映画ザビエル[49]麗しの三白眼
── カンクロー ──

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◎ブルージャスミン

原題:Blue Jasmine
公開年度:2013年
制作国・地域:アメリカ
上映時間:98分
監督:ウディ・アレン
出演:ケイト・ブランシェット、アレック・ボールドウィン、
サリー・ホーキンス


●だいたいこんな話(作品概要)

「『ブルームーン』、夫と出会った時にかかっていた曲よ!」と自らの夫について、とめどなく話し続ける。女性の名前はジャスミン。自分でつけた名前だが芸名ではないし、娼婦でもない。直前までニューヨークでは名うてのセレブで、何不自由ない贅沢な暮らしを満喫していた。

彼女が、のべつ幕なしに語り続ける自慢の夫の莫大な資産は、すべて詐欺で手に入れたものだった。夫はFBIによって逮捕され、獄中で自殺。ジャスミンのセレブ生活は、一気に破綻した。

大学在学中に、夫ハルと出会ったジャスミンは、学校を中退し結婚してしまったので、何ひとつキャリアを持たない。FBIによって彼女名義の財産も一切没収され無一文の状態で、ニューヨークから、疎遠になっていた妹の住むサンフランシスコにやって来たのだが。




●わたくし的見解 ケイト・ブランシェットの真骨頂

ほぼほぼ、年一のペースで映画を撮っているウディ・アレンの作品は、だいたいにおいてコメディである。時折、思いついたように辛辣な作品を発表することがあり、それが近年では、この「ブルージャスミン」なのだ。

この作品も、各方面ではコメディと紹介されていて、実際コメディでもある。ただ、多くのウディ・アレンの映画が劇中どのような事が起こっても、大抵の場合は鑑賞後に多かれ少なかれ、ほっこり出来るのに対し、ここで辛辣と称している作品にはまったく救いがない。とんでもなく手厳しい時があるのだ。

唐突だが、ケイト・ブランシェットは紛うかたなき美人だ。こんな美人は他に見たことがない! かどうかは、個々の経験や特に「好み」で違うだろうが、間違いなく誰から見ても美人だと思う。そして、間違いなく「可愛く」はない。

「カワイイ」に圧倒的権力や市民権を与えている日本と違い、マチュア=セクシーであることを大きく評価するアメリカという場所でさえ、ハリウッドで人気を博してきた女優のいくらかは、可愛い。つまり、キュートだったりチャーミングだったりが、人気の理由となっている場合が少なくない。

少し古いけれど、分かりやすいところで言うと、メグ・ライアンとか。「ターミネーター2」では、ムッキムキで懸垂してたサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)でさえ、一作目の「ターミネーター」を改めて観ると典型的なアメリカン・ガールで、たぶん向こうの人にとっては「可愛い」女優だった。

ケイト・ブランシェットの凄さは、「可愛い」という要素の魅力をまったく持たずして、ただただ美しいことだ。男は必要ない、私は国家と結婚する! と宣言するのが似合い過ぎる。ムキムキじゃないのに、片手でショットガンを装填しないのに、サラ・コナー級の威圧感。しかし神々しいほどに、いつでも美人である。

とはいえ、大変に表現力のある素晴らしい女優なので、作品によっては劇中の表情など可愛い時だってある。「エリザベス」なんて今観ると、設定上のエリザベスの年齢や、演じている当時のケイト・ブランシェットの若さもあって、十分に可愛い。しかし、それらもすべてケイト・ブランシェット「にしては」可愛いと言うだけだ。

何が言いたいかと言うと、非常に美しいが可愛いという印象がまずない、そんなケイト・ブランシェットのためにあるような役がジャスミンである。こんなにも、スノッブで中身がなく、思慮に欠け、ただ美しいだけで自分では何ひとつ出来ない上に超ヤバい女を、演じられる人なんて他にいない。

もう少していねいに言えば、こんな女性をみごとに演じながらも、嫌悪感を与えたり同情を得るのではなく、ただフラットに哀しく見せることが出来る人はいない。

この役で重要なのは、見た目だけ魅力的で馬鹿な女では駄目だと言うこと。セックス・シンボルのイメージを求められた、マリリン・モンローのようなタイプではなく、上品であるような、知的であるような、一見すると複雑な「であるような」女性像でなければいけない。

しつこく申し上げてきたように、可愛くはなく、美しさと圧倒的演技力で今まで君臨し続けてきた、ケイト・ブランシェットの真骨頂を観ることができる作品だ。

いつもウディ・アレンの映画の主人公には、ウディ・アレン自身が投影されていて、今回も例外ではない。顔を出さなくてもウディ・アレンの存在感をひしひしと感じるのが、ある意味楽しみでもあるのだが、さすがはケイト・ブランシェット。完全にウディ・アレンに乗っ取られはしない。

ケイトと見えないウディの存在感が、実に拮抗している。最終的にウディが、ケイトに敬意を表して、いつもの彼の映画というよりは、ケイト・ブランシェットの映画に仕立て上げた。そんな、大いに見どころのある作品である。


【カンクロー】info@eigaxavier.com

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映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。