映画ザビエル[45]せやかて、工藤
── カンクロー ──

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◎犬神家の一族(1976年)

公開年度:1976年
制作国・地域:日本
上映時間:146分
監督:市川崑
出演:石坂浩二、島田陽子、高峰三枝子、あおい輝彦

●だいたいこんな話(作品概要)

原作は、横溝正史による推理小説「金田一耕助シリーズ」のひとつ。「八つ墓村」に次いで、映像化の多い作品。市川崑監督&石坂浩二主演による金田一シリーズの第一作でもあり、2006年に監督・主演を同じくしてリメイクもされている。

裸一貫から莫大な財をなした犬神佐兵衛が、終戦後しばらくして亡くなる。一度も正式な妻をめとらなかった佐兵衛には、母親の違う三人の娘がおり、それぞれが男児をもうけていた。

彼の遺言を巡り、不穏な気配を感じた担当弁護士の一人が探偵・金田一耕助を呼び寄せる。金田一が到着するとすぐ、犬神家にゆかりのある珠代が湖で溺れかける。乗っていたボートには穴が開けられていた。

その騒動の間に、金田一の依頼人である弁護士も殺害されてしまう。この殺人はすべての皮切りに過ぎなかった。





●わたくし的見解

名探偵とは、一体いかなるものなのか。

探偵とつくものに(ポアロやミス・マープル、松田優作の工藤ちゃん、犬ホームズからヴェネディクト・カンバーバッチに至るまで)何かと飛びつきがちな自分であるが、しばしば「名探偵」なるものに疑いを抱いてきた。

とくに金田一シリーズのような長編映像作品は、多くが連続殺人事件で、だいたいにおいて犯人が殺したかった人物は全員死ぬ。

一人目が殺されるのは、晴天の霹靂として仕方ない。二人目も、まあ良しとしましょう。三人目が殺される前には、これは連続殺人だと名探偵はすでに認識しているが、殺人を未然に防げた試しはない。

犯人にとっての唯一の誤算は、名探偵がその場に居合わせたこと。なのだろうけど、どうしても殺したい人間を計画どおりに全員殺せたのだから、警察に捕まろうが本望と言えそう。

松田優作じゃない方の工藤ちゃん。見た目は子供、頭脳はバーロー「名探偵コナン」にいたっては、連れ合いの少年探偵団(ガチの小学生)と行動すれば、ほぼほぼ凶悪犯罪が起きる世界屈指の犯罪都市、米花町で日々を過ごし、時折エセ名探偵の毛利小五郎に便乗し、地方へ行けば人が死ぬ。

事件を解決した功績よりも、縁起の悪さが気になっちゃう感じ。行く先々で、人が死ぬ。それが名探偵の定義であるかのよう。これは、莫大なエピソード数を誇る作品ゆえの弊害に違いない。

「シャーロック・ホームズ」などは殺人事件以外のエピソードも豊富なので、難事件があってこそ名探偵に依頼がくる、というのが本来の図式と思われる。

しかし、本題の金田一耕助。この人に与えられた名探偵の肩書きが、子供の頃から謎だった。この人はいつも、依頼人から「良からぬことが起きるから頼む」と仰せつかって現場にやってくる。

そもそも、何か起きちゃうから呼ばれてるのだから、最初の殺人も晴天の霹靂とは言い難い。その後も、連続殺人の法則のようなものには気付き、名探偵らしさを見せはする。

ところが、見立て殺人に使われる俳句が書かれた短冊に気付きながらも「字が達筆すぎて読めない」とか(「獄門島」)同じく見立てに使われている手毬唄を知る婆さんが、唄の続きが思い出せないとか(「悪魔の手毬唄」)。

とにかくいつも、金田一がモタモタしているうちに次々と人は死に、犯人はミッション・コンプリート。しかも金田一シリーズは大抵の場合、犯人が自ら命を絶ち、それさえも名探偵は防ぐことが出来ずに終わる。「しまった!!」じゃねぇし。

金田一シリーズは、ついつい映像のおどろおどろしさを期待し、そちらにばかり目がいってしまう。子供の頃から何度となく、怖いもの見たさでイベントごとのように観ていた「犬神家の一族」であったが、改めてじっくり向き合ってみると、映画作品として感銘を受ける部分が多々あった。

もはやアイコンとも言うべき、かの有名な湖畔から下半身が逆さまに飛び出している映像は、インパクトが強過ぎて「斧(よき)」の見立てであるという印象が、全くわたくしの中に残っていないことに驚く。

だいたい「犬神家」は、「斧、琴、菊」すべての見立てが、佐清(すけきよ)のゴム面ベリベリにかき消されていると言ってよい。

しかし、ゴム面ベリベリに飽きもせずヒャッと驚きながらも、今回の鑑賞でわたくしの心をグッと鷲掴みにしたのは、遺言の発表をするだ、しないだの中で繰り広げられる松子、竹子、梅子、三姉妹のやりとりである。

三姉妹と言っても、いずれも成人した男児のいるオバさんで、遺言が絡んだ時の欲のぶつかり合いや、身内どうしゆえの遠慮のなさの表現には目を見張るものがあった。

短いシーンながらも、そこにある会話のテンポの良さは完璧以上で、あの緊張感を意図的に作り出せているなんて。あれは、キング・オブ・コントの決勝にもいけるし、邦画史上屈指の名シーンと嘯きたい。

名探偵についてだが、実は本作のラストシーンで金田一自身が、どれかひとつでも殺人を未然に防げなった、不甲斐ない自分について語っている。

しかし依頼人は、警察の通り一遍の捜査では「何故このような不幸な事件が起きたのか」分からず仕舞いだったに違いない。と金田一を評価し感謝する。

警察の捜査がずさんなのは戦後すぐという古い時代設定のせいもあるが、確かに現代でさえ、何故こんな事が起きてしまったのか、までは辿り着けないことも多いに違いない。

そんな時、親身になって調査し、真相をつまびらかにしてくれる存在は、きっと事件で傷ついた人達のささやかな救いになるのだろう。名探偵とは、その役割を担うものなのだなと、やっと納得できた。

石坂浩二さんの魅力もさることながら、悲惨な事件が続くなかで箸休め的役割というか、オアシスのような存在の、若き日の坂口良子さんが、べらぼうに可愛い。

一大ブームを引き起こしたシリーズであることに納得づくし。他のシリーズ作品も真剣に再鑑賞してみたが、やはり一作目の「犬神家の一族」が抜きん出てキレッキレにエッジが効いていて、金字塔的作品に思えた。


【カンクロー】info@eigaxavier.com
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映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。