ツナLIFE[002]すでに綱島ロス……
── みなみ まいこ ──

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◆1……昭和の時代を彷彿

10月も終わりに近づき、秋は終わり、冬の気配が色濃くなってきた。

出産の準備のため、実家のある長野県に帰省して、約10年ぶりに長野県での秋から冬のシーズンを迎えようとしている。

綱島での柔らかな秋の日差しや、夕暮れに飛び交う川鳥の風景などがすでに恋しい。

綱島を最初に訪れた時、この街には温泉があるということにとても衝撃を覚えた。

私が越してきたときは、綱島温泉・東京園という温泉施設が駅の東口にあり、街のシンボルとなっていた。
かつては街道沿いにたくさんの温泉宿が軒を連ね、芸者衆がたくさんいた、色っぽい街だったらしい。

駅前の商店街を歩いてみると、入り組んだ路地の奥にある甘味処や、ビルとビルの狭間に残る地蔵堂などに昭和時代から息づく温泉街の名残が感じられる。





◆2……魅惑の東京園

東京園は惜しまれつつ数年前に閉業して、現在はもうその姿を見ることはできないが、幸いにも閉業前に二度ほど利用することができた。

この街に生まれ育った人たちには、子供のころ親に連れられて行った思い出の施設だという。

銭湯と同じ料金で天然の温泉を堪能できる、最高の温泉施設である。

しかも900円支払うと、閉館までの一日中を東京園の中で過ごすことができる。温泉に何度も入れて、飲食物は持ち込み自由。近隣の商店街を利用して欲しいということらしい。そんなものだから、館内はいつも人でいっぱいだった。

円を基調とした内装で、円形の浴場や、湯舟。壁が丸いので富士山などの壁絵ではなく、タイルのモザイクアートが施されていた。今まで私は、片方の壁に備えつけられた一般的な四角い銭湯の内装しか見たことがなかったため、ここのお風呂はとてもロマンあふれる贅沢な作りに感じられた。

東京一帯の温泉でよく見られるように、ここの温泉も黒湯である。

お風呂は浴場の中央にひとつだけ。深さのわからない真っ黒なお湯がかけ流されている。ヘリや手すりにしがみついて、恐る恐る足をつける。

中央のお風呂の他には、源泉のお湯が貯められた水風呂代わりの低温のお風呂があり、火照った体を優しく冷ましてくれる。

しっかりお風呂を堪能して出てくると、休憩室は宴会をしている人や、カラオケをしている人ですし詰め状態。EXILEを歌う大学生と、その曲に合わせて社交ダンスを踊るお年寄りという、まさにカオスな空間が広がっていた。

今はもうなくなってしまったが、老若男女が集う、すごい場所が綱島には存在していた。

◆3……綱島温泉の面影

東京園は閉業してしまったが、温泉を求める者のために現在でも綱島には数か所、温泉に入れる場所がある。
スーパー銭湯の湯けむりの庄、下町の銭湯富士の湯、日吉湯などである。その他に、黒湯ではないが草津湯という銭湯もある。

都内で暮らしていた時も近所の銭湯には必ず足を運ぶほどだったが、その日の気分で選べるほど何軒も近くにはなかった。それゆえに綱島は銭湯が多いと感じる。

温泉の街、綱島。再開発が進みゆく街ではあるが、これからもこの風景は変わらず残っていってほしいもののひとつである。


【みなみ まいこ】
漫画家
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