エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[39]お茶に行きませんか◇宇宙の喫茶店
── 松岡永子 ──

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◎お茶に行きませんか

https://bn.dgcr.com/archives/2019/09/26/images/001

昨年こちらでもご紹介した、梶本奈美さんの個展が今年も平岡珈琲でおこなわれます(9月26日〜10月7日)。画像は昨年展示されていた作品です。

平岡珈琲は、雑誌で大阪の喫茶店特集が組まれるときなどには、必ず取りあげられる老舗店です。まもなく開業100年になります。

平岡珈琲のサイト
https://www.cafe-hiraoka.jp/






この店は「カフェ」ではなく、絶対「喫茶店」。

言葉ではその違いを説明しにくいのですが、雰囲気はなんとなくおわかりいただけるのではないでしょうか。長い時間をかけてはじめて醸し出されるたたずまい。

と書いていて思うのですが、なぜ「喫茶店」なのでしょう。

平岡珈琲は、名前の通り自家焙煎された「コーヒーのお店」です(メニューには紅茶もミックスジュースもあります。注文のたび一杯分ずつミキサーにかけられるミックスジュースは実においしい)。

でも、喫茶店。珈琲店という言い方もなくはないですが、ほとんどしません。わたしの周囲にはコーヒーが苦手な人もいて、「お茶に行こう」と言ってほんとうにお茶を飲みにいったりもしますが、そういうのは少数派ですよね。

多くの人が、「お茶に行きませんか」と言ってコーヒーを飲みにいく。いつごろからそうなんでしょう。

実は最初からそうなんじゃないか、という気がしています。はじめから喫茶店は、お茶ではなくコーヒーを飲むところだった。

喫茶店で日本茶を飲むことは今でも少ない。では、紅茶は? 

以前、新聞で堂島にあったムジカが紅茶専門店の草分けと紹介されていたと思いますが、あのお店の創業は戦後だったはず。アフタヌーンティーが一般的になったのは、ごく最近のことでしょう。

・自宅ではなく、わざわざ喫茶店に足を運んで飲むのは、昔からコーヒーだった(?)

・「カフェー」という名称はお酒を出す店に取られてしまったから、「喫茶店」という呼び名を作った(?)この辺りが、今のわたしの仮説です。

わたしの場合は、どんなお店にお茶しにいくにしろ、読むか書くか、作業をするために行くことがほとんどです。平岡珈琲のような喫茶店の場合、お店の人とおしゃべりしてしまって、作業がはかどらないことが難点かもしれません。


◎宇宙の喫茶店

図書館が開くまで、駅前の喫茶店でモーニング。客のほとんどはお年寄りで、みんな常連さんらしく、座っただけでコーヒーやジュースが出てくる。だいたい席も決まっているようだ。こんな時間に喫茶店にはいったことがなかったから知らなかった。

入り口近くに座っていた男性が、携帯電話でしゃべりながら出ていく。営業マンだろうか、忙しそうだ。

夏休みで遊びにきていたいとこが、興奮したようすでささやく。

「すごいね、あのひと。宇宙飛行士なのかなあ。オリオンの支部に寄ってからセンターにいく、だって。お兄ちゃんの住んでるところって、もしかして宇宙なの」

そうだよ。ぼくらは宇宙に住んでる。銀河系宇宙の地球支部だ。いつもは忘れてるけどね。


【松岡永子】
mail nifatadumi@gmail.com
blog http://blog.goo.ne.jp/nifatadumi


大阪市住吉区には「遠里小野(おりおの)」「千躰(せんたい)」という難読地名があります。読める人は少ないですし、耳で聞いて分かる人はほとんどいません。