映画ザビエル[19]トトロのいない夏
── カンクロー ──

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◎冬冬の夏休み

原題(英題):冬冬的假期/A Summer at Grandpa's
制作年度:1984年
制作国・地域:台湾
上映時間:98分
監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
出演:王啓光、李淑○(木偏に貞)、古軍

●だいたいこんな話(作品概要)

台湾の都心部、台北で暮らす少年、冬冬(トントン)は小学校を卒業した夏休みに、妹の□□(女偏に亭)(ティンティン)と共に田舎の祖父母の家で過ごすことになった。母が入院し、父はその看病で手が離せないからだ。

田舎から迎えにきてくれた親戚のお兄さんは、途中下車する恋人を見送るうちに電車に乗り遅れてしまい、冬冬たちとはぐれてしまう。冬冬と□□の、ささやかな冒険が始まる。

時代設定は、東京ディズニーランドが開園したばかりの頃。




●わたくし的見解

「冬冬の夏休み」の特筆すべき点のひとつには、子どもの描き方があざとくないことが、何しろとにかく挙げられる。

子どもは子どもであるだけで十分に可愛い存在なので、過度な演出は大人のあざとさが透けて見えて、というか最早すけてさえおらずガッツリ丸見えで食傷ぎみになりませんか? 私はなります。

「冬冬」の子どもらは、「ロッタちゃん」シリーズに代表されるような北欧の
子供映画などと印象が近く、ニコっとキラースマイルを見せたり、(人間三回目と噂される)芦田愛菜さんのような、天下無敵のくしゃくしゃな泣き顔など見せない。

「冬冬」や「ロッタちゃん」らは、口を真一文字に結び一点を睨めつけ、思うところはあるが今言うつもりは毛頭ない! と言わんばかりの不服顔を見せてくれるので、笑ったらもっと不機嫌になるんだろうなと思いつつ、つい笑ってしまうのだ。

冬冬はお兄さんだし、夏休みが終われば中学生になるような年齢でもあるので、演出云々そっちのけでも、子供らしい言動などはそもそも似つかわしくない。

そのぶん美人な妹、□□ちゃんに子供らしさを期待しがちだが、この子が前述したような一点睨めつけ系のハードボイルドィ少女で、飾りじゃないのよ涙は、と言っていたかは定かではないが、基本的にあまり泣かない。

子どもって案外そういうもの、と妙に納得できる。お母さんは入院している。手術するけど死んじゃうかも知れない。冬冬は、その事実を理解している。

□□ちゃんはお兄ちゃんほどではなくとも、お母さんがいなくなってしうまうかも知れない不穏な状況は十分わかっている。

不安で泣いてしまうのではと大人は勝手に想像しがちだが、子どもは思った以上に気丈に振る舞い、それがかえっていじらしく愛おしく感じられる。ホウ・シャオシェンの、ニクい演出だ。

でも到底、演出をつけているようには思えない。子ども達に限らず作品まるごと自然体で、私世代にとっては他の国の出来事と思えないほど、自分の知っている田舎で過ごす夏休みがそこにある。

おそらく、子供時代に見ても何が面白いのか分からない映画だろう。これは、大人のための夏休み。世に言う、一服の清涼剤のような作品。


【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/


映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。