ショート・ストーリーのKUNI[119]夢はかなう
── ヤマシタクニコ ──

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幼稚園の「みかん組」のみんなが35年ぶりに集まった。あのやさしかった大林先生もやってきた。

「先生、おひさしぶりです!」
「お元気そうでなによりです!」
「みんな、りっぱになったわね。でも、正直、だれがだれだかわからないわ」

「先生、私です、ほら、おかだゆかり。あらいやだ。先生を前にするとつい幼稚園のころにもどって、ひらがなになっちゃった」
「ああ、ゆかりちゃん。いま、どうしてるの」
「おかあさんになりました」

「ああ、あなたは、私がみんなに将来の夢を聞いたとき『おおきくなったらおかあさんになりたいです!』とこたえたのよね。夢の通りになったのね」
「先生、覚えてるんですか!」

「ええ、もちろんよ。あなたたちは私が先生になって初めてのクラスだったんだもの。みんなほんとにかわいかったわ」
「先生、やまもとしゅうじです! ぼくも夢の通りになりました。おとうさんです!」

「あらきひろみです。わたしはようちえんの先生になりました!」
「みんな夢がかなったのね。よかったわね」




「せんせい、おれだよ、すずきこうへい!」
「まー、すずきくん。あなたは何になったの」
「おぼえてないのかい!『さかなやさんになりたいです!』と言ったから魚屋だよ」
「そうなんだ」

「そうなんだじゃないだろ! 魚屋なんかいまどき流行んないんだよ。みんなスーパーに行くから商店街はシャッター通りで、おれとこも倒産寸前だ!」
「そう言われても......」

先生が困っていると横から小太りの男が出てきて言った。

「さかなやさんになりたいと言ったおまえが悪いんだよ」
「そういうおまえは、なかむらてつお!」
「おれは『大きくなったらおかねもちになりたいです!』と言った。だから今はお金持ちだ。自分でもなんで金持ちなのかわからないけど、ある日気がつくと大きくなってお金持ちになってた」

なかむらてつおは見るからに金持ちらしく、上等のスーツに身を包み、ぴかぴかの腕時計をしていた。ポケットから1万円札を取り出して鼻をかんで捨てた。

「ああ、なんということを!」
「いいんだよ、おかねもちなんだから」
「ちきしょー、ばかにしやがって」

先生はうろたえた。

「よ、よくわからないけど、みんなあのときの夢の通りになってるわけ?」
「そうだよ。おれも、大きくなって......気づいたら魚屋になってたんだ」
すずきこうへいが不機嫌な声で言った。

「そ、そうなんだ。でも、こうへいくんはさかなやさんになりたかったんじゃないの? なりたくなかったの?」
「いや、まあそのときはなりたかったんだろうな。だから、まあいいけど」

「そうよ、すずきくん。みんな夢がかなったんだからよろこぶべきなのよ! ね、先生!」おかだゆかりが言った。
「ほんとにそうだわ。先生もうれしいわ」

するとすぐ後ろから声がした。
「せんせい、ぼくです、こやましゅうへい!」
「こやまくん......え、なんで!」

先生が振り返るとそこには黄、黒、青、赤、桃色のコスチュームに身を包んだ5人が。

「ゆめがかなってゴレンジャーになりました!」ゴレンジャーは声をそろえて言った。
「ひとりでゴレンジャーになったの?!」
「はい!」いちいち5人が声をそろえる。
「ああ、私、あたまがおかしくなりそうだわ」

「先生、なに言ってるんですか、みんな夢をかなえたんだから」
「祝福してくれよっ!」
「先生が言わせたんだよ、しょうらいの夢!」
「そ、そうね、よかった、ほんとに、よかったわよね」

「そういえばあの子どうなったっけ? えっと、じゅんくん。ふじさわじゅんくん」あらきひろみが言った。
「ああ、あいつはバナナになった。あのころバナナが大好きで、大きくなったらばななになりますと言ったんだ」

「バナナ?!」
「でも、バナナになって喜んでたら、やっぱり夢がかなってお猿さんになったやまだだいすけがやってきて食べてしまったらしい」
「えーっ! そんな......!」

「先生、びっくりしなくてもいいじゃないか」
「バナナってそういうもんだろ」
「じゅんくんはバナナとしての生涯をまっとうしたのよね!」
「そうね、そうよね......」

そのとき、なかむらてつおの金ぴかのスマートフォンがびらびらっ!と鳴った。

「メールだ......何だって! はらだまゆみが!」
「まゆみちゃんがどうしたんだ!」

「まゆみちゃんは、アイスクリームが大好きで『大きくなったらあいすくりーむになります』と言った。そしてアイスクリームになった。それでずっと冷凍庫に引きこもっていたらしいけど、今日先生に会うために意を決して外に出て......途中でとけてしまったそうだ」

「ええっ、まゆみちゃん! あのかわいかった子が......ひいいっ」
「先生、泣くなよ」
「それが夢だったんだから仕方ないってば」

「わ、なんだか外が騒々しいと思ったら、『ぞうさん』になったもとむらみのるが、動物園から脱走してこちらに向かってるらしい」

遠くでどすんどすんという地響き、それに人々の悲鳴も聞こえてきた。パトカーのサイレン音が鳴り響く。とまれ! とまらないと撃つぞ! という声も聞こえる。

悪夢だわ、悪夢だわと大林先生は泣きながら思った。

「そうだ、思い出したわ、あのとき『まほうつかいになります』と言った子がいたわね......なるみりょうくん!」
「ああ」
「たしかにいたけど」
「それがどうかしたんですか、先生」

「もしかして、もしかして、まほうつかいになったりょうくんなら、この悪夢のような状態をどうにかしてくれるかもと思って、いえ、ひょっとしたらこれって、りょうくんの仕掛けたまほうの世界だったりして?! ......あ、ちがうわ、それだと矛盾が。りょうくんの夢だけが実現しているなんておかしい......ああ、なんだかわからなくなってきたわ、私」

「先生、何をつまらないことをぶつぶつ言ってるんですか。大人げない。りょうくんは中学生のときに交通事故で死にましたよ」
「え、そうなの」

先生は気を失って倒れた。

「りょうくんは......クラスでただひとり、『大きく』なれなかったんです!」
「ぼくたちみんな、りょうくんの分までがんばらないといけないんです」
「そうよ、そうよ!」

おかあさん、おとうさん、おかねもち、幼稚園の先生、ゴレンジャーにさかなやさん、みんな声をそろえた。

「ぼくたち、大きくなって夢のとおりになったんだから!」

先生は意識を取り戻し、涙をぬぐいながら言った。

「そうね、そのとおりね......」

やがて、ばりばりばりとドアを壊しながら象さんになったもとむらみのるが会場に入ってきた。歓声があがった。そして感動の同窓会が始まった。

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だれも覚えてないと思いますが、以前にも一回、同窓会ネタを書きました。ま、たまたまです、たまたま。それより、ブラッドベリが死んだので、「火星年代記」を読んでひとり追悼したりしました(第一話だけで寝てしまいましたが......)。「刺青の男」の原題が「The Illustrated Man」だったとは。