映画ザビエル[103]内祝いは、半返しだっ!!
── カンクロー ──

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◎作品タイトル
七つの会議

◎作品情報
公開年度:2019年
制作国・地域:日本
上映時間:119分
監督:福澤克雄
出演:野村萬斎、香川照之、及川光博、片岡愛之助、朝倉あき

◎だいたいこんな話(作品概要)

大手電機メーカーの子会社、東京建電に勤める八角民夫は、社内で花形の営業一課に所属しているが、万年係長で「居眠り八角」と呼ばれるぐうたら社員。繁忙期であっても構わず有給休暇の申請を出す八角に、年下の上司である営業一課長の坂戸は手を焼いていた。

ところがある時、坂戸はささいなことで八角からパワハラだと訴えられた。営業成績が優秀な坂戸とは違って穀潰しにしか見えない八角の主張など、形ばかりの処理で済まされると誰もが思っていた矢先、坂戸に出世コースを大きく外れる異動処分が下される。

空いた営業一課長の席に収まったのは、一課とは反対にノルマを全く達成できずにいた、営業二課の原島だった。その後も八角が部品の発注先を変えたことで、それまでにない高額なコストが発生していると抗議した経理部が、会社の上層部から厳しい叱責を受けた。

八角を取り巻く会社の動きを不審に感じた原島は、八角がかつては優秀な社員であったことを突き止めるのだが。





◎わたくし的見解/やっぱりネジが好き

企業の不祥事を暴くミステリー要素ならば、2013年に放映されたNHKのドラマ版の方が楽しめたのかも知れない。けれども、7年ぶりの新シリーズが大反響を得たTBSの日曜劇場『半沢直樹』ロスを抱えた(実際には、さほどのロス感はないのだけれど)私にとっては、こちらの劇場版がちょうど気分に合っていて楽しかった。

何しろ、『半沢直樹』を始めとする『下町ロケット』『陸王』などの池井戸潤原作による日曜劇場のヒット作品と、監督からキャスティングまでほぼほぼ一緒で、これはもうファンサービス以外の何物でもない。

さすがに堺雅人や阿部寛、大泉洋などの主役は作品のイメージが強すぎるので登場しないが、とは言え大衆演劇や歌舞伎のように、馴染みの役者が出てきて「わぁー!」と歓喜の拍手をしてもらうためのオールスターキャストである。

こんな端役まで、と思うほど日曜劇場で見た人ばかりで出てきて笑っちゃうくらいだが、『半沢直樹』の演出によく表れているように、古き良き娯楽作品の形をあえて踏襲しているのだろうと感じた。銀幕のスタアたちが演じる勧善懲悪の物語。言いたいことも言えない世の中にポイズンな日々の中、無意識下で抱えていたスッキリしたいという欲求を叶えてくれる、往年の時代劇のようなドラマ。

本作のエンドロールでも主人公が一人語りしているが、勤めている会社に多くを捧げて働く人々の姿は、たしかに藩に尽くして生涯を終えていた侍と重なる部分が大きい。どうりで現代劇では異質にさえ見える、誇張された大袈裟な演出がハマる訳である。大見得を切る歌舞伎役者たち。なかでも、香川照之の顔芸のオンパレードに喝采を送らずにはいられない。「よっ、カマキリ先生!!」

ところで、ストーリーも『半沢直樹』の第二部(『銀翼のイカロス』ベースにした部分)とかなり近いもので、まるで再放送を見ているかのようだった。『七つの会議』は2019年に公開されているので、劇場観賞した人にとってはドラマを目にした時に既視感を覚えたに違いない。

本作の主人公、八角が会社の不祥事をリークすると決めたとき、元妻を演じる吉田羊が「仕事なんていいじゃない。生きてさえいれば」と激励するシーンがある。まったく同じことを上戸彩にも言わせていたなぁ、としみじみした。

これは決して嫌味で取り上げているのではなく、原作の池井戸潤やドラマ・映画の製作陣の根底にある価値観なのだと感じた。弥勒菩薩のように懐の深い妻たち(女性像)は、所詮おじさんたちの理想や幻想に過ぎないと一蹴することはたやすい。しかし女性だからと限定せずに、このような度量の大きさを私も持ち合わせたいと思う。梵天丸もかくありたいし、サウイフモノニワタシハナリタイ。

さて、子供の頃いくつか好きな時代劇があった。どちらかと言えば、シリアスでシビアな展開を見せるものが好みで、いつも型通りに終わっていく『水戸黄門』は退屈でつまらないと思っていた。スケジュールとして決まっているかのように、毎回取り出される印籠。ひかえ、控えおろう、と言われて突然に誰も逆らわなくなり一件落着する流れ。

ところが本作では、そんな予定調和も心地よい時があるのだなと思い知らされた。決まりきった展開を楽しめることは、さらなる大人の階段を上っていることなのかも知れない。


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