ショート・ストーリーのKUNI[150]準備中
── ヤマシタクニコ ──

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毎日寒い日が続いておりますが、こんなときはだれかを誘うて熱燗のいっぱいでもひっかけ、暖まってから帰ろうという気にもなるものでございます。ある日ある会社の課長さんも、そういうわけで帰り際にまだ残っていた若いもんに声をかけ、飲み屋へとまいりました。

「ふー。残業で疲れた体に熱燗はようきくわ〜」

「ほんまですねえ課長」

「まあ飲め飲め。おごったるさかい何でも頼め。するめのてんぷらでも大根サラダでもざくざくキャベツでも」

「ありがとうございます。ほな刺身盛り合わせとエビの天ぷら、生ガキを」

「耳が悪いんか。まあええけど。それより君も彼女とかいてへんのか。若いいうてももう30すぎてるやろ。結婚もそろそろ考えたほうがええんちゃうか」

「よく聞いてくださいました。というか聞いてほしくなかったんですが」

「どっちやねん」


「実は一年前にふられました。プロポーズしたんですが断られまして」

「ああそうか。それは悪いことを聞いた。ふふふふ」

「おもしろがってるやないですか。そのときにいろいろ考えまして。今後は生まれ変わったら結婚しようと思ってます」

「なんやそら大げさやな。別に生まれ変わらんでも結婚したらええやないか」

「いや、どうも間に合いそうもなくて」

「何がやねん」

「彼女に『ぼくのどこが気に入らんのん』と聞くと『私、筋肉質の人が好きやねん』と言われました」

「確かに君は筋肉質とちゃうな。どっちかというとぜい肉質」

「あと『やっぱり教養のある人がええし』とか『ユーモアもないと』と言われました。どっちもぼくにはありません。それでそれ以後、毎日筋トレをしながら読書しつつYouTubeで吉本新喜劇と笑点とM1をみているんですけど、なかなかハードで、正直疲れました。これだけで毎日が終わってしまいます」

「たいへんやな」

「だいたいぼく、のんびりしてるほうでして。ひとよりさっさと何かできた試しがありません。筋肉質で教養があってユーモアのある男性に死ぬまでになれそうもありません」

「はあ」

「それであきらめました。そもそも人生は短すぎます。一度の人生でそんなにいろいろできるわけないじゃないですか」

「まあな」

「なので今回はとりあえず準備をしておいて、続きは生まれ変わった次の人生でやろうと思います。二部制やったら十分時間がありそうです」

「けったいなこと考えるやつやな。ごちゃごちゃいわんと結婚したかったらしたらええがな」

「いやー、そもそも結婚には安定した収入が必要ですし、そのためにはもっとしっかりした会社に就職しないといけないし、その点も準備が」

「悪かったな。しっかりしてない会社に20年も勤めてて」

「課長、卑下しないでください。部長は25年です」

「どんな慰め方やねん。ほんまにきょうびのやつは…まあ飲め」

「はい。ほんとはぼく、お酒は飲めないんですが、生まれ変わったら『お酒の強い人』キャラでいきたいんで、今からがんばって練習しておきます。うー…あー、胸がかっとします。これがお酒なんですね。ああ、これはきつい…でもがんばります。もう一杯…あ、課長、何食べてはるんですか。なまこですか。ぼく、見た目がグロいもんはあかんのでそれも苦手なんですが、生まれ変わったらなまこくらい食べられる人になりたいんです。グルメキャラでいくつもりなんで。ちょっといただいていいですか。うわ〜〜、ここ、これがあの不気味な生き物を切り刻んだものなんですね。どんな味なんでしょうね。うわ、うわ、うわ〜〜〜〜」

「うわうわ言いながら全部食うてしまいよった。おまえ、ひょっとしてさっき言うたこと全部うそとちゃうやろな。あ、おれの酒まで飲んでしもた。どこが『お酒は飲めないんです』や」

「練習ですってば。う〜〜〜…次はうにをばくばく食べる練習したいんですけど、注文していいですか。お酒もどうせやったら大吟醸の方が練習にいいと思うんですけど」

「おまえな」

「げー。気分悪くなってきました。ちょっとトイレ行ってきます………戻りました。あーしんどかった。いやあ、こういう練習はふだんあんまりできないんですが今日は課長がおごってくれるというので思い切り練習ができて、ぼく、うれしいです」

「しばくぞ」

「なんだか楽しくなってきました。ねえ課長、どう思います。こんなふうに常に生まれ変わったときのことを考えて準備してるて。ぼく、自分がこんなに前向きな人間とは思いませんでした。わはははは」

「前向きか後ろ向きか判断がむずかしいとこやけどな」

「バク転もできたら生まれ変わったときにもてるかもしれないと思って、いま一生懸命練習してるんですよ〜。あ、それから、生まれ変わったらスカイツリーに登りたいなあ」

「いま登れよ。それより生まれ変わられへんかったらどうすんねん」

「それは心配ありません。夢は強く願えばかなうというじゃないですか。ぼく、思い切り強く願ってますから。う〜〜。ああ、飲み過ぎた。げー。げー。げげげげ〜〜おえ〜〜〜」

「おまえ、二度と誘わんからな!」


それから数か月後のある日。

「あーあ。あんなあほなこと言うてたけど、まさかあいつが翌日に交通事故で死ぬとはなあ。人間の命てほんまわからんもんやなあ…ん?」

見ると一匹の子犬が近寄ってきて、なれなれしくまとわりついてきます。

「なんやえらい人なつっこい犬やな…ついてきよる…しかし、あいつ、生まれ変わったら、生まれ変わったら、て言うてたけど、ほんまに生まれ変わったんやろか」

すると犬がしっぽをちぎれるばかりに振ってアピールします。課長さんに無視されると、なんとバク転してみせるではありませんか。

「バク転? おまえ、まさか?!」

犬、もう、むちゃくちゃしっぽ振る、うなずく、課長さんのまわりをぐるぐる回る。大喜びです。

「そうかー。おまえが…いや、生まれ変わったんはええけど、なんで犬やねん…え? そこがうっかりしてた? そやろなあ。まじめなようで抜けてたからなあ…まあええがな。犬の世界でもてて、いけてるメス犬と結婚したらええねんから…え? この腕みてみい、て? おお、確かに筋肉質や。というか、犬としてはふつうと思うけど…え? 酒はないのか? なまこは?って? おまえには二度とおごらんて言うたやろ!」

犬はどてっとずっこけてみせました。ずっこけたりバク転できる犬はそうそうないと思われますので、ひょっとしたらボリショイサーカスにでも就職できるかもしれません。

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Magic Mouseを使ってたら電池切れだと言われた(Macに)。それで開けてみたら単三電池が2本入ってた。単三。たんさん。こういうとき、つい「たんさん、こんばんわ〜」と言いたくなるのって私だけですか。