ツナLIFE[003]南信州の秋
── みなみ まいこ ──

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◆雲海のような幻想的な風景:長野県

出産をひかえ、里帰りをして早くも2か月が経とうとしている。

帰ってきたときにはまだ実をつけていた柿の木だったが、すっかり収穫を終えて、今では家々の軒下に干されている。このあたりで作られる干し柿は「市田柿」と言われ、全国へ出荷されるちょっとした名産品だ。

都内のスーパーの果物コーナーで、桐の箱に入れられ売られているのを見たときはとても驚いた。





天龍川が削った河岸段丘で形作られたこの地域は、これからの時期、昼夜の寒暖差に加えて早朝の放射冷却により川霧が発生し、市街地のほとんどが霧に包まれる。

少し高台から眼下を見下ろせば、川向うの山々が頭だけをのぞかせ、まるで雲海のような幻想的な風景が広がる。

実家に住んでいた時はこんなものは当たり前なことで、登校時にはその霧が髪にまとわりつき、凍って千切れていくのが忌々しくもあった。

四季折々、様々な表情を見せる自然の妙、ずいぶんと彩りあふれる地域に住んでいたことに、町を出てようやく気付いた。

◆変わりゆく恒例行事:綱島

毎年、欠かさず参加していたものがある。日本最大のオタクの祭典、コミックマーケット、通称コミケである。

お盆の時期と、年末に数日間開催されるこのイベントに参加するようになって10回を数えるほどになると、買い物だけでなく、もはやこの時期にしか会えなくなった友人たちとの再会の場になりつつある。

オリンピックで元々イレギュラーだった今年の開催日が、コロナでまさかの中止、さらに年末の開催も来年の5月にスライドされるなど、異例尽くしの2020年であったが、来年こそはコロナも落ち着いて様々なイベントが再び、通常通り開催されることを期待したい。

もうひとつ、綱島に来て欠かさず参加しているものがある。綱島神社の年越し、初詣だ。

綱島神社は、普段はひと気のないひっそりとした神社だが、夏には盛大に神輿が何基も町内を練り歩き、年末の2年参りでも大勢の参拝客が一年の締めくくりと新年のあいさつに列をなす。

初めてこの神社に初詣に来た時、暗がりから急に声をかけられた。

「あけましておめでとうございます!」

いきなりの事で大変驚いたのだが、声の主はこの闇夜のなか、道行く人に使い捨てカイロを配っていた。

昼間、同じ道を通るとそこは美容室の店先なので、たぶんカイロを配っているのはその店の美容師なのだろうが、せっかくのカイロには店名も何も書かれていない。店の広告らしきものもない。

初めて出会う人にとっては、まったく謎の人物である。綱島に来てから、このような地域の人々の優しさに度々出会う。

カイロを握りしめ、参道から延びる長い列に加わり、今年もなんだかんだいい一年だったことを感謝しながら本殿を目指す。

境内では町内の小学生たちがお囃子を奏でたり、獅子舞が参拝客に舞を披露している。厳かで優しい雰囲気に満ちた、この時間が私は大好きだ。

古いお札を納め、また新しいお札を受け、一年の平穏を願う。今年は実家の氏神神社に参拝予定だが、無事に出産を終え、綱島に戻った時は新しく加わった家族とともに、新年のあいさつに訪れたい。


【みなみ まいこ】
漫画家
nghtbee.oct1@gmail.com
https://twitter.com/maiko_oct1


私の漫画作品を投稿しているサイト
https://daysneo.com/author/373maiko/


同人誌の販売も行っています
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