エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[45]その駄洒落、洒落ですよ◇洒落の練習
── 超短編ナンバーズ タカスギシンタロ ──

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◎エッセイ

「その駄洒落、洒落ですよ」

ことば遊びをすべて、「駄洒落」でひとくくりにしてしまう風潮がかなしい。普通の人の場合はそれでもかまわないが、噺家やお笑い芸人、アナウンサーなど、言葉のプロが安易に「駄洒落」という言葉で済ませてしまうのはどうかと思う。そもそも言葉遊びにはいろいろな種類があるのだ。

かつて有線放送に『うまいねどぉーも川柳道場』という番組があった。噺家の柳家小ゑん師匠が選者をつとめる、江戸の川柳と言葉遊びのコンテンツだった。有線放送では珍しい聴視者参加型の双方向番組で、投稿で賑わっていた。

じつはわたくしこの番組の初代横綱でした(自慢です。すみません)。そんなわけもあって、どうも言葉遊びについてはひとこと言いたくなってしまうのでありました。





「雑俳」という言葉をご存じだろうか? 川柳や洒落などで競い合う江戸の言葉遊びの総称だ(落語にも「雑俳」というのがありますね)。その式目は川柳や洒落のほかにも地口、語呂合わせ、都々逸、ものは附などがあり、あげればきりがないほど。

そんな中で、とりあえず「洒落」と「地口」の違いくらいは知っておいてほしい。そうすれば「笑える」「笑えない」以外にも、言葉遊びには評価軸があるのだということをご理解いただけると思う。

まず「洒落」だが、これは言葉の冒頭で洒落てほしい。つまりよくある「そんなシャレやめなシャレ」というのは「され→シャレ」と、言葉の最後の部分で遊んでいるので、きちんとした洒落ではなく、これこそ駄洒落なのである。

雑俳は言葉を用いた競い合いである。であるから、選考の基準をそろえるため、共通のお題の元に競い合う。たとえば洒落で、お題が「病気に関する一切」だとしたら

「ウィルスを使う(居留守を使う)」は冒頭で遊んでいるので洒落だが「風邪引いちゃってくしゃみが止まらないんですよ、ワクチン!(ハクション)」は正式の洒落ではないことになる。

ちなみに、なぜ言葉の冒頭で洒落るのか。詳しい理由は雑俳の本にも書いていない。個人的な考えだが、やはり競い合いに関係しているのではないだろうか。

言葉の真ん中や最後で洒落てしまうと、言葉遊びとは関係ない部分の内容や面白さが入ってきてしまい、評価の軸がぶれてしまう。純粋に言葉遊びで勝負するために冒頭で洒落るのだと、個人的には理解している。

さて、洒落で注意していただきたいのは、冒頭で洒落るというほかに「同音はだめ」というルールである。やはりお題が「病気に関する一切」だとしたら

「痔エンド(ジ・エンド)」というのは、冒頭で遊んではいるものの、読みの音がどちらも「じ」で同じ。よって、洒落としては認められないということなのです。

以上が洒落(正式には洒落附)の説明でした。もうひとつ「地口」も知っておいてほしい。

地口は大辞泉によれば「ことわざや成句などに発音の似通った語句を当てて作りかえる言語遊戯」である。別の言い方をすれば、「成句の一部またはすべてを変えて違う意味の言葉にする」という遊びということ。

これだけだとわかりにくいと思うので、例を挙げます。「ことわざ一切」というお題だとすると、ことわざを元に、作り替えることになります。

 「Uberの耳に念仏(馬の耳に念仏)」
 「木を見てウォーリーを見ず(木を見て森を見ず)」
 「尻に目移り(尻に目薬)」
 「ニコニコバーン(猫に小判)」

と、こんな感じになります。文頭で洒落る必要がないので、洒落附より自由度が高いと思います。これらは(出来不出来は別として)地口という言葉遊びなのですが、区別なく「洒落」と言っている人も多いのではないでしょうか?

以上、言葉遊びにおける「洒落」と「地口」でした。言葉遊びには「おもしろい」「つまらない」以外にも「ルールにのっとった形であるかどうか」という評価軸があることをぜひ知っておいていただきたいと思います。

ちなみに、現時点でWikipediaの「地口」の項目は間違っておりますのでご注意ください。地口附と無駄口附がごっちゃになってしまっています。

参考文献『雑俳諧作法』(佐藤紫蘭/葉文館出版)『奥の近道』
(篝火舎心亭編著/扶桑社)

雑俳諧作法
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奥の近道
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◎超短編

洒落の練習

「洒落ヲ教エテクダシャレ」
たぬきがタローのもとを訪れた。
「洒落を覚えてどうするんだい?」
「ミジンコサンヲ喜バセルノサ」
タローはしばし考えると、紙と鉛筆を持ってきて何か書きはじめた。

「いらっしゃいませ」
扉の開く音がしたが誰もいない。ミジンコサンが首をひねりながら店に戻ると、いつのまにか二人の男がテーブルに着いていた。
「ははあ、タローさんが言ってたたぬきときつねね……」

ミジンコサンは何食わぬ顔であやしい男たちに水を出す。男たちはちらちらとメモを見ながら注文した。
「角煮入レテ飾リタイ」
「豚の角煮ですね」
「味噌煮ハマッテサア大変」
「サバの味噌煮ですね」
「サラダ十勇士」
「サラダですね」

ミジンコサンが料理を持ってくると二人の男は無言で食べた。そして「馬勝ッタ牛負ケタ」と言いながら帰っていった。

しばらくするとノックの音がした。ミジンコサンが扉を開けたが、そこには誰もおらず、ただ桃の花が置いてあるだけだった。

花に添えられた紙にはたどたどしい文字で「桃おなかいっぱいです」とあった。


【タカスギシンタロ】

超短編専門フリーペーパー『コトリの宮殿』編集長、電子書籍版元「うのけブックス」代表。松本楽志とともに「超短編マッチ箱」のサークル名で文学フリマに参加している。
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