映画ザビエル[31]懐古主義による総天然色の夢
── カンクロー ──

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◎ラ・ラ・ランド

原題:La La Land
制作年度:2016年
制作国・地域:アメリカ
上映時間:128分
監督:デイミアン・チャゼル
出演:エマ・ストーン、ライアン・ゴズリング

●だいたいこんな話(作品概要)

他者から見れば笑われるような夢を追い求める街、ロサンゼルス。ハリウッドのカフェでアルバイトしながら映画女優を目指すミア。今では時代遅れのジャズを、思う存分演奏できる店をいつか持ちたいと考えるセバスチャン。

LA名物の渋滞の中で出会った、夢を追いかける一組の男女の物語をミュージカル映画全盛期の華やかさをもって実現させた、本年度アカデミー賞最多ノミネート作品。監督賞、主演女優賞など最優秀賞を多数受賞。





●わたくし的見解

個人的にファーストインプレッションは、タイトルがダサいと思っていて、アカデミー賞最多ノミニーだろうが何だろうが、スルーしかねない作品でした。

しかし、これもまったく個人的に「エマ・ストーン」ウォッチャーを自負しているので、色々チェックしてみると、なんと「セッション」の監督作品で、しかもミュージカルだと知り結果、公開日を待ちに待つ形で気持ちの上では多少食い気味に鑑賞いたしました。

「セッション」も、ある意味のジャンル映画というか、音楽もの(かつ青春もの)ではあったのですが、いきなりミュージカルって「大丈夫? デイミアン・チャゼルぅ(監督)」と実は鑑賞前は少々心配しておりました。

ところが、完全無欠の見事なミュージカル映画で、めちゃくちゃ楽しかったです。しかも、ブロードウェイで成功したミュージカルの映画化ではなく、オリジナル作品という点も、楽しくて忘れていましたけど何気に凄いことだと思われます。

その凄さは、アカデミー賞で最多部門ノミニー(美術賞、撮影賞、作曲賞、歌曲賞などではウィナー)という形で反映されています。

そもそもデイミアン・チャゼル監督は大学卒業制作の初長編監督作品で、すでにミュージカルを手掛けており、その時予算や技術面などで実現できなかったアイディアをモリモリ盛り込んだのが、今回の「ラ・ラ・ランド」なのだそうです。

私ごときが「大丈夫ぅ?」などと心配するに及ばない実績と実力の持ち主だった訳で、いやはや失礼つかまつる。

歌や踊り、その画面構成などが素晴らしく、もちろん単純にその演出だけでも楽しめた作品ですが、そこにさらに往年の作品へのオマージュがたくさん散りばめられており、そのジャイアンツ愛に勝るほどの映画愛が、鑑賞時の気分の高揚に拍車をかけたことは言うまでもありません。

いや言ってますけどね。映画史に残ると思われる、本作品のオーバーチュアでの、テクニカラーを意識したあえてカラフルな女性の衣装。現在の規格よりも横幅の割合の大きいシネマスコープの採用も、オープニングを筆頭に様々な場面でその効果を遺憾なく発揮しています。

物語は大変にシンプルで、正直、作品の一曲目ですべて語られています。はじめは予告だけで全部わかってしまうほどの、単純な男女の出会いと別れ、だと捉えていました。

しかし、CMなどで告知されている通り、夢追い人の物語に他ならないのです。私のような「セッション」ファンをニヤリとさせる、Jazz is deadの現実に、主人公の一人セブが葛藤する匂いづけと同様、ラブストーリーはあくまで夢の実現のサイドストーリーに過ぎない。

けれど、この単純なラブストーリーを珠玉なものにしているのは、一度は交差した二人の人生が、夢が叶ったことで離ればなれになってしまう、ベッタベタな切なさ。そして何より、この恋愛なくして二人の夢は実現しなかったことに尽きます。

この作品に向けられる批判は、おそらく「意外性のないストーリー」についてが最たるものかと想像しています。ただ私は、この手の作品に複雑な物語は不要だと考えています。

ミュージカルは歌と踊りを見せる必要があるので、視覚、音響の情報量が多くなります。舞台よりも映像の情報量が増える映画ならば、なおのこと。単純なストーリーは、ミュージカル映画の飽和しがちな情報量とバランスをとることに長けていると思うのです。

あと、あまりにも楽しくて忘れていたことが、もうひとつ。

そもそもミュージカルを受け入れられない人には、ストーリーの重厚さに関わりなく、まったく何っにも面白くない映画だと思うので、私や世間がどれだけ煽ってもスルーして下さい。

ただし、ミュージカル好きの自覚がある場合には(最終的な評価の保証は出来ませんが)オープニング10分だけで、映画一本分の価値がありますので必ずや鑑賞をおすすめします。


【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/


映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。