映画ザビエル[60]納涼! モンスター博覧会
── カンクロー ──

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◎キャビン

原題:The Cabin in the Woods
公開年度:2012年
制作国・地域:アメリカ
上映時間:95分
監督:ドリュー・ゴダード
出演:クリステン・コノリー、クリス・ヘムズワース、フラン・クランツ

●だいたいこんな話(作品概要)

失恋したばかりの女子大生デイナは、友達のジュールズに誘われ、湖畔近くの別荘に行くことになった。そこはジュールズの彼氏、カートの親戚が所有している山小屋(キャビン)で、デイナに紹介するためにジュールズとカートが連れてきたホールデン、共通の友人マーティンを含めた男女5人の若者は、週末を楽しく過ごす。

夜も更けお酒も入り、ますます盛上がる彼らは「告白か挑戦(Truth or Dare)」ゲームを始める。デイナは「挑戦」を選び、真っ暗な地下室へ一人で入って行くことに。地下室は暗いばかりでなく、古めかしく怪しげなアイテムの宝庫だった。あまりの怖ろしさに悲鳴をあげてしまい、デイナの「挑戦」は失敗に終わる。

悲鳴を聞き駆けつけた仲間たちは、結局全員で地下室を物色し始め、5人がそれぞれに不気味なアイテムに魅せられていく。デイナは、かつてここで暮らしていた一族の古い日記を見つけ、そこに書かれていたラテン語を声に出して読み上げた。

デイナの行動をきっかけに、呪われた一族は墓場からゾンビとして蘇り、山小屋の若者たちを次々と襲い始めるのだが。





●わたくし的見解/事件が、会議室で起こることもあるのだ

こうも極端に暑い日が続くと、かしこまらずに観られる映画がいいなぁ。夏だし、ホラーでも観ようかな。という怠惰なノリで選びました。作品の鑑賞が目的ではなく、映画館へ行くことが目的の映画が世の中にはあるわけで。そんなポップコーンムービー、デートムービーの最たるものと言えるでしょう。

春はゾンビの季節だから、とか意味不明なことを言って、今度は夏だからホラーとこじつけて、こいつはゾンビ映画が好きなだけじゃあないのかと思われた方もいるかも知れません。たしかに私は「ウォーキング・デッド」シーズン9の放映を心待ちにしています。

しかし、安心して下さい。本作はゾンビ映画ではありません。ゾンビは、ほんの端役でしかないのです。

「だいたいこんな話(作品概要)」で、お気付きかも知れませんが、ホラー映画としては超お決まりの、ド定番な導入部分です。田舎暮らしに憧れて引っ越した古い屋敷や、人里離れた山荘で怖い目に遭うなんて作品は、掃いて捨てるほどあるのです。

とくに5人の若い男女が山小屋の地下室で見つけたものが、きっかけとなる展
開は、ホラー映画の金字塔のひとつ、サム・ライミ監督の「死霊のはらわた」
を明らかにイメージしたもの。

地下室で見つけた古い記録、本作では日記、「死霊のはらわた」ではテープがキーアイテムとなり、読み上げる、あるいは再生させる行為によって、若者たちの身に起こる惨劇のスタートボタンが押されてしまいます。

本作の場合は文章表現としてではなく、若者たちの動向を終始監視していた人間によって、実際に物理的に、惨劇スタートのボタンが押されるのです。

たまたまヒロインが日記を選び、きっかけとなる行為に至ったためゾンビが現れましたが、5人の若者それぞれが手にしたアイテムごとに付随するモンスターが、実は用意されていたのでした。

当然、若者たちは車で山小屋から逃げ出すも、失敗するくだりまで「死霊のはらわた」を踏襲しています。しかし「キャビン」は名作のリメイクではなく、天下のディズニーが、作り続けてきたプリンセスストーリーを自虐ネタで遊んだ「魔法にかけられて」のような、パロディ作品と言って良いでしょう。

また、ホラー映画あるあるを高らかに歌い、メタ表現で一線を画した「スクリーム」シリーズの類でもあります。

ホラー映画を観ていてよく感じるのは、事件とは違い、現場ではなく会議室で色々起こっているということ。

人気の「ファイナル・デッド」シリーズなどは、きっと毎回、既存のホラー作品では見た事のない「むごい死に方」「あんまりな死に様」のアイデアを、ホワイトボートに書き連ねているに違いありません。マニアが集まり嬉々として、そんな会議(チャットかも知れないけれど)を繰り広げているのです。

まともな大人から見れば不謹慎極まりない会議に思えますが、本作で映像化されているモンスターの数を見ると、馬鹿馬鹿しさを通り越して尊敬の念が芽生えそうです。思いつく限りのモンスターと、呼び起こすためのキーを書き尽くしたホワイトボードは、真っ黒になっていた事でしょう。

身も蓋もない言い方をすると、ホラー映画なんてものは5つ星で評価すれば、大抵は3つ星までです。しかし、時折スマッシュヒットを飛ばす作品があるため、気が抜けないジャンルでもあります。

スマッシュヒットを飛ばしたところで、せいぜい星は3.5から4つ程度なのですが、それくらいが丁度いい、鑑賞する側のコンディションもあるのです。

本作に登場する、ちょっとエロめの女の子なんて絶妙で、見た瞬間に真っ先に死ぬんだろうな、と直感。こんないい具合の(可愛いし綺麗なのに)なんとも安っぽい女の子、どこで見つけてくるんだろうと感心しつつ、今まさにホラー映画を見始めたのだなと安心しました。

最初に死ぬセクシーな金髪娘や、ゴタクを並べているうちに殺されるキャラクター、生き残りそうな処女など、ホラー映画の定石をイジリたおしていく作品なので、もともとこのジャンルが好きな人の方が楽しめそうです。

換骨奪胎や温故知新と呼べるほど立派なものではありませんが、好きこそ物の上手なれ。イノベーションを図ったアイデア意欲作として愛でてあげて下さい。マストではありませんが、ホラーでも観っかな、みたいなノリの時はご参考まで。さして涼しくはならない、納涼ホラー映画のすすめでした。


【カンクロー】info@eigaxavier.com

映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/


映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。