映画ザビエル[101]またもや、ドリフ
── カンクロー ──

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◎作品タイトル
テネット

◎作品情報
原題:TENET
公開年度:2020年
制作国・地域:アメリカ
上映時間:150分
監督:クリストファー・ノーラン
出演:ジョン・デイビッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ケネス・ブラナー

◎だいたいこんな話(作品概要)

ウクライナのオペラハウスで、無差別テロが発生した。事件解決のために投入された特殊部隊に、一人のCIA工作員が紛れていた。彼の任務は、オペラハウス内にいる「プルトニウム241」を奪取したスパイを救出すること。

CIA工作員の名も無き男は、確保したケース内のプルトニウムが謎の物体であることに気付きながら、それでもスパイの救出には成功したはずだった。だが、脱出の際にロシア人たちに捕らえられ、情報を引き出すための拷問にかけられる。

男は自決用の毒薬を飲む寸前に阻止されてしまったが、同じく拷問を受けていた仲間の薬を手に入れ、何とか服用に成功する。しかし毒薬は他の薬とすり替えられており、男が目を覚ますとフェイという人物から、これまでの出来事はあるミッションに対する適性を試すものだったと明かされる。

名も無き男に課せられた新たなミッションとは、未来で開発された「時間の逆行」を可能にする技術によって起きる、第三次大戦よりも恐ろしい世界の消滅を防ぐことだった。





◎わたくし的見解/カラクリは案外シンプル

スパイ映画だと聞いていたのに、未来で開発された技術を駆使する、未来から来た敵と闘うという、ややこしい内容になっていました。(クリストファー・ノーラン監督はスパイ映画だと言いはっているようですが)。

ところで、人類はおろか地球全体を消滅に導くかも知れない未来の技術とは、「時間の逆行」を可能にするもの。このツールの面白さは、従来のタイムトラベルものよりも仕組みが妙に泥臭い点です。その野暮ったさに、かえってリアリティーが生まれているかも知れません。

時間の逆行を可能にする装置を使うと、確かに過去に遡れるのですが、3日前に戻るには3日かかる、つまり10年前に行きたければ10年の月日を要する訳です。

劇中では、未来の技術を秘密裏に研究している人物から、主人公に対して時間の逆行についてのチュートリアルが実施されます。エントロピーがどうのこうのと小難しいことを説明してみたり、量子力学では逆行も起きるとか何とか、それらしいウンチクを並べておいて、白衣を着た研究者の女性は結局「考えないで、感じて」と、ブルース・リーみたいなことを主人公に伝授します。

これは同時に観客たる私たちに対して、この映画で何を楽しめば良いのかという解説でもあります。量子の世界では起こりうるって言ったって、そんなもん人間のサイズでは到底無理なんだけれども、映像なら逆再生で表現出来ますやん。せやから、やってみましてん。逆再生の映像って面白いじゃないですかぁ。ということなのだと思います。

YouTubeで「歌ってみた」とか「踊ってみた」とか沢山ありますが、予算もセンスもアイデアも実現力も全然違うとは言え、クリストファー・ノーランによる面白いと思ったから「やってみた」映像は、やはり桁違いの出来映えです。しかも、これまた泥臭いところが絶妙でした。

「インセプション」の時も、カメラを逆さまにして天地が逆転するという古典的なカラクリを用いていたのですが、今回の逆再生も往年のドリフターズのコントを彷彿させます。

さらに単純な逆再生だけでなく、逆再生したような動きを演者にしてもらった映像を、さらに逆再生して順行しているように(つまり普通に動いているように)見せるなどで生まれる、独特のぎこちなさには何とも愛嬌がありました。

今どきのCG技術を用いれば、そんな面倒なことをする必要はないはずなのに、あえてアナログな手法で生まれる揺らぎであったり、ノイズのようなものがあることで、綺麗に整った映像よりも不思議と印象的なものになっていました。

何だか、さっぱり分からんなと感じながら、ぜひともオモシロ映像&スパイ映画的なド派手ロケーションで繰り広げられるアクションを楽しんで欲しいと思います。

また、いつも時間と空間など壮大なテーマに手を出して物語を展開するクリストファー・ノーラン作品ですが、映画「インターステラー」の中での「愛は証明できないけど、観測できるわ」という台詞のように、本作でも最終的にヒューマニズムに落とし込むという必殺技は健在です。間違いなく本年度イチオシの娯楽大作です。


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