◎作品タイトル
サーミの血
◎作品情報
原題:Sameblod
公開年度:2016年
制作国・地域:スウェーデン、ノルウェー、デンマーク
上映時間:108分
監督:アマンダ・シェーネル
出演:レーネ=セシリア・スパルロク、ユリウス・フレイシャンデル、ハンナ・アルストロム、マイ=ドリス・リンピ
◎だいたいこんな話(作品概要)
1930年代のスウェーデン。北部ラップランド地方で、トナカイを放牧し暮らしていたサーミ人の少女エレ・マリャは、妹と共に寄宿学校に入学した。同じ年頃のサーミ人だけが集まる学校だったが、そこでは彼らの言葉を使うことは禁じられ、周辺のスウェーデン人達からはあからさまな差別を受けていた。
エレ・マリャは成績も良く進学を望むも、教師から「あなた達は知能が劣っていると研究結果が出ているので進学は不可能だ」と告げられる。しかし、サーミ人であることを隠して潜り込んだ夏祭りで出会った青年を頼りに、エレ・マリャは都会へ飛び出して行く。
◎わたくし的見解/「アナ雪2」の副教材
年老いた主人公が、妹の葬儀をきっかけに久しぶりに故郷を訪れたことから、サーミ人としての暮らしを捨てた少女時代を振り返る構成です。
葬儀に集まった人たちの反応を見る限り、ヒロインが戻ったのは故郷を離れて以降初めてのようで、彼女自身もこの機会にさえ帰ってくることに抵抗していた様子がうかがえます。
この作品とは全く趣きの異なる世界的メジャー作品の「アナと雪の女王2」では、一作目で他者との違いを「レリゴー(ありのままで〜)♪」と受け止めたエルサが、自分はなぜ皆と違うのか、とルーツを追求する旅に出る物語。対して、本作のヒロインは自らのルーツを断ち切ることに必死です。
嫌がるエレ・マリャを無理やり古巣に連れてきたのは彼女の息子。その息子は、自身のルーツでもあるサーミ人の文化や風習に対して前向きなのに、ヒロインは言葉も音楽も、彼らの存在さえ忌み嫌っているかのような発言を繰り返すのでした。
エレ・マリャがそこまでサーミ人を認めたくないのは、信じられないような差別を受けた過去があったから。自分がサーミ人であることまで否定しなければ、ありふれた自由さえ手に入れられなかった時代を生きてきた彼女の苦労が伝わってきます。
息子や孫娘の生きる現代は価値観も大きく変わり、彼らは知らないなりに自分たちのルーツを大切にしようとしています。しかし時代が変わっても、サーミ人を蔑むような風潮はまだ存在していて、エレ・マリャがそれに同調して見せる場面では複雑な想いを抱かずにはいられません。
ヒロインの今回の帰郷に対する強い拒絶反応は、ルーツを否定してきた彼女の人生とは対照的に、サーミ人として生きて死んだ妹に対する負い目によるものでした。
作品の大半を占める少女時代のエレ・マリャの物語は、演じる少女の眼差しの強さや人を惹きつける佇まいから魅力的なものになっていました。ただ、利発な少女が教師になる夢を抱き、都会の青年に恋をして現実の壁にぶつかって、と青春映画らしく瑞々しい輝きを放ちながらも、そのようなタイプの他の作品(たとえば、NHKの朝ドラ)と異なり、決してハッピーエンドになり得ない厳しさが付きまとう点で、心の置き所が難しく結果的にカタルシスは少なかったと言えます。
また、冒頭とエンディングにおける老女のエレ・マリャからは、ルーツを捨てた選択への是非を問うことが難しく、作り手側のメッセージも定まっていないように感じられました。
自身もサーミ人をルーツに持つ監督としては、彼らのような虐げられた少数民族の存在を広く知ってもらいたいという想いはあるはずです。ところが、それ以上の何かを訴えるという点では良い意味でも悪い意味でも弱かった。おそらく、監督もヒロイン同様に正解と呼べるものを見つけられていないのでしょう。
個人的には、いずれの民族や地域においても伝統的な暮らしを続けることが全てではなく、それ自体が目的になることも本末転倒ではないかと感じています。しかし、だからと言って伝統を重んじることがナンセンスだとも思わない。守りたいもの守るべきもの(時には伝統、時には今を生きる当事者)について、常に考えながら選択していく必要があるのだろうと身につまされたものの、単体でお勧めできるほど印象的な作品ではありませんでした。
ただ、「アナ雪2」に登場するノーサルドラと呼ばれる精霊たちと関係の深い民族は、サーミ人をモデルとしているらしいので、興味のある方には副教材として最適です。
ちなみに私は「アナ雪2」は未見なのですが、このようなリアルなベースを用いるあたりが、さすが大作、さすがはディズニーと感心しきり。どうやらディズニーは本気でダイバーシティの先鋒となるつもりなのだと痛感しました。まさしく、レリゴー!を目指しているようです。
【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル
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映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。
時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。
私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。