ローマでMANGA[153]緊急特番 ローマでコロナ
── Midori ──

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行く……のが常だけど、今回は超番外編。題して「ローマでコロナ」。

3月5日の「manga出版界のさかんな『発掘』」の後書きでは、のんきなことを書いていました。
https://bn.dgcr.com/archives/20200305110000.html


かなりのんびりした状況が読み取れますよね。6日のテキストは3月のはじめに書いている。この時、ミラノでは感染者が増大して大騒ぎになっていたが、ローマでは他人事だった。

その後、ネズミ算式に感染者が増えて、あっという間に中国に続いて第二位の感染者数を誇ることになってしまった。ここに至って編集長からの依頼もあり、ローマでコロナのレポートします。

ただし、残念ながら私にはジャーナリストの素質がなく、情報源を見過ごしたりあるいは記憶にとどまらなかったりするので、ジャーナリスト的レポートではなく、『ローマ在のおばちゃんの日常から見たコロナ騒ぎ』という視点でのレポートということをお含みおき下さい。頑張ってネットで情報の補足をしてみますが。





●経緯と日常生活レポート

簡単な経緯をまとめたサイトがあった。
在位日本大使館のページ(以下)
https://www.it.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html


日本語で読めるので興味のある方はぜひ。さらにイタリアの日刊紙のサイトの助けも借りると以下のようになる。

https://www.ilmessaggero.it/pay/edicola/coronavirus_cinesi_roma_salvi_infezione_ultime_notizie-5068686.html


イタリアでコロナウイルス(誰かが言ってたように「武漢ウイルス」と呼ぶべきだと思う)の感染者が出たのは1月28日。イタリアを旅行中の中国人夫婦。武漢出身の夫婦は20人のグループで、武漢空港から北京空港を経由して1月23日にミラノのマルペンサ空港に到着。バスでベローナへ行き、そこで観光。二人ともまだ症状なし。

(生ハムで有名な)パルマで三日滞在。27日、ご主人に症状が出始めて、グループはナポリへ向かったが夫妻は二人でフィレンツェへ行き、一晩過ごしてローマへ。ローマで奥さんも症状が出始めて、ホテルが救急車を呼んで病院へ。

夫妻の出身地から、ホテル側は普通のインフルエンザではないかも知れぬと気を利かせて状況を説明し、救急車スタッフは全員防護服で搬送。搬送先はローマのスパッランツァーニ国立感染研究所。イタリアで有数の感染病に特出した施設で、ここの研究室がいち早くコロナウイルスの隔離に成功している。

この夫妻は一時期集中治療室のお世話になったが、約70日後、無事退院した。

2月21日、イタリア初のコロナウイルスでの死亡者。ベネト地方の78歳男性。同日、ミラノが州都であるところのロンバルディアでは感染者が14人。このケースは中国から帰国したばかりの38歳男性が、家族と友人で帰国夕食会をしたため同席者が感染。本人は感染していたこと知らなかったらしい。

このニュースで「ローマで日常生活」の我が家では、「ばかじゃないの?!」の大合唱。この時期、中国から帰国して人を呼ぶなんて! この大合唱には少し「いい気味」のニュアンスが含まれる。総じて北の住人は、ローマから南を「お荷物」と称してバカにしているし、特にミラノはローマをバカにしているから。おバカなローマがイタリアの首都であることが気に食わないらしい。

これを受けて北部では公共イベント中止。この週末、ベネト州の一部であるベローナに住む義弟と甥っ子がやってきたが、特に警戒せず。

2月26日、累積感染者数400名、うち死亡12名。
(以下、在伊日本大使館のページからコピペ。)
ロンバルディア州(州都ミラノ)258名
ヴェネト州(州都ヴェネチア)71名
エミリア=ロマーニャ州(州都ボローニャ)47名
ピエモンテ州(州都トリノ)3名
ラツィオ州(首都ローマ)3名
シチリア州(州都パレルモ)3名
トスカーナ州(州都フィレンツェ)2名
リグーリア州(州都ジェノヴァ)11名
トレンティーノ=アルト・アディジェ州(州都トレント)1名
マルケ州(州都アンコーナ)1名)

死亡、治癒した者を除く経過観察中385名、このうち在宅隔離221名、入院治療128名、集中治療室36名(感染者全員が隔離措置)ここでローマでは「北、こわー」となった。

2月29日、累積感染者数1,128名、うち、若干名ながらローマ、カラブリア、シチリアにも飛び火。ロンバルディア(ミラノが州都)615名でダントツ。3月8日まで学校閉鎖。ピエモンテ(トリノが州都)では3月3日までの学校閉鎖。イベント、集会の中止、美術館の閉館。

確かドゥオモとスカラ座も閉めたと思う。国境を接するオーストリア、ドイツがイタリアからの入国制限をしたのもこの頃だと思う。

「ローマで日常生活」者の我々は「なんでー! あいつら、イタリアほど検査してないから感染者数が少ないんだよ」(ただの憶測。イタリアは色々アバウト、何に対しても適当、と思われているようだけど、健康管理や厚生、医療、保険制度のレベルは高い。かかりつけの医者の受診は全額国負担。病院管理のレベルが低い病院が多々あるのが難)。ここでも、普段イタリアをバカにするドイツへの恨みが含まれる。

この頃、テレビで盛んにミラノの住人のパニックぶりが報道される。スーパーマーケットの食料の棚が空っぽ! 多分、ミラノに何百とあるスーパーの全ての食料の棚が空っぽになったわけではないだろうけど、絵的にセンセーショナルな画像を放映するのが常なので、ミラノ中パニックな印象。

ミラノのスーパーの画像を受けて、旦那の友人が「妻がうちでも買い出しに行った方がいいかなって言ってるんだけど」と言って来てゾッとした。ローマではそうした買い出しパニックは消毒液に限られてたけど、怖い顔して「どうなるかわからないから」と買い出しをする人が増えたらパニックはパニックを呼ぶ。パニックが訪れる前に買い出した方がいいかしら、と一瞬思ってしまって、パニックがパニックを呼ぶ心理を一瞬味わった。

一日前の28日、地味にローマ郊外の我が家の地域でも一人発生のニュース。53歳の警察官で感染経由は不明。これが怖いね。ずっと他人事だった我が家も、「えっ?」となった。

この頃、感染予防には手を洗い、消毒する事、の認識が広まり、スーパーから
簡易消毒液が消えた。
https://www.amazon.it/AMUCHINA-gel-igienizzante-mani-disinfettante/dp/B00NU4V7RS


(イタリア人は極度の清潔好きで、あらゆる類の洗剤石鹸類の一人頭の消費量が世界一。この商品の小瓶を常に携帯してる人が多い)この頃、普段の価格が2ユーロ程度の80ml入りの小瓶が、オンラインショップで50ユーロ、大瓶がとんでもない価格で売られていたらしい。

ソーシャルネットワークではこれを茶化した画像が結構出回った。私はこの騒ぎの前にすでに買ってバッグに入れてある。

この商品の名前AMUCHINA(アムキーナ)から、定冠詞のLをつけてL’AMUCHINA(ラムキーナ)とし、ラムとキーナをわけて「うる星やつら!」のラムちゃんがお辞儀してる画像が出て、それが個人的には受けた。イタリア語でCHINAは「お辞儀する」という意味の動詞の三人称単数なの出た(その画像を探してみたけど出てこなかった。残念)。

●レッドゾーン出現!

3月1日、北イタリアはレッドゾーンと定義され、北イタリア以外にも感染者が出た経緯から、ラツィオ州(ローマが州都)でも州令が出された。修学旅行、ツアー、課外授業の3月15日まで中止。レッドゾーンに滞在した者は管轄地域の指定保健機関内対策部に通知し、14日間の自宅隔離。

各州で特設フリーダイヤル設置。

すでに2月23日と25日に出された首相令の改定、追加。レッドゾーンの出入り禁止、生活に必須なサービス等を除き、全ての文化活動、教育活動、商業活動禁止。イエローゾーン(北部3州とマルケ、リグーリア州)文化活動(スポーツイベント等)、教育活動は3月8日まで禁止。

宗教施設、美術館・文化施設、レストランやバール(喫茶店)、パブ、それ以外の商業施設等、人が集まる場所においては、人同士が接触を避けられるよう「1メートルの距離」を保つ配慮が求められる。病院や介護施設へのアクセス制限あり。

3月4日。イタリア全土で3月5日から15日まで学校、大学(専門学校含む)休校。

私も自宅待機組に。B&Bを管理する旦那も3月の予約が全てキャンセルになり、自宅待機。フュ-ミチーノ空港で障害者介護サービス(車椅子での空港内移動)の息子も自宅待機。昼夜ちゃんと食事の用意をしなくちゃいけない私。という環境になった。

3月5日、水際対策強化。韓国とイランからの入国禁止の地域拡大。中国、韓国からの入国者に対して、検疫所長の指定する場所で14日間待機し、国内において公共交通機関を使用しないことを要請。

3月5日、3月4日付けの首相令を発出(法的効力を持たせた、という意味だと思う)。会議、会合の禁止。映画館劇場など互いに1mの対人距離を保てない場所での催し禁止。スポーツイベント禁止。レッドゾーン以外では観客なしでの遂行可。高齢者や慢性疾患のある人の外出を控える呼びかけ。医療、介護施設への立ち入り禁止。

これは全国的処置で「高齢者」とは行政上65歳以上で、年齢も慢性疾患もある旦那は焦っている。この頃、まだ友人と夜外出していた息子宛に「手を洗うこと!」と書いたメモをテーブルに残して就寝したり、テレビでやっていた「家庭で作れる消毒液」をメモし、実際に作った。家の入り口にその容器を置き、かつ小さな容器にわけて車に置いた。家人に「出入りの際にはこれを使用するように」と命令を発した。

この日の感染者総数は3,858名。1日には1,694名だったのが4日後に約倍になった。この4日後の9日には9,172名と倍以上になっているから、感染力のすごさが伺える。

3月6日。コロナウイルス、1月24日にドイツで最初のヨーロッパの症例
https://www.fanpage.it/attualita/coronavirus-primo-caso-europeo-in-germania-il-24-gennaio/


33歳のドイツ人で、1月24日に上海から来た人物と仕事上の会見をし、この人物が上海に帰ったあと、症状が出て検査の結果陽性。それをドイツ人に伝え、彼も検査をしたところ陽性だった。

このニュースで、我が家を始め、イタリアの各家庭で「(感染者数が多い)イタリアを目の敵にしてたけど、お前らが元凶じゃん!」と騒がれたのは言うまでもない。

私にも降りかかるさらなるコロナ。3月5日、同月15日に予定されていた日本がテーマのフリマ中止決定。いつもここで似顔絵を書いて小遣い稼ぎをしていた。3月6日、4月2日から6日までを予定されていた、ローマのコミックスフェア「ROMICS」が5月30日から6月2日へ開催日の延期を発表。
https://www.romatoday.it/eventi/cultura/romics-rimandato-coronavirus.html


3月10日、講師をしているマンガ学校から4月2日まで休校を延期するとのお達し。

3月8日、新たな首相令で個人の移動を回避。職務上の必要性、健康上の必要性を除く移動の回避(違反に対する罰有)。プラス、レッドゾーン拡大。全部北。

この首相令が有効になる3月8日0時前に、ミラノから逃げ出そうとする人々がミラノの中央駅に殺到したことがニュースになった。
https://www.fanpage.it/attualita/coronavirus-fuga-da-milano-la-stazione-ferroviaria-presa-dassalto-da-centinaia-di-persone/


この件でも、今まで押し寄せるアフリカ難民が問題になっていたが、それを逆手にとってイタリアからアフリカへ移民する画像がソーシャルネットに出回る。イタリアでは挨拶としてほっぺをつける、握手する、が普通だけど、それを回避しましょうとも呼びかけている。8日の夜に我が家で7人で夕食会をしたけど、日本式にお辞儀をした。

3月9日、8日の首相令でロンバルディア州全地域及び4州の14県に適用されていた移動制限を、10日の朝からイタリア全土に適用すると発表。これは4月3日まで適用。

職務、健康上の理由で移動を余儀なくされる場合には自己申告フォーマットをDLの上、記入して所持し、コントロールの警官に求められれば提示する。
https://www.it.emb-japan.go.jp/pdf/20200310_mdi_format.pdf


●今ここ

3月9日、首相令に反発するようにローマから南で若者が各地でパブやら、勝手に集まって乾杯する姿が報道された。だって家で何したらいいかわからないんだもーん! だって。


3月11日、累計感染者数10,149名。死亡者631名。回復者1,004名。症状が出て入院してる者5,038名。自宅隔離2,599名。集中治療室877名(感染者の約10%)。感染者数の約半数がロンバルディア州で、やっぱり発症した所が強い。

私も初めはインフルの一種だから抗体をつけて……とたかをくくっていた。パンデミックの怖さを知らなかった。幸い我が家は郊外で、皆自宅待機で人と接触する機会がないし、旦那ほどパニクってはいない。昨日、スーパーに買い物に行ったけど閑散としてて、他の人との間隔1メートルなんて余裕で超えてた。

イタリア政府の水際作戦をとった時期が遅かったね。まぁ、どう言うウイルスなのかよくわかってなかった、と言うのもあるけど。

【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】