映画ザビエル[104]仕える者としての矜恃
── カンクロー ──

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◎作品タイトル
ダウントン・アビー

◎作品情報
原題:Downton Abbey
公開年度:2019年
制作国・地域:イギリス、アメリカ
上映時間:122分
監督:マイケル・エングラー
出演:ミシェル・ドッカリー、アレン・リーチ、ヒュー ・ボネヴィル、ジム・カーター、マギー・スミス

◎だいたいこんな話(作品概要)

2010年から2015年に放送された人気TVシリーズの映画化作品。イギリス郊外で暮らす貴族とその使用人たちの暮らしを、彼らが架空のキャラクターでありながらも、時代背景や階級社会の実態を織り交ぜることで、大河ドラマ的に見せていく。本作は、TVドラマ最終シーズン最終話の、後日譚として繰り広げられる。

1927年、イギリス国王ジョージ5世とメアリー王妃夫妻がヨークシャーにある、グランサム伯爵(クローリー家)の邸宅ダウントン・アビーを訪問するという手紙が、伯爵夫妻の元に届く。国王と王妃の滞在予定は一泊だが、その中ではパレードが行われ、翌日別の場所で開催される舞踏会へも出席しなければならない。

グランサム伯爵の長女レディ・メアリーが、実質的にはクローリー家の当主としてダウントン・アビーや近隣の所有地の管理をしていたが、邸宅の屋根の修理などで頭を悩ませていたところに、国王夫妻を迎える準備にかかる予定外の出費は大きな負担だった。

また、相続がらみで揉めているグランサム伯爵の血縁、レディ・モード・バグショーも王妃の侍女として同行することが分かり、穏やかではない。さらにダウントン・アビーの使用人たちも、国王夫妻よりも前乗りして邸宅で準備を進める王室付きの使用人たちに仕事を奪われて、階下は一触即発の状態だった。





◎わたくし的見解/やさしい『ゴスフォード・パーク』

大河ドラマを引き合いに出したとおり、いかんせん登場人物が多いため、いきなり本作だけを楽しむということは難しそうだ。その代わりTVシリーズの愛好者としては、ダウントン・アビーに住まう貴族クローリー家の人々や、階下でせっせと働いている一族の人数以上の使用人たち、それぞれの背景などを思い出しながら楽しめた。

連続ドラマならいざ知らず、これだけの登場人物の群像劇をよくぞ2時間でまとめられたものだと感心する。群像劇の巨匠と言われる何人かの映画監督でさえ、120分台でまとめられているものを観たことはない。

ドラマのファンが観客だろうと想定してこそ成し遂げられることかも知れないが、大きな屋敷とは言え、室内で多くのキャストをかいくぐりながら、滑らかに動いていくカメラワークなどは大したものだ。とくに使用人たちがせわしなく交差していく様子などは、アクション性はなくとも不思議な迫力がある。

ストーリーも、国王夫妻を迎える主人公たち(クローリー家)だけでなく、来訪する国王夫妻の娘、王女メアリーの夫婦関係の問題やら、アイルランド独立戦争の余波でパレードを利用して国王を狙うものやら、クローリー家の娘婿のルーツがアイルランドであることから、そのテロリストに利用されそうになったり、クローリー家のレディ・メアリーがドラマの最終シーズンから引き続き領地を含むダウントン・アビーの存続に自信をなくしたりと、それこそ盛り沢山だった。

連続ドラマの頃も、登場人物の抱えるそういった問題は次々と起きていて、数年のシリーズの中では第一次大戦をはさんだこともあり、主要な人物が亡くなってしまったり、生死の問題にいたらなくても取り返しのつかない状況に陥ったりしたものだから、いつも緊張感を持って行く末を見守っていた。

ところが、本作では初めから八方丸く収まる予感があって、ものすごく安心して鑑賞できたし、実際にものの見事にすべての問題が解決して大団円を迎えた。シリーズが一度は完結したこともあって、私の中ではその後の物語は残像に過ぎないというか、例えば自分にとってはまったく怖くない優しかったおばあちゃんの幽霊が、あの世で楽しくやっている様子を見ているようなものだった。そういう意味では、ファンサービスのお手本のような映画化作品なのかも知れない。

ふと、前回もファンサービス的な作品を紹介してしまったことを思い出して、色々自分なりに考えてみた。年の瀬も見えてきて、いくらか疲れているというのもある。でも、どうやら一番はやはりコロナウイルスの影響だろう。年末の疲れと言うよりも、長期化してきたコロナウイルスとの闘いが、幸運にも大した困難に見舞われずに済んではいても「八方丸く収まる」ことへの欲求を強くしている。

個人的には、これまで映画には癒しを求めずにきた人生だけれど、上半期には、緊急事態宣言に入る直前に『ミッドサマー』という、えげつない大作もちゃんと鑑賞したし、こんな(映画に穏やかさを求める)年があっても良いってことにしようと思った。ところで、『ミッドサマー』は万人にはお勧めできませんが、『テネット』を見逃した方は、ぜひ年末年始などにご鑑賞ください。楽しいですよ。


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