複合的にしんどくて困ったなあと思ってたが、やっとこさ近くの内科医院に行って診てもらい、薬を出してもらったら急速に「しんどさ」の整理ができていくような感じがあった(ずっと市販薬いろいろ飲んで、しのいでた)。

結果的に残ったのが「腰痛」。痛くて熟睡できない日もあって、仕方なくこれは近くの整形外科へ。レントゲンを撮り、以前から湾曲していた背骨がさらにひどくなっていることを知り、軽くショック。ほっとくと脊柱管狭窄症になる可能性もあるとか。

「夕べも痛くて寝られず、バファリン飲んだらやっと寝られました」と言うと「あ、その程度?」と言われる。「もっとひどなったら注射も点滴もあるで~」と、妙に明るい、若いドクター。

そういうもんじゃないだろ、と言いたいところだが、確かに腰痛と闘っている人はいっぱいいて、私なんかはまだまだなんだろう。いや、ずっと「まだまだ」でいたいんですけど。ストレッチの仕方など教わったので、毎日やってます。