映画ザビエル[21]ゆるふわ残酷おとぎ話
── カンクロー ──

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◎リップヴァンウィンクルの花嫁

原題:リップヴァンウィンクルの花嫁
公開年度:2016年
制作国・地域:日本
上映時間:180分
監督:岩井俊二
出演:黒木華、綾野剛、Cocco

●だいたいこんな話(作品概要)

派遣で非常勤の高校教師をしている七海は、インターネットで知り合った男性とトントン拍子で結婚するに至った。

結婚式の準備のなかで、新郎側に対して新婦側の参列者が足りなかったため、これもインターネット上で交流のあった人物のコネで、ある便利屋を利用し参列者をカサ増した。

ところが、あっさり手に入れたいわゆる「幸せ」は至極あっさり崩壊する。夫だけでなく職も住む場所も失った七海は、何かと親身に面倒をみてくれる便利屋の紹介で、豪邸の住み込みメイドの仕事を始めるのだが。




●わたくし的見解

思わせぶりなタイトルで、掴みはオッケーと言ったところでしょうか。「リップヴァンウィンクル」て何? と、お思いになりませんか。ご存知「リップヴァンウィンクル」みたいに言われても何なのさ、それ。と、不勉強な私は思いまして調べたところによると、こうです。

リップ・ヴァン・ウィンクルは、アメリカではそれこそ「ご存知」的有名な短編小説。浦島太郎と酷似した内容で、森鴎外が翻訳した際「新世界の浦島」と邦題をつけたほど。

主人公にとっては短期間のおよばれを楽しんでいただけなのに、実際には長い年月が過ぎていたという物語で、慣用句として使われる時は「時代おくれの人」「眠ってばかりいる人」を指すのだそうです。

このあたりを知っていないと映画つまらないかしら、と考え調べてから鑑賞したものの、正直知らなくても全く問題ありません。知っていたことで、より奥行きのある鑑賞ができたということもありません。

今回の作品の良いところは、この物語は一体どーなってしまうのでしょー、という実にシンプルなモチベーションだけで乗り切れる点です。透明感のある映像と、美しいクラッシックの調べに乗せ、それらとは何気に対照的で悲惨なストーリー展開。

実に岩井俊二的な雰囲気先行ゆるふわ映画のようでいて、なかなかサスペンスしています。そのため3時間もある割に、シンプルなモチベーションを維持し続けられる不思議な作品です。

やはり、こちらも一見ゆるふわのようでいて実は芯のしっかりした女優、今ノリに乗っている黒木華(くろきはる)さんの力量によるところが大きいことは疑いのない事実でしょう。

また、他のキャストも期待どおりのハマり役。見事に胡散臭い綾野剛さんや、何故この人が? のCocco。シンガーソングライターであるCocco自身のイメージが最大限に、真白という登場人物にリンクしています。Cocco=真白の放つ危うさが、物語のサスペンス要素の屋台骨になっています。

上映時間3時間のうち、正直1時間は編集でカットしてもまったく問題ない雰囲気映像なのですが、カットしてしまうと岩井俊二の映画ではなくなるんだろうな、とも思ったり。持ち味と言うか、作家性と言うか。

カットして特典映像として、セルDVDに付けるという選択をしないあたりを、ある意味勝負しているとも受け取れるので、実は評価するべき部分なのかも。

切り捨てることも出来なくはない1時間分のゆるふわ映像は、雑貨店で売られているものと同じで、必需品ではないけれど、心を豊かにしてくれる美しいものたちである事だけは間違いありません。


【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/


映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。